クライフの変化
アヤックス戦の帰りのバスの中、ヘネス・バイスバイラーとギュンター・ネッツァーは対戦相手について話していた。ボルシア・メンヘングラッドバッハとアヤックスのトレーニングマッチはプレシーズンの定期戦化している。メンヘングラッドバッハはオランダに近く、今やヨーロッパ有数の強豪になったアヤックスは格好の相手だった。
「なんだろうね、あれは」
「ヨハン・クライフですか?」
「最初に見た頃と比べると、ちょっと迫力がなくなってないか?」
バイスバイラーは“定期戦”でアヤックスのエースに何度となく舌を巻いている。ドイツにはあまりいないタイプの選手だった。“白いペレ”とも呼ばれていたが、
「全然違うな」
この日、フレンドリーマッチで見たクライフに以前とはまた違った印象を受けている。技術的にはもともとハイレベルだった。世界的にもトップクラスと言っていい。とてつもなく頭のキレる男というのも変わらない。ただ、クライフは以前に比べるとゲームの組み立てに重きを置いているように見えた。
「迫力はわかりませんが、よりチームを助けるプレーをしているように感じましたが」
ネッツァーの見方はまた少し違う。たぶん同じものが見えているのだが、解釈がバイスバイラーとは違っていた。……
Profile
西部 謙司
1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。