FEATURE

坂本紘司社長が見据える「湘南スタイル」の先。9億円→28億円→「?」。次のビジョンとは?

2024.10.09

【特集】ベルマーレの生存戦略。
「残留力」「湘南スタイル」の先へ
#2

残留争いが佳境になってきた10月、毎年この時期に底力を発揮するクラブがある。23年の予算規模28億円と限られた資金力にもかかわらず、いつも土俵際で驚異的な踏ん張りを見せてきた湘南ベルマーレだ。中小クラブの「残留力」の根源にあるものは何か、坂本紘司社長率いる若い経営陣が目指す「湘南スタイル」の先にあるものに迫る。多くの日本人選手の目が「外」に向き、大きな岐路に立たされているJリーグを生き抜くためのベルマーレの生存戦略とは――?

第2回は、前回に引き続き坂本紘司社長インタビューの後編。クラブのトップとして目指す「湘南スタイル」の先にあるビジョンについて掘り下げてもらおう。

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「プラスアルファとして、判断力や状況を見てプレーする力を」

――坂本さんは6年半SDを務め、その間、曺監督と浮嶋敏監督、そして現在チームを率いている山口智監督と接してきました。3人の指導者から学んだことを教えてください。

 「皆さんに共通しているのは、サッカーが好きすぎるぐらい好きだということ。寝ても覚めてもサッカーのことを考えている。逆に言えば、そういう人が指導者の中で頭角を現して監督になるんだと思ったし、自分も強化の立場として同じぐらいサッカーに没頭し、勉強しなければいけないなと、それが一番思ったことですね」

――現役時代、「サッカー小僧」だった坂本さんから見ても熱量が違ったのでしょうか。

 「のめり込み方が違いますね。3人ともサッカーに対する探求心や情熱、選手を成長させたいという想いは、ちょっと自分は叶わないなと思うぐらい強いです。

 だからやはり僕は、仮に指導者を目指したとしても、監督として現場には立てなかったと思う。彼らはそれぐらい、ほんとに24時間サッカーについて考えている。僕もサッカー経験者でプロでもプレーしていたけど、もっと深く会話できるように、もっともっとサッカーを探求しなければいけないという気持ちが大きくなりました。だから中学生の時以来ぐらい、レベルを問わず毎日いろんなカテゴリーのサッカーを見たり、サッカーについて書かれている様々な本を読んだりしていました。一気にサッカー漬けになった6年半だったと思います」

――山口監督は2021年9月に就任し、現在に至ります。クラブとしては山口監督にどのようなことを求めているのでしょうか?

 「うちはそれまで、監督が示した戦術に対して愚直に一生懸命やるスタイルを長所として、一定の成果を挙げてきました。一方、課題として、試合中に刻々と変化する状況を見て、自ら判断し、プレーできる選手を育てなければいけない、増やさなければならないと感じていた。これはJ1で常勝と言われるクラブの選手たちの多くが備えているものですが、でも予算規模の小さいクラブだからといってできないことではないと思っていました。日々のトレーニングや意識で必ず選手は変われるし、技術も判断力も上がるだろうし、プレーの幅は絶対的に広がるはず。まずはそこに取り組まなければいけないと考えました。我々には『湘南スタイル』と呼ばれる、年月をかけて築き上げた素晴らしい土台がある。そこにプラスアルファとして、判断力や状況を見てプレーする力を肉づけしてほしいという話を山口にして、監督になってもらいました」

――時間を要する取り組みですね。

 「それはお互いにわかっていました。トレーニング1つとっても、ゴールを目指すことが大前提だけど、とりあえず前、ではなく、前に行くためにどういうプレーを選択するのか、相手を見てどこから攻めるのかという判断を選手に求める。それで言うと、ただ単に逃げるだけのバックパスはダメだけど、逆サイドに運ぶためのバックパスには意図があるし、そうやって空いているところから攻めてゴールに至るプレーもたくさんあるはずです。最初は戸惑ってしまったり、考え過ぎてプレーがノッキングしてしまうこともありました。なかなか結果が出なければ迷いが生じてしまうこともあるけど、やっていることは絶対に間違えていないし、選手は成長しているという話は、常に山口監督として、我慢して続けようと確認しながら取り組んできました。そうしてプレーの幅や判断の質は間違いなく高まってきた。昔に比べて選手たちは自立してきたし、さらに若い選手は成長著しく、ベテランも伸びている。みんな総合的にプレーの質が変わってきているという成果は間違いなくあると思います」

「山口監督は我慢強く選手を成長させてくれている」

――一方で、課題は?……

Profile

隈元 大吾

湘南ベルマーレを中心に取材、執筆。サッカー専門誌や一般誌、Web媒体等に寄稿するほか、クラブのオフィシャルハンドブックやマッチデイプログラム、企画等に携わる。著書に『監督・曺貴裁の指導論~選手を伸ばす30のエピソード』(産業能率大学出版部)など。