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プレミアリーグにおける成功のカギはネガティブ・トランジション。コンテ・チェルシーが起源の実験と革新は続く

2020.10.11

エキスパートが語る、プレミアリーグの5つの戦術トレンド

「ワイルダー・マインド」

 トップレベルにおいてイングランドのチームが勢力を増すと同時に、過去に例を見ないほどスタイル的な魅力も高まっている。これは同国2部のチャンピオンシップで成功を収めているチームと重なるトレンドだ。しかし、昨季ノリッチが残留圏内の17位に14ポイントもの差をつけられて最下位に沈んだように、プレミアリーグ昇格後もスタイルと成功を両立させるのは難しいことが大半。ハダーズフィールドはプレー哲学を放棄して1年目は生き延びることができたが、2019年には幸運が切れて降格を味わうこととなった。2015年に昇格してから魅力的なフットボールを展開し、評価を高めたボーンマスも、やがて不振に陥り、昨季は再び降格している。

 こうしたテンプレートを壊していったのが、シェフィールド・ユナイテッドだ。その指揮官であるクリス・ワイルダーは、名将が数多くひしめくリーグの中で最も革新的な指導者になったという強い論拠もある。

 ワイルダーがシェフィールドUを3シーズンで2度目の昇格に導くと、“オーバーラッピング・センターバック”は昨年から突然、イングランドの戦術談論における最大のバズワードとなった。これはワイルダーとアシスタントのアラン・ニルがリーグ・ワン(3部)時代に開発したシステムのことである。5バックで守り、攻撃の局面では中盤の底に配置された質の高いパサー、オリバー・ノーウッドがウイングバック(WB)のジョージ・ボルドックとエンダ・スティーブンスにボールを供給する。ここまでは普通の戦術だ。しかし、タッチラインまで目を向けてみると、イングランドにおいて伝統的なCBの番号である5番と6番をそれぞれ背負ったジャック・オコネルとクリス・バシャムが、それぞれのSBをさらに追い越して攻撃に厚みを加え、クロスを上げている様子が観察できるのだ。……

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アントニオ・コンテチェルシープレミアリーグペップ・グアルディオラユルゲン・クロップ戦術

Profile

ベン メイブリー

1983年、英国サマセット州・トーントン生まれ。プレミアリーグ、UEFAチャンピオンズリーグ、ベルギーリーグなどを担当するフットボール解説者。J SPORTS『Foot!』のプレミアリーグコメンテーターとして現在8年目。DAZN『Football Freaks』のレギュラーコメンテーター、スカパー!『Football TimeLine』のフットボールキュレーターを務め、『The Guardian』紙や『BBC』など英国メディアにも寄稿する。オックスフォード大学卒。

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