「データ×アカデミズム」を追求する、ボロノイ図に魅せられた大学院生
2018年5月に創設されたフットボリスタのオンラインサロン「フットボリスタ・ラボ」。国外のプロクラブで指導経験を持つコーチに部活動顧問といった指導者から、サッカーを生業にこそしていないものの人一倍の情熱を注いでいる社会人や大学生、現役高校生まで、様々なバックグラウンドを持つメンバーたちが日々、サッカーについて学び合い交流を深めている。この連載では、そんなバラエティに富んだラボメンの素顔とラボ内での活動、“革命”の模様を紹介していく。
今回は、「ボロノイ図と空円を用いたサッカーにおける選手配置の評価」をテーマに大学院で研究をしていた白戸豪大さん。ラグビーなどの他競技経験やフランス留学を経てサッカー界でのキャリアを目指す彼に、サッカー研究に至った経緯やラボでの活動について聞いた。
サッカー研究に行き着いた元ラガーマン
──まずは簡単な自己紹介をお願いします!
「生まれが静岡の沼津で、小学校から浦和に引っ越し、中高大とそこに住んでいました。その後大学の3年生から2年間フランスのナントへ留学して、日本に帰ってきて大学院の修士課程に入って、そこでスポーツアナリティクス、サッカーデータを使った分析を修士論文のテーマとして扱っていました。去年の9月に修士課程を終えて、現在は海外博士に向けて準備をしています」
──白戸さんってラグビー出身ですよね?
「小学校の時はサッカーをやっていました。浦和の駒場スタジアムが徒歩10分くらいのところだったので、サポーターとしてゴール裏に行ったりもしてました。ただ小学校4年生の時に盲腸が悪化して腸閉塞になり、練習ができなくなって。病院から退院する時、体重も同学年の平均体重の半分くらいになっちゃったんですね。その後サッカーの少年団に戻ってきたら、もちろんみんな体力はしっかり向上してますし、戦術的なことに関してもちょうどその頃から始めるじゃないですか。みんなトレセンとかで習った言葉を使ってて何言ってるかわからない状態でした。それで自信を失っていって、中学校はソフトテニス部に入りました」
──ラグビーは高校からですか?
「そうです。その後、高校でラグビーをやりました。やっぱり集団スポーツをやりたかったんですね。最終的には県大会ベスト4まで行きました。僕は1年生の時に鎖骨を折ったり、腰の分離症とかヘルニアもあってあまり試合に絡むことはなかったんですけど。ただその中でも、入った時体重が60kg弱だったのが、終わる頃には体重75kgまでトレーニングや食事で増やせたので、世界観が変わったというか、自分でもここまで体力を増やしたりできるんだと思いました」
──その後慶應大に進学されて、今はサッカーの研究をされているわけですけど、何がきっかけでサッカーに興味が戻ったんですか?
「僕が大学1年生の時、2013年くらいですね、Twitter上でサッカーやラグビーの戦術クラスタ的な人たちのツイートを見て、高校までのスポーツ観が変わりました。さらにその時レッズがちょうどミシャサッカー2年目で勢いがあって、その戦術がTwitter上で解説されていたりして。それが面白くて、どこかでサッカーの研究とかスポーツに関わる仕事がしたいなと思い始めました」
──フランスに留学されたのが、大学3年の時でしたっけ?
「はい。3年まではサークルにも部活にも入ってなくて、やることといったら週末レッズの試合を見に行って、そのためのお金を稼いでバイトをして、の繰り返しでしたね。それでこの生活は良くないなと思って、留学を決めました。ちょうどその時、交換プログラムみたいなのがあって、そこでナントは比較的フランス語がわからない人たちにも優しいという評判があったんですね。僕はフランス語ゼロで行ったのでそこが大きかったですね」
──どういう勉強をされてたんですか?
「勉強としては1年目に理工学部の初歩的なことを授業で受けながら、フランス語も勉強していくという形で、最初はかなりハードでした。授業で言っていることがわからないという状態からスタートしましたから。2年目はちょっと余裕が出てきて、専攻としてVRを取りました。あと半年現地の企業にインターンもしました。日本とまったく違う働き方を体験できてよかったと思います」
──それでフランスから帰ってきてからは、慶應の大学院に入って。
「そうですね、理工学研究科というところに入って。帰ってきて1年目に、データスタジアムさんのスポーツデータコンペに出たんですが、かなりタイトなスケジュールでやってたので、十分に分析できなくて悔しい感じで終わったんですね。そこからサッカーの研究がやはり面白いなと思っていろいろ情報を追っていたら、フットボリスタWEBで結城康平さんのボロノイ図の記事を見つけまして」
──それでボロノイ図を使った研究に行きついたわけですね。
「そうです。その後、先ほどお話ししたスポーツデータコンペに2年目も出ようということになりまして、そこでボロノイ図を使おうと。ただボロノイ図だけでいくのは限界を感じていて、プラスアルファで何か加えないといけないと思っていました。そんな中で、たまたま就活イベントで企業の人と話した時に自分の研究について発表する機会があったんですけど、ボロノイ図の話をしたら、『ボロノイ図を使う時は、空円(くうえん)も使うとさらにいいよ、そうするとボロノイ図のエリアだけじゃなくてどこにスペースがあるかも可視化できるようになるから』という話をしてもらって。それで実装してみたら、けっこううまいこといって、そのコンペではサッカー部門優秀賞をいただくことができました。他の分野とこうやって繋がるんだな、あらためてサッカーって奥深いなと思いました」
音声・映像コンテンツを作りたい
──その中でフットボリスタ・ラボに入ったきっかけというのは何だったんですか?
「いろいろあったと思うんですけど、結城さんの記事を読んだのは大きなきっかけでした」
──白戸さんはラボでもいろいろと活動してもらってますけど、実際どうですか?
「僕はオンラインサロンも初めてだったので最初は様子を見ていた感じだったんですが、ありがたいことにフットボリスタ・ラボのnoteを書かせていただいたり、本誌にも記事を書かせていただいたりすることができて。そこから周りからのフィードバックももらえましたし、そこ経由で仕事に繋がっているところもあって、すごくいい経験をさせていただいています」
──記事にはどういうフィードバックがありました?
「やっぱり『難しい』というのはありました(笑)。ただ、新しい見方をしていて面白いっていうお褒めの言葉もいただいて。もっと幅広い人に伝えるために、表現の方法とかを勉強しないといけないなと思いましたね」
──あと具体的な仕事にも繋がったんですか?
「僕の高校時代のラグビー部の先輩がある社会人ラグビーチームのアナリストをやっていて、その人もフットボリスタを買って読んでるらしいんですけど、その人から『IT系に強いんだったら一緒にスポーツデータを使ってやらないか』という話をいただいて。そこで、僕の研究室の後輩が卒論のテーマを探している状況だったので、じゃあ卒論のテーマとしてその先輩とその後輩が一緒に共同研究するのはどうだろうっていう橋渡しみたいなものをしました」
──なるほど、記事が知り合うきっかけになったんですね。あと、ラボでのイベントや活動で記憶に残っているものはありますか?
「そうですね、毎回勉強になってるんですが、特にオランダでフィジオセラピストをされている、相良浩平さんのイベントですかね」
──相良さんのイベントは難易度が高くないか心配だったんですけど、良かったです(笑)。
「僕は時間があっという間に過ぎていく感じでした。無意識に働きかけるためにはどうトレーニングをデザインするかみたいなお話だったんですけど、僕はトレーニングの現場を直接見る機会はないので興味深くて。あと平野将弘さんのトレーニングを自分で作ってみるイベントも現場を知る機会になりました。今後自分がサッカーに貢献するにあたってもトレーニングとゲームを繋げていく流れを知ることが必要だと感じて、トレーニングの方も勉強しなきゃなと思いましたね」
──白戸さん自身も、Python(パイソン)の勉強会を開催していただきましたよね。
「そういう機会もありましたね。これからもラボ内での活動を広げることができたらと思います」
──今後は、研究を続けられるんですか?
「ちょうど博士課程に向けて準備しているところで、今可能性があるのがアメリカとドイツ、フランス、オランダで、9月から行けたらいいなっていう希望ですね」
──将来的には向こうの会社に就職したりとか?
「将来的にはスポーツチームに入って仕事をしたいです。あと今ポッドキャスト、YouTubeをやってるんですけど、そこでボリスタ・ラボの人と絡めたら面白いかなと思います。ラグビーについて2本、サッカーの歴史について2本くらい作ったんですけど、今後はさらに面白い話題、戦術的ピリオダイゼーションやポジショナルプレーの話もできたらと考えています。フットボリスタも、やっぱり世間の評価では難しいというイメージがあると思うんですけど、音声や映像を使うことで、そこの橋渡しもできるようになるかもしれないので」
──そのあたりは、ぜひボリスタ・ラボでもやっていきたいので力を借りたいですね。
「僕も微力ながらできることがあればやろうと思っているので、よろしくお願いします」
──ぜひぜひ。今回はありがとうございました!
フットボリスタ・ラボとは?
フットボリスタ主催のコミュニティ。目的は2つ。1つは編集部、プロの書き手、読者が垣根なく議論できる「サロン空間を作ること」、もう1つはそこで生まれた知見で「新しい発想のコンテンツを作ること」。日常的な意見交換はもちろん、ゲストを招いてのラボメン限定リアルイベント開催などを通して海外と日本、ネット空間と現場、サッカー村と他分野の専門家――断絶している2つを繋ぐ架け橋を目指しています。
フットボリスタ・ラボ22期生 募集中!
入会手続きやサービス内容など詳細は下記のページをご覧ください。
https://www.footballista.jp/labo
皆様のご応募を心よりお待ち致しております。
Edition: Mirano Yokobori (footballista Lab), Baku Horimoto (footballista Lab)
Photo: Getty Images
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Profile
浅野 賀一
1980年、北海道釧路市生まれ。3年半のサラリーマン生活を経て、2005年からフリーランス活動を開始。2006年10月から海外サッカー専門誌『footballista』の創刊メンバーとして加わり、2015年8月から編集長を務める。西部謙司氏との共著に『戦術に関してはこの本が最高峰』(東邦出版)がある。