8月8日、早くも2020-21シーズンが開幕するロシアプレミアリーグ。今季は、日本代表MF橋本拳人の挑戦によりますます注目したいリーグとなった。その橋本が加入したFCロストフとはどんなクラブなのか。街の様子からクラブ事情まで、篠崎直也氏に綴ってもらう。
ロストフという街の名前は、2年前のロシアW杯で日本代表がベルギーに敗れた地として記憶に刻まれているだろう。FCロストフの本拠地であるこの街はウクライナとの国境にほど近いロシアの南西に位置し、正式名称は「ロストフ・ナ・ドヌ」。「ドン川のほとりのロストフ」という意味で、モスクワの北東にある古都ロストフと区別するためにこのように名付けられた。W杯の際にはスイスやスペインのサポーターが誤って後者の街に到着してしまう「悲劇」が起こったが、一般的にロストフと言えば南部最大の都市である「ロストフ・ナ・ドヌ」を指す。ロシアでは比較的温暖な地域で、郊外には果てしなく小麦畑が広がる。夏は酷暑になる期間もあり、W杯で訪れた時は温度計が40℃を超えていた。
ロストフのシンボルはドン川流域を拠点に暮らしたコサックだ。勇猛果敢なコサックの騎馬隊は地元民の誇りであり、その生活の様子はノーベル賞を受賞したショーロホフの小説『静かなるドン』でも描かれている。W杯開催に合わせて建設された真新しい空港にはこの小説の一節が壁に刻まれ、コサックの歴史が映像のインスタレーションで紹介されている。一家の血を絶やさないために兄弟のうちの1人は徴兵せずに家に残していたコサックの伝統からもわかるように、家族の絆が非常に強い土地柄である。……
Profile
篠崎 直也
1976年、新潟県生まれ。大阪大学大学院でロシア芸術論を専攻し、現在は大阪大学、同志社大学で教鞭を執る。4年過ごした第2の故郷サンクトペテルブルクでゼニトの優勝を目にし辺境のサッカーの虜に。以後ロシア、ウクライナを中心に執筆・翻訳を手がけている。