「PPDA」とは何か?ハイプレスの強度を測る新たな守備の指標
サッカーの定量データは日々進化しており、「ゴール期待値(xG)」や「パッキング・レート」など新しい指標が次々と誕生している。今回はプレッシングの強度を測る指標として注目されている「PPDA」について、カーディフでコーチを務めていた平野将弘氏が解説する。
プレッシングは決して新しいサッカー戦術ではない。その導入は1960年代半ばにさかのぼる。64年にロシア人コーチのビクトル・マスロフがディナモ・キエフの監督に就任し、当時ではかなり画期的な強度の高いプレス戦術を採用してチームの基盤を作った。同時期にオーストリア史上最も優れた監督との呼び声も高いエルンスト・ハッペルが新たな近代的なプレッシング戦術を発明し、70年にフェイエノールトでチャンピオンズカップ(現CL)とインターコンチネンタルカップを制した。のちのトータルフットボールで有名になったリヌス・ミケルスも彼に影響を受けている。時代を経るにつれて、できるだけ高い位置でプレッシングし、相手ゴールに近い場所でボールを取り返すための戦術が考えられるようになっていった。
日本でも枠内シュート率やパスマップ、xG(ゴール期待値)など、ボール保持時や攻撃に関するスタッツをよく見かけるようになった。だがプレッシングに関する数値やデータはどうだろうか? 現代サッカーでは守備戦術が著しく発達し、プレーリズムの高速化により攻撃と守備の局面の境界線が消えかけている。
こうした流れの中で、「ネガティブトランジション」と呼ばれる攻撃から守備へ移行する局面で、ボール奪取の成功率を上げるために独自のアプローチを行うチームが増加した。「ゲーゲンプレッシング」や「ハイプレス」「6秒ルール」など、それを表す新しい言葉もできた。しかし、ハイプレスを数値化する測定方法の模索は続いていた。
PPDAの計算式
欧州では今から5年前、クロップがドルトムントでの指揮に苦しみ始めた頃に新たな守備の指標が誕生した。「Passes Allowed Per Defensive Actions」(パスごとの守備アクション値)。略して「PPDA」と呼ばれる。ハイプレスの強度を測る指標として、コリン・トレイナー氏によって発明された。数値を出すために使う守備のアクションは以下の4つ。
・タックル
・インターセプト
・ファウル
・チャレンジ(失敗したタックル含む)
PPDAを算出するにはチームが許したパス本数(相手チームが試みたパス本数)を上記のチームの守備アクションの回数で割る。
この指標では、相手にボールを持たせるチームは高い値を記録し、反対に積極的なプレスを披露するチームは低い値になる。ちなみに2013-14シーズンの5大リーグで最も低いPPDAを記録したのはグアルディオラ率いるバイエルン。対して最も高かったのはトニー・ピュリス率いるクリスタルパレスだった。互いに監督の哲学がはっきりと表れている。
次に、ピッチのどのエリアのパス本数と守備アクションをカウントするのかを見ていこう。
発明者のトレイナー氏は、自陣のゴールからピッチ全体の40%の位置に線を引き(上図のx=40)、そこから相手ゴールまでを測定エリアに定めた。すべての相手陣地と自陣ミドルサードを部分的に含んだピッチの5分の3のエリアが測定エリアに含まれる。
この測定エリアを決める際、現在ボルシアMGのアシスタントコーチを務めるレネ・マリッチにアドバイスを求めたとトレイナー氏は述べた。ピッチ中央のx=50を境界線にしなかった理由は、敵陣で強度の高いプレッシングを行ってボールを奪い返したチームを正しく評価するためだ。かといってピッチを3分割(x=33)すると、守備側のアプローチや戦術がかなり変わってしまうので、x=40が一番適した境界線だと判断したという。よってすべてのPPDAはx=40を境界線とし、その線より高い位置で起きた相手チームのパス本数と自チームの守備アクション数を使い、守備時のハイプレスの強度を測っている。
PPDAで見る欧州主要リーグの戦術トレンド
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Profile
平野 将弘
1996年5月12日生まれ。UEFA Bライセンスを保持し、現在はJFL所属FC大阪のヘッドコーチを務める。15歳からイングランドでサッカー留学、18歳の時にFAライセンスとJFA C級取得。2019年にUniversity of South Walesのサッカーコーチング学部を主席で卒業している。元カーディフシティ