ストライカー×チーム戦術のケーススタディ:ミラン
FWの選手にも得点以外の様々な戦術的タスクが課されるようになった現代サッカー。ただ、それぞれが与えられる役割やその程度はチームの方針や個人の特徴によって変わってくる。チームの戦術の中でストライカーは何を求められプレーしているのか、明らかにしていく。
ミランでは毎年のようにFWが変わる。彼らの習慣なんだろうさ――。
2月、ミランからヘルタ・ベルリンに移籍したピオンテクはドイツの地元メディアにこう吐き捨てた。心情としてはわかるところである。7年半ぶりに古巣に復帰したイブラヒモビッチに追われるようにして、たった1年で売却の憂き目に遭ったのだ。だが38歳の大ベテランFWの獲得は成功だった。少なくとも短期的には、ミランの前線の問題を解決してしまった。長身で体躯も強いが、イブラヒモビッチの持ち味は前線に張らないことにある。ピオーリ監督はその特性を生かすべくチームを作り替えた。
システムは[4-2-3-1]あるいは[4-4-2]。チームがポゼッションに入った時、イブラヒモビッチは前線から1列下に落ちてボールを受ける。時に前を向き、時にDFを背負いながら、1タッチか2タッチでボールを回す。その周囲には、走れる選手たちを配備。右にはカスティジェホとコンティ、左にはチャルハノールやレビッチにテオ・エルナンデスを使ってサイドを破らせる。イブラヒモビッチは実質的に、彼らにパスを供給する前線の組み立て役として機能した。イブラヒモビッチの獲得はCFというよりも、トップ下としての適任者がおらず、前線のクオリティ不足に悩まされたチームの問題を解決するための手段として考えられた意味合いが強いのだろう。これは、ピオンテクにはできない芸当だった。
もちろん、エリア内に入れば得点面でも力を発揮する。スピードこそ落ちているが、経験によりボールのこぼれるところを嗅ぎ分けるセンスはむしろ冴えているのではないか。巧みなポジショニングでDFの視野から消え、触られたくないところでボールを触ってくる。上背の高さを生かしたヘディングや、まさかのタイミングで合わせてくるシュートが相手CBの脅威となるのだ。
Photo: Getty Images
Profile
神尾 光臣
1973年福岡県生まれ。2003年からイタリアはジェノバでカルチョの取材を始めたが、2011年、長友のインテル電撃移籍をきっかけに突如“上京”を決意。現在はミラノ近郊のサロンノに在住し、シチリアの海と太陽を時々懐かしみつつ、取材・執筆に勤しむ。