リレーコラム:「サッカーとは何か」を考える。#4 結城康平
6月1日、林舞輝著の『「サッカー」とは何か』、山口遼著の『最先端トレーニングの教科書』が同時発売した。2冊ともに、欧州で進んでいるアカデミックな理論体系(戦術的ピリオダイゼーションや構造化トレーニング)を読み解き、実践することをコンセプトにしている。こうした理論のバックボーンになっているのは「サッカーとは何か」という根源的な問いかけだ。そこでこの2冊を読んだ様々な論客にあらためてこのテーマについて聞いてみた。
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最初に一言、断りを入れておきたい。
もともとの予定では「サッカーとは何か?」という壮大な課題に、数人のサッカー関係者が挑むというシリーズのラストという大役を任された私が「ポジショナルプレー」を題材とした文章を寄稿する予定だった。しかし、残念ながら『「サッカー」とは何か』と『最先端トレーニングの教科書』の2冊を読了した時、私の脳内にはまったく別のテーマが浮かんでいた――「生物学」だ。「お前は何を言っているんだ?」と思われたかもしれないが、ぜひここからの実験的な放談にお付き合い願おう。
「イワシの群れ」は考えないで“シンクロ”する
東大ア式蹴球部の監督であり、聡明な頭脳でフットボールを解析する山口遼氏の著作から一節を引用しよう。
「このような実験を通して、イワシの群れをコントロールしているのは高度に訓練されたリーダー格のイワシでも、あるいはイワシ独自に培われたテレパシーでもなく、本能に組み込まれた拍子抜けするほど単純なルールだった」
詳しくは『最先端トレーニングの教科書』を手に取ってもらいたいのだが、シンプルなルールによってイワシの群れが1つの大きな魚のように整然とした集団行動を行って他の魚を威嚇する現象を例に、複雑系にシンプルなルールを課すことで自己組織化が促進されると述べている。つまり要約すれば、戦術的ピリオダイゼーションとはシンプルなルールの積み重ねによってチームを束ねるトレーニングメソッドだ。
イワシは緻密なルールに縛られるのではなく、あくまでシンプルなルールを組み合わせることで状況に対応していく。だからこそ、フットボールにおける「戦術に縛られてしまう」という状況には繋がりにくい。ポルトガルで最先端のフットボール理論を学び、現在は奈良クラブの指揮官として活躍する林舞輝氏は、『「サッカー」とは何か』の中で「シンクロした状態」という言葉を使っている。個々の選手が組織としてルールを共有し、まるで1つの生物のように機能する。それは確かに、フットボールにおける理想だろう。
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Profile
結城 康平
1990年生まれ、宮崎県出身。ライターとして複数の媒体に記事を寄稿しつつ、サッカー観戦を面白くするためのアイディアを練りながら日々を過ごしている。好きなバンドは、エジンバラ出身のBlue Rose Code。