『「戦術脳」を鍛える最先端トレーニングの教科書』から一部抜粋
好評発売中の『「戦術脳」を鍛える最先端トレーニングの教科書』(著:山口遼)は戦術的ピリオダイゼーションに基づいたトレーニング構築の「理論」と「実践」がメインテーマだが、もう1つの切り口として「ゲームモデルで読み解く新・観戦術」として、新しい分析法の提案を行っている。その中から、アンジェ・ポステコグルー監督率いる横浜F・マリノスを「ゲームモデル」の観点から掘り下げた論考を特別公開!
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横浜F・マリノスは、ゲームモデルの存在を確かに感じる一方で、ゲームモデル型のマネージメントを行うチームの中ではかなり自由度が高いチームだ。それこそが時折不安定な面を覗かせつつも、非常にバリエーション豊かな攻撃でその他のチームを圧倒し、2019シーズンのJリーグを制することに繋がったと考えている。
ポステコグルーが監督に就任してからのマリノスの基本的な特徴は、とにかく相手に息つく暇を与えないハイテンポなゲーム展開にある。ボールを支配して相手にとって嫌なポジショニングを取りつつもバーティカルに相手の急所に侵入していく攻撃、ボールを失った瞬間から相手に襲いかかるようなアグレッシブな守備と、それぞれの局面に関して自分たちのバランスを保ちつつもギリギリまでテンポを上げ、相手に認知のミスを誘発するという意味では、マンチェスター・シティとリバプールの中間をとって少しだけ不安定さを足したようなプレースタイルと言えるかもしれない。
自分たちのバランスを保ちつつ相手を混乱させるためのマリノスの選手たちの配置構造で最も重要なのは、「ポジションチェンジ」を積極的に行うことだ。ポジションチェンジと言っても、日本のチームでよく見られるような片側のサイドにフィールドプレイヤーのうち8人が集まってしまうような無秩序なものではない。マリノスにおけるポジションチェンジの本質は、「いなくなってはいけないスペース」と「入れ替わり」の2つのキーワードで説明できる。……
Profile
山口 遼
1995年11月23日、茨城県つくば市出身。東京大学工学部化学システム工学科中退。鹿島アントラーズつくばJY、鹿島アントラーズユースを経て、東京大学ア式蹴球部へ。2020年シーズンから同部監督および東京ユナイテッドFCコーチを兼任。2022年シーズンはY.S.C.C.セカンド監督、2023年シーズンからはエリース東京FC監督を務める。twitter: @ryo14afd