ポルトガルをタイトルへと導いた“テクニック+α”
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EURO2016で悲願の初タイトルを掲げ、2018-19には新たに創設されたUEFAネーションズリーグの初代王者に輝いたポルトガル代表。そのプレースタイルの特徴を、クリスティアーノ・ロナウドをはじめとしたゴールゲッターの系譜とともにプレーバックする。
CR7の時代
ポルトガル代表の歴史を3つに分けると、1966年イングランドワールドカップで3位になったエウゼビオの時代が最初の黄金時代、次はルイス・フィーゴ、マヌエル・ルイ・コスタ、パウロ・ソウザらのワールドユースを連覇した黄金世代が中心になった1990年代、そしてEURO2004から現在まで続くクリスティアーノ・ロナウドの時代になる。
伝統的にテクニックが優れている。ブラジルとの関係が深いせいか、ボール扱いの巧さはヨーロッパではトップクラスだ。オランダと並ぶウイングプレーヤーの名産地でもあり、パウロ・フットレ、フェルナンド・シャラーナ、ルイス・フィーゴ、リカルド・クアレスマなど名手も生み出している。ただ、持ち前の技術の高さを結果に変えるゴールゲッターが慢性的に不足していた。
いなかったわけではない。むしろ、いる時には飛び抜けたストライカーがプレーしていた。1965年のバロンドールを受賞したエウゼビオは60年代最高のゴールゲッターで、代表41ゴールはロナウド、ペドロ・パウレタに次ぐ3位だが、1試合あたりの得点率は0.64とロナウドの0.6を上回っている。
1位ロナウドと3位エウゼビオに挟まれた通算得点2位のパウレタは、そこまで強力なFWではなかったものの、そつなくコツコツと得点を重ねている。ただ、ざっくり言えばエウゼビオ以降のポルトガルは常に決定力不足だった。
初タイトルはまだ記憶に新しい2016年のEUROである。新設のUEFAネーションズリーグでも優勝した(2018-19)。
2つのタイトルを立て続けに獲得できた要因の1つは、間違いなくロナウドの存在がある。バロンドール5回受賞、マンチェスター・ユナイテッド、レアル・マドリー、ユベントスと栄光に包まれたキャリアは比類がなく、21世紀のスーパースターだ。伝統的な技術の高さに、ロナウドほどのスーパースターを擁していて弱いわけがない。ロナウドがレギュラーポジションをつかんだEURO2004で準優勝、2006年ドイツワールドカップでベスト4、2012年のEUROでもベスト4と、ヨーロッパの強豪としての地位を確立していった。
ただ、悲願の初タイトルとなったEURO2016が「ロナウドの大会」だったかと言えば、実はそうではない。決勝のフランス戦、ロナウドはわずか17分で負傷交代している。
グループステージはアイスランド、オーストリア、ハンガリーとの3試合すべて引き分けだった。それでもグループ3位の中での上位枠でノックアウトステージに進むと、それまでの攻撃的なスタイルから一変して守備的にシフト。クロアチアに延長の末に1-0、ポーランドをPK戦で破り、準決勝はウェールズに2-0だったが、決勝はまたしても延長での1-0。結局のところ、ポルトガルは守備力で初のメジャータイトルを獲得していた。
ゴールゲッターがいれば強い。だが、エースに頼り切りでもチャンピオンにはなれない。EURO2016のポルトガルにはロナウドがいたが、ロナウドに頼らなかった。だから優勝できたのかもしれない。
ポルトガルの裏の顔
EURO2016、グループステージのポルトガルは攻撃型のスタイルだった。ロナウドとルイス・ナニーの2トップ、あるいはクアレスマも加えた3トップ。しかし、ボールは支配するが攻め手はハイクロスからのロナウドのヘディングシュート、あとは散発的なミドルシュートぐらい。
パスワークのレベルで言えば、スペインとドイツに次ぐ力はあった。[4-4-2]でプレーしたアイスランド戦では、トップ下のジョアン・モウティーニョがアンカーの位置まで引いて組み立て役となり、CBとアンカーの3人を後方に残して、SBとMF3人で5レーンをすべて埋めて完全にボールを支配していた。モウティーニョのポジションを落とすのが独特で、かなり周到に作り込んできた形跡がうかがえた。
ところが攻撃型では結果が出ないと見切ると、ラウンド16からは人選も替えて守備型に舵を切った。フォーメーションは同じ[4-4-2]のダイヤモンド型ながら、プレースタイルを極端に変化させた。
フェルナンド・サントス監督でなければ、できない決断だったかもしれない。
ポルトを率いてリーグ5連覇を達成した時に「ペンタの技師」と呼ばれたサントスは、電気通信技師として働いていたことがあった。だから「技師」なのだが、冷静で粘り強い采配は2014年ブラジルワールドカップでも発揮されていた。この時に率いていたのはポルトガルではなくギリシャだ。
緒戦でコロンビアに完敗した後、第2戦の日本戦も退場者を出して敗色濃厚。しかし、日本の猛攻に耐えて0-0で引き分ける。この時点でギリシャがグループステージ突破すると思っていた人はいなかったと思う。だが、最終戦でコートジボワールに勝利してグループ2位で通過した。
EURO2016は、スペインやドイツなど攻撃型のチームが軒並み苦戦していた。サントス監督はその流れを冷静に読み切って方針を変更。守備型になってからのポルトガルは独特の強さを見せている。それはインターコンチネンタルカップがトヨタカップとして開催されている頃に、南米勢が見せていたのと同種の強さだった。
トヨタカップでは情報量の違いもあって、下馬評はたいがい欧州代表の優位だった。だが、フタを開けてみれば南米代表が食い下がって展開は互角、南米側が勝利することもあった。南米勢の強みは「ゲームの殺し方」である。
守備型のポルトガルは守備を固めるだけではなく、奪ったボールを簡単に渡さなかった。ボールをキープすることで押されがちの試合の流れをいったん変える。攻め続けるわけではないのでやがて相手の攻勢に戻るのだが、ポルトガルがボールを握るとその都度ブツブツと流れが切れる。これができるのは彼らに技術があるからだが、見た目は膠着状態の凡戦だ。
凡戦上等。隙を見せず、失点せず、一方的な流れにも傾かせない。実は以前に一度だけ、この隠された顔を見たことがある。2006年ドイツワールドカップのオランダ戦だ。
イエローカード16枚、退場者4人という大乱戦の末、マルコ・ファン・バステン監督率いるオランダを蹴落としてベスト8へ進んでいる。当時のルイス・フェリペ・スコラーリ監督はブラジル人、「コパ・リベルタドーレスを思わせる試合だった」とコメントしていた。南米ではありがちな乱戦だがヨーロッパでは珍しい。双方がヒートアップする中、ポルトガル人の方が“したたか”だったのを覚えている。相手の興奮につけ込んでファウルさせ、退場に追い込んでいた。
ただ、これ以前に喧嘩上等のポルトガルを見た記憶はない。むしろ極めてメンタルが弱いのが欠点だった。
ポルトガルで開催されたEURO2004、開幕戦でギリシャに敗れている。ギリシャにもう一度、決勝で敗れてしまうのだが、開幕戦のポルトガルは力の半分も発揮できていなかった。開幕前に街の声を拾ってみたら、「優勝」と言った人が実は1人もいない。むしろ「勝てるはずがない」「良くてベスト4」「優勝するのはドイツかイタリア」というネガティブな予想ばかり。ヨーロッパの西の端っこにあるポルトガルは、英国と同じく大陸とは時差がある。近代化も遅れ、ポルトガル人はEU加盟後も他国を「ヨーロッパ」と呼んでいた。自分たちもヨーロッパの仲間という自覚が薄いのだ。
ドイツ人やオランダ人のようなアグレッシブさは皆無で、ポルトガル人はだいたい優しかった。時間もゆっくり流れているように感じたものだ。スタジアムでもリードされると、途端に声が出なくなる。サポーターが心配顔で黙り込んでしまうのだ。スコラ―リ監督が大会前からしきりに「力をください!」と言っていたのもポルトガル特有の大人しさを危惧していたのだろう。
開幕戦で自滅的な敗北を喫した後、ポルトガルは何とか立ち直ってファイナルまで勝ち上がった。そこまでの復活劇は優勝に相応しいものがあったが、決勝では再びギリシャの徹底守備の前に沈黙させられた。このトラウマ的な敗戦は、サントスの守備型へのモデルチェンジとその後のふてぶてしい戦いぶりに、何らかの影響を与えていたのではないかと思う。
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恵まれた体躯を不断の努力によって磨き上げ、爆発的なスピードと跳躍力、相手を腰砕けにするフェイントからのシュートでゴールを量産するクリスティアーノ・ロナウドら現役7選手に加え、レジェンド枠としてポルトガルらしいスキルで相手を幻惑、卓越したビジョンでゲームを司る“魔術師”デコが大人気スポーツ育成シミュレーションゲーム「プロサッカークラブをつくろう!ロード・トゥ・ワールド」(サカつくRTW)に登場!
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商品名 :プロサッカークラブをつくろう!ロード・トゥ・ワールド
ジャンル:スポーツ育成シミュレーションゲーム
配信機種:iOS / Android
価 格 :基本無料(一部アイテム課金あり)
メーカー:セガゲームス
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Profile
西部 謙司
1962年9月27日、東京都生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、会社員を経て、学研『ストライカー』の編集部勤務。95~98年にフランスのパリに住み、欧州サッカーを取材。02年にフリーランスとなる。『戦術リストランテV サッカーの解釈を変える最先端の戦術用語』(小社刊)が発売中。