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【THIS IS MY CLUB】スポンサー、そしてサポーターとして――「SOPH.」代表取締役・清永浩文インタビュー

2020.06.29

DAZN  Jリーグ推進委員会」では「THIS IS MY CLUB – FOR RESTART WITH LOVE – 」と称し、スポーツ・サッカー専門の18メディアによる共同企画として、Jリーグ全56クラブ、総勢100人以上への取材を実施。J1再開を目前にした選手やスタッフにマイクラブへの想いを紹介する。

今回紹介するのは人気ファッションブランド「SOPH.」代表取締役の清永浩文氏。1999年から大分トリニータのスポンサーを務める他、同社が架空のフットボールチームを想定して立ち上げた別ブランド『F.C.Real Bristol』とJリーグのコラボウェアを今春に発売するなどサッカーとの関わりは深い。そんな清永氏はどのようにサッカーと向き合っているのか。

サッカー×ファッション

――今年2月に発表されたF.C.Real Bristol(以下、F.C.R.B.)とJリーグのコラボレーションTシャツ&パーカー発売が話題になりました。この企画はJリーグからのオファーで実現したものだと伺いました。

 「オファーしてくるのが遅いかなぁ~と(笑)。会社(SOPH.)を1998年に創業して、F.C.R.B.は1999年にはスタートしていますし、同年には(大分)トリニータのスポンサーにもなっています。選手やサポーターも着てくれていたので、存在は知ってくれていたと思うのですが」

――では、清永さんにとっては待望のコラボレーションということですね。

 「そうですね。フットボールが生活に溶け込むようなファッションを伝えることで、Jリーグを含め日本サッカー界に貢献できればという想いはずっと持っていたので」

――そうした想いは今回のコラボウェアにも反映されていますか?

 「自分のクラブを応援できて、街着にもなるようなデザインにしました。例えば会社や学校に着て行きにくい派手な色ではなく、さりげなく応援しているクラブのハートを感じることができるもの。なんと言うか……スマホの待ち受け画像を子供にするような感情に近いかな。そういうファングッズを提供したかった」

――購入者からの反響はありましたか?

 「SNSのハッシュタグを見ると『これを着てスタジアムに行きたい』という声が一番多かったですね。もともとのF.C.R.B.ファンの声に加えて、初めてうちの商品を購入してくれたJリーグファンから『こういうのを待ってました』という声もいただきました」

――Jリーグは「niko and …」ともコラボTシャツを発売するなど近年、サッカー×ファッションを意識しているようにも感じます。

 「Jリーガーはファッションに興味を持っている方が多いと思うのですが、元Jリーガーが(日本サッカー)協会やクラブのフロントに入り始めてよりその意識が高まっている気がしますね。世界的にもファッショニスタ的な有名選手が多いので、業界的な特徴でもあるかもしれません」

――F.C.R.B.は過去には「NIKE」や「コカ・コーラ」などコラボレーションに積極的な印象がありますが、相手を選ぶ基準はあるのでしょうか?

 「サッカー界に貢献されている会社。NIKEさんは2000年頃から本格的にサッカーに力を入れ始めた序章の時期に相思相愛のような形でタイミングが合って(コラボレーションが)スタートしました。コカ・コーラはワールドカップのオフィシャルスポンサーですし、Jリーグで言えば開幕期のヴェルディの胸スポンサーの印象が強いですよね。そういうところとはコラボするとファンも喜んでくれるかなと」

――そして、今年からスタートした複数のメディアで構成される「DAZN Jリーグ推進委員会」にも参加されることになったようですね。これはメディアとのコラボレーションだと捉えていますが、参加の経緯を教えてもらえますか?

 「まず1人のDAZNファンであること。ロゴもかっこいいし、ブランドイメージもいい。それに、今DAZNさんがJリーグから離れたら大変じゃないですか(笑)。だから、協力したいというのが一番です」

――同委員会ではJリーグを盛り上げるためのアイディアを議論していますが、清永さんが挑戦されたい企画などはありますか?

 「違う目線を提供できたらいいなと思います。『ベスト応援』や『ベスト入場シーン』でもいい。素人目線ながらもサッカー通も唸るようなものができれば」

――普段サッカーを観戦される際はニッチな部分に注目するタイプですか?

 「ダイジェスト映像ではゴールシーンを中心としてパッケージで紹介されることが多いですが、スタジアムで観戦するとサイドチェンジなど現地にいたからこそ感じることができる、湧き上がるプレーってあるじゃないですか。日本のサッカーは、キャプテン翼の影響もあるかもしれませんが、トップ下というか、アシストの文化と言うか、ゴール以外に美学を感じることが多い。僕らのビジネスにも共通しますが『そこを見てくれているんですか』みたいな部分を誉められるとうれしいと思うんですよね」

「一番面白いサッカーだった」

――ここからはスポンサーをされている大分トリニータとの関係について伺わせてください。まずはスポンサーになられた経緯を教えてもらえますか?

 「ありがたいことにF.C.R.B.は立ち上げ1年目の1999年から順調だったんですよ。サッカーであげた利益はサッカーに捧げたいなと考えていたら、『おらが町にもサッカークラブがあるじゃん』って見つけたのが大分トリニータ。大分は2002年の日韓ワールドカップの開催地でもあり、県としてもトリニータがJ1に昇格することは使命でした。だから応援したくなって、こちらからクラブに『スポンサーしたい』って連絡を入れたのが最初です。クラブの人は『そんなこと言われたのは初めてです』と戸惑っていましたが(笑)」

――その話を聞いて腑に落ちたのですが、SOPH.さんは大分トリニータのスポンサーとしてのアクティベーション事例が少ない。広告効果など、スポンサーとしての見返りを求められていないということでしょうか?

 「まったくないということもないですけど(笑)。ただ、Jリーグクラブのスポンサーをやられている企業で費用対効果を強く意識されているところはあまり多くないと思います」

――毎年のスポンサーフィーも独特な基準で決定されていると聞きました。

 「成績に応じて上下させています。J1で活躍した翌年にはユニホームの袖スポンサーになったかと思えば、J2時代は看板1枚にした時もあった。株価みたいな感じ(笑)。けど、矛盾するかもしれませんが私個人としては無理してJ1に固執する必要はないと言い続けています。J2でも何でもいいのでチームの存続が最優先。特にトリニータは一時期(存続が)危ない時期もあったので、余計にそう考えています」

――そして、今シーズンは昨年の躍進を踏まえてユニホームスポンサーに復帰されています。

 「今年は私の中ではドンといきました。昨シーズンは99年からスポンサーをやっている中で一番面白いサッカーだったので。こんな地方クラブでも魅力的なサッカーをするのは夢があっていいなと。片野坂監督も選手も残ってくれましたからね」

――2008年にナビスコカップ(現ルヴァンカップ)を優勝したチームよりも魅力的ですか?

 「そうですね。溝畑(宏・元大分トリニータ代表取締役)さん時代はウェズレイなど実績のある外国人選手や将来有望な若手も多くいましたが、今はそういうチームではないのに結果を出している点は評価されていいと思います」

昨シーズン、優秀監督賞を受賞した片野坂知宏監督

スポンサーへの意識

――ビジネスとしてよりもクラブ愛を根拠にスポンサーをされている側面が強い清永さんですが、本業におけるコロナウイルスの影響とは無縁ではいられないと推測します。そうした中で今後、スポンサーとしての在り方に変化はありますか?

 「繰り返しではありますが、費用対効果をそんなに求めているスポンサーは決して多くないと思います。ただ、クラブも大変だけど、スポンサーも大変な状況にあることを理解してもらえるとうれしいです。この中断期間は選手によるYouTube等を使った情報発信が盛んでしたが、あくまで個人の活動という感じで、クラブやステークホルダーを意識された情報発信は、私が知る限りはありませんでした」

――大分トリニータだけにかかわらず各クラブの営業収益におけるスポンサー収入が占める割合は大きいですし、スポンサーへの意識はコロナウイルスによる中断を機に考え直すタイミングかもしれません。

 「那須(大亮)君にも電話したんですよ。『スポンサーを大事にすることを話す動画をやってくれ』って。彼がYouTubeを流行らせたところもあるので(笑)」

――長年、見返りを求めないスポンサーであり続けた清永さんだからこそ、相手が聞く耳を持てるご指摘だと思います。

 「今一度Jリーグが置かれている状況を考えてもいい時期だと思います。YouTubeで過去の話をするものいいですが、もっとポジティブな思考で未来を見据えたアクションを期待したいですね」

――では、未来の話として最後に今シーズンのトリニータについて期待することをお聞かせください。

 「トリニータは基本、J1残留を目指すクラブ。けど、今シーズンは降格がないので昨年とは違って余裕を持って観戦できそうです。ただ、来季は降格するクラブ数が増えるかもしれないし、そうなると今シーズンは基礎を固めることが目的になるかもしれないですね」

――昨シーズンの躍進を考えればもっと高い期待をお持ちなのかと思っていました。

 「ACLなんて行ったらお金ないじゃないですか(笑)。上位を狙ってくれるのはうれしいですけど、あと何年J1でトリニータを見られるかなというのが正直なところですね。最近はレノファ山口のようなJ2に多くの選手を輩出するクラブも出てきていますが、トリニータもそういう流れが増えてくるのではないかと。藤本(憲明)とかオナイウ(阿道)みたいな成功例もありますし」

――トリニータ経由のステップアップ移籍はネガティブではないのですね。

 「全然ネガティブじゃないです。地方クラブでビッグクラブになるのは難しい。育てて売って、移籍した選手がビッグネームになって引退前に戻ってきてくれるようなクラブでいいのかなと思いますね」

HIROFUMI Kiyonaga
清永浩文

1967年大分県生まれ。洗練された日常着を目指し98年「SOPH.」を設立 (2002年にSOPHNET.へ改名)、翌99年には架空のフットボールチームを想定した「F.C.Real Bristol」を、2008年にはメンズウェア(ユニフォーム)の実験的プロジェクト「uniform experiment」をスタートするなどチャレンジングな戦略でシーンを牽引し続けている。2020年7月末には渋谷の新たな複合商業施設「ミヤシタパーク(MIYASHITA PARK)」内に新店のオープンを控えている。

Photo: Getty Images

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Profile

玉利 剛一

1984年生まれ、大阪府出身。関西学院大学卒業後、スカパーJSAT株式会社入社。コンテンツプロモーションやJリーグオンデマンドアプリの開発・運用等を担当。その後、筑波大学大学院でスポーツ社会学領域の修士号を取得。2019年よりフットボリスタ編集部所属。ビジネス関連のテーマを中心に取材・執筆を行っている。サポーター目線をコンセプトとしたブログ「ロスタイムは7分です。」も運営。ツイッターID:@7additinaltime

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