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ペップが最も信頼する男は、なぜフィジカルトレーナーなのか?

2020.05.25

ウォッチング・グアルディオラ特別公開 #9

戦術、指導、分析、会話、移籍、参謀、料理……ペップ・グアルディオラのAll or Nothingな仕事術を密着取材で明かす『ペップ・シティ スーパーチームの設計図』が3月31日に発売となった。その刊行を記念して、共著者ル・マルティンが雑誌『footballista』で連載中の『ウォッチング・グアルディオラ』から、選りすぐりのエピソードを特別公開。

#9は
バルセロナ時代からずっと監督グアルディオラとともに仕事をしてきた腹心ロレンソ・ブエナベントゥーラとの絆。

 前回の過密日程とケガについての記事で、フィジカルトレーナー、ロレンソ・ブエナベントゥーラの貢献度の高さを指摘した。今回は、このグアルディオラの最も忠実なアシスタントについて書こう。「忠実な」というのは、グアルディオラが監督になることを決めた時、最初にスタッフとして頭に浮かんだのが彼の名前だったからだ。

 話はバルセロナBの監督に就任する直前にさかのぼる。マドリッドのサッカー連盟本部で監督学校の卒業式が行われた時、ペップはフィジカル部門の講師だったブエナベントゥーラに近づきこう言った。

 「バルサの監督になる時に連絡するから」

 ブエナベントゥーラはこう思ったという。

 「そう言ってくれる生徒はたくさんいるから、社交辞令だと思って気にしなかった。そうしたら、彼は本当に電話をしてきた」

 私がクラブ関係者に取材してマンチェスター・シティの2年間を振り返った『Cuaderno de Manchester』(『ペップ・シティ スーパーチームの設計図』のスペイン語版)の中で、グアルディオラはこの旧知のフィジカルトレーナーについてこう話している。

 「ローレンは人生の教科書のようなもので、彼抜きでは働けないかもしれない」

 「彼の契約内容については最初に交渉する。私は自分の契約の前にアシスタントたちの契約の話をするのだが、一番手は彼だ」

 助監督のミケル・アルテタ(編注:執筆当時)も、ブエナベントゥーラとはケガをして世話になった時以来15年間の付き合いだ。

 彼はリハビリのスペシャリストでもある。

 「フィジカルトレーナーに必要な2つのことを備えている点で、彼と比較できる者はいない。第1に、良いエネルギーの持ち主でグループの良い雰囲気を作り上げる。選手と良好な関係を築き信頼を伝えることができる。第2に、ペップのアイディアを汲み上げて、それをグラウンド上でのエクササイズに完璧に反映させることができる。そんなことができる者が今サッカー界にいるだろうか」

フィジカル練習でプレーアイディアを注入

 ブエナベントゥーラはペップとの共同作業をこう説明する。

 「ペップは20m後退するよりも4、5m前進して守ることを選ぶ。そのエクササイズの際に、選手やチームに対して『これは気に入った』などと感想を述べる。それを聞いて我われは強化すべき点を知り、次の試合の必要性に応じた練習メニューを用意する。フィジカルトレーニングとプレーを切り離して考えることは決してない」

 同時に、練習中選手たちの集中力を維持することの難しさを承知している彼は、ベテランらしい配慮も欠かさない。

 「競争をうまく取り入れながらも、メニューは想像力を駆使した楽しいものでなくてはならない。ペップと一緒にいると退屈することがない。修正と発明、結合と分離の繰り返し。ペップは頭の回転が非常に速い。時には明確な指示がある時もある。密集でのプレーを鍛えたい、とか。そうしたら我われは、ウォーミングアップの段階から中に入って行くプレーのあるメニューを用意する。時間がないから、練習の1分ごとにプレーアイディアを注入する。それが我われのプランだ」

 マンチェスター・シティ・アカデミーで働く者として常に念頭に置いておくべきなのは、「仕事とその準備に情熱を持つこと。そうでなければ遅れる。遅れたら勝てない」。

 ブエナベントゥーラはスペイン南部アンダルシア出身で父はベティスで伝説となった元選手、監督だった。マンチェスターには単身赴任。妻は地元エル・プエルト・デ・サンタ・マリアに残って自閉症を持って生まれた息子の世話をしている。アカデミーの職員に彼ほど好かれている者はいない。

3月末で50試合消化、だから重要

 そんなブエナベントゥーラが数え切れないほどの監督とともに働いてきた中で、やはり信頼関係を築いたのが、現リーズ監督のマルセロ・ビエルサだった。彼とはエスパニョールの監督時代に知り合い、アルゼンチン代表のスタッフとしても呼ばれた。その後ペップと知り合い、バルセロナ、バイエルンを経てシティにやって来るわけだが、その前にはカディス、バジャドリー、エスパニョール、「毎週、監督を変えていた」と笑うアトレティコ・マドリーでも働いた。

バイエルン時代、選手に指示を送るブエナベントゥーラ

 監督、選手との関係は常に良好、良い思い出を残している。もちろんペップとも同じだ。

 「日程は言い訳にはならない。ライバルにも時間のなさにも、我われは適応するしかない。週によっては練習をすべて回復のために使わないといけないことがあるのは事実で、35日間で15試合をこなすなんて時もある。だが、勝つためにやるべきことはわかっている」

 疲労度の違う選手に対応するために高度に個人化されたメニューを作っているのは、その「やるべきこと」の一つである。

 今季のシティはすでに2冠(コミュニティシールドとリーグカップ)を獲得。FAカップでは準決勝、CLではベスト8に進出し、プレミアリーグでは2位とさらに3冠を追加する可能性がある。野望が大きくなるほど試合数も膨らみ、今季の公式戦数は3月末の時点でちょうど50試合。これは例えばリーグ優勝争いのライバル、首位リバプールよりも8試合も多い。

 フィジカルトレーナーの良し悪しは、監督の良し悪しと同等の重要性を持とうとしている。

Photos: Getty Images, Bongarts/Getty Images

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Profile

ル マルティン

高名なスペイン人記者。1980年代からラ・リーガと母国代表をテーマに執筆活動に勤しむ。2001年出版の『La Meva Gent, El Meu Futbol(私の人、私のサッカー)』は、ペップ・グアルディオラ自身との共著。マンチェスターとバルセロナを行き来しながら、シティのグアルディオラ体制を追う。2016年から『footballista』で「ウォッチング・グアルディオラ」を連載中。

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