[PR] “予想通り”の大差に。林舞輝が分析するレビアダービー
ドルトムント対シャルケ レビュー
5月16日からリーグ戦再開に踏み切ったドイツ・ブンデスリーガ。今節の再注目カードであったドルトムントvsシャルケのレビアダービーは、ホームチームの圧勝で幕を閉じた。ここまで一方的な展開となった理由とは? そして、新型コロナ禍は試合の様相をどのように変えたのか? 奈良クラブの林舞輝監督が分析する。
自分の試合でもないのに、少し緊張してしまった。まだ結果がわからない試合を観るのは、約2カ月ぶりだからだ。正直、再放送の試合を観るのは、さすがの私でも飽きていた。久々のライブのサッカー観戦である。
さて、プレビューで「コロナの影響」と「シャルケの対応策」という大きく2つのポイントを挙げたが、実際にどうだったか、見てみよう。プレビュー記事に沿って書いていくので、その記事と比べながらぜひ読んでいただきたい。
コロナの影響
まず、無観客試合の影響だ。そこには、今までとはまったく違う「音の世界」が広がっていた。迫力はなく、どこか殺伐としていて、審判の笛の音がこれでもかというぐらい大きく鳴り響く。キックの音、選手の声、監督の指示や手を叩く音まで鮮明に聞こえる。普段汚い言葉を吐き慣れている選手たちは言葉遣いを気を付けなければならない。監督は自分の戦術的な指示の声が相手にもハッキリ聞こえてしまうし、次の対戦相手にも映像で聞き取られてしまうので、こちらはより神経を使うことになる。自分に置き換えて考えても、これはコーチングしにくいなと感じた。特に、もやしが落ちる音すら聞こえるんじゃないか思ったのが、VARの場面。普段ならサポーターがざわざわして、「どうなるんだ?」と盛り上がり、結果が出ると歓声や罵声が飛び交うのだが、判定を待つ間、完全なる沈黙が広がった。あまりにも音がなく、現地のマイクが壊れたか宇宙空間に飛ばされたのかと思うレベルだった。
トレーニング不足とコンディション不良は、これも目に見えて明らかだった。ドルトムントは試合に合わせるために負荷を上げ過ぎたのか、アクセル・ウィツェルとエムレ・ジャンの2ボランチがそろって筋肉系のケガで欠場し、スタメン抜擢された期待の若手ジョバンニ・レイナは、試合前のウォーミングアップ中にこれまた筋肉系のケガで欠場。試合が始まってみても、ブンデスリーガとは思えないインテンシティの低さ。やはり、2カ月空いてからのまともにチーム練習をできないままぶっつけ本番という現状におけるコンディショニングの難しさを感じる試合となった。
交代枠の5人は、やはり戦術的にはサッカーを面白くさせる余地がある。この試合、シャルケはハーフタイムで2枚替えを行いシステムを変更しガラッと変えた。普段であれば大胆な采配と言われるところだが、5人交代枠があることでまったくそうは感じられなかった。早めの交代や2枚替え3枚替えも含め、こういうことが以前より増えることは間違いなく、逆に言えば相手の交代策を読みづらくもなる。選手層の厚いチームが有利になるだろう。
また、試合中の「ソーシャルディスタンス」も徹底されており、見たことのない場面がカメラに抜かれまくっていた。誰かが倒れても誰も心配して近づくこともなければ、起き上がるのを手伝う人もいない。ゴールを決めても密を避けたセレブレーションで、味方同士で抱き合うこともない。ぎこちないどころか、見ているこっちが恥ずかしくなってくる。あれなら、始めたばかりの素人のTikTokを見てる方がマシだ。交代時も、選手同士でハイタッチもハグも励まし合いもなし。あのちょっと距離を置いてすれ違う感じは、変な感じしかしなかった。まるで、学校の廊下で1カ月で別れた元カノとすれ違う時のような気まずい空気の中、お互い微妙な距離感を置きながら、でもお互いちょっと意識しながら、すれ違っていく。交代でベンチに戻った選手は、監督と握手することもなく(何も事情を知らない人が見たら相当仲が悪いように見える)、すぐにメディカルから個別に用意されたボトルとマスクを渡されていた。交代で入る選手もマスクをしたコーチが横ではなくちょっと離れたところで戦術ボードを見せて確認していた。そういった異常な光景を面白がって抜いていくカメラ。誰かが倒れて試合が止まったりボールが外に出たりしても、ある意味で試合から目が離せなかった。この「ソーシャルディスタンス効果」で良かったなと思うのは、どんな判定でも選手が審判に詰め寄ったり抗議しに囲ったりする場面がまったくなくなったことだ。選手は審判の判定を受け入れ(諦め?)、試合が進んで行く。これは、個人的にはコロナ後も続けてほしいことだ。
肝心の試合は…
プレビューでも書いた通り、どう考えても分が悪いシャルケがどういった対抗策を講じるかが鍵となったこの試合。ドルトムントはいつも通りの[3-4-3]。シャルケは、ドルトムントの[3-4-3]に合わせて[3-4-3]を選択。やはり、いつもの[4-3-1-2]では相性が悪過ぎると判断したのだろう。
試合序盤は、[5-4-1]のようになることなく、シャルケがどんどんハイプレスを仕掛ける。横に広がるドルトムントの右CBと左CBにボールが入った時に、ウイングがスイッチを入れるプレスをかける。コンディション不良だろうにこんなに行って大丈夫なのか?というペースでハイプレスをかけていく。
このハイプレスは威勢こそ良かったのかもしれないが、プレスのやり方があまりにも質の低いものだった。同数でプレスをかけ、ボランチが相手ボランチ、WBが相手WBを潰しに行ってしまったため、ボランチの背後(DFラインの手前)のライン間に大きなスペースができてしまう。そこに降りてくるドルトムントのトルガン・アザールとユリアン・ブラントがフリーでボールを受ける。ここに3バックが潰しにいくのもアリだが、そうすると怪物アーリング・ホーランドに最前線で1対1を作られることになるため、さすがにそれは怖かったのだろう。
ドルトムントもこれを見抜いてからは、2ボランチがわざと低い位置に降りてきてシャルケの2ボランチを釣り出し、その背後にウイングのアザールとブラントが下りる、という動きを再現性を持って行っていた。
2人のポジショニングとスペースを見つけて降りてボールを受けるセンスは、抜群だった。彼らのサッカーインテリジェンスの高さがうかがえると同時に、この試合は完全にこの2人によってドルトムントの攻撃は成り立っていた。彼らが空いたスペースでボールを受けそこから崩す、を繰り返し、チーム全体でアザールとブラントを探しているような雰囲気をあった。14分、18分、21分と立て続けにアザールがこのボランチの背後のスペースで受けてチャンスを作ると、27分にはブリントがこの位置で受けてダイレクトで逸らし、アザールが抜けてクロス。中のホーランドが合わせて先制。お手本のような、人に食いついてくる[3-4-3]の攻略だった。
ホーランドは、不思議な選手である。あんなにデカくて強いのに、それが武器ではない。タイプとしてはロメル・ルカクに近いだろう。デカくて強いのだが、ズドンドカンと体格を生かしたプレーや上からガツンとヘディングを叩き込む、といったようなプレーはあまりない。実際、この試合でもホーランドは空中戦で勝って収める場面はほとんどなく、なんならまともに飛ばずに競り合わないこともしばしばあった。ホーランドの武器は、何よりもその動き出しの秀逸さとスピードにある。この先制点の場面の一連の動き、動き出しの速さ、走り込む純粋なスプリントの速さ、首を振ってマークを確認するタイミング、そこから流れるようにスムーズに入っていき、後は綺麗に当てるだけでゴールの隅へ。
その後もシャルケはこの弱点を修正できず、狙われ続けた。[3-4-3]に対して[3-4-3]を当てた以上、対策は2つしかなかった。まずは、ハイプレスを封印してコンパクトに保ち、ゾーンで守ってスペースを消す。ドルトムントはこうして守っていて、ほとんどチャンスは作られなかった。もう1つは、ハイプレスに行くならば必ず最前線のFWが背中で相手ボランチへのパスコースを消してプレスに行き、味方のボランチを1枚アンカーのように残し、降りてくるウイングを潰させることだ。勇気を持って3バックを前に出して降りるアザールとブラントを追撃しに行くのも手だが、真ん中のCBがホーランドと1対1の状況になることを考えると、リスクが高い手になるだろう。
前半終了間際に、GKのキックミスからショートカウンターを食らって0-2になったシャルケは、後半から2枚替えでスピードのある選手を入れ、一か八かで最も得意とする[4-3-1-2]に戻る。だが、これはあまりにも一か八か過ぎた。もっとはっきり言えば、あまりにも愚策だった。2点リードの状況では、ドルトムントは守ってカウンターのモードになる。そこに、自らカウンターを受けに突っ込んでいった形だ。この状況で[4-3-1-2]はあり得ないだろうと思っていたので、最初私は4バックとMFの配置を見た時にボックス型かフラット型の[4-4-2]にしたのだと思った。すでにプレビューでシャルケの[4-3-1-2]は、ピッチを広く使いながらとにかく速いカウンターとサイドアタックが魅力のドルトムントには相性が悪く、普通にやったらその餌食になるだけだと書いた。プレビューで使った言葉をそのまま借りれば、「MFの3人がスライドし切れずサイドで数的優位を作られボコボコにされ、前がかりになってカウンターを食らってまたボコボコにされるという絵が、これでもかというぐらい鮮明に見える」と書いたが、まさにその鮮明に見えていた「絵」がそのまま目の前で描かれてしまった。2点を取り返すべく後半立ち上がりから前がかりになったところでカウンターを食らい3失点目。セカンドボールを拾われた後に逆サイドまで広く使われ、素早いサイドアタックを食らって4失点目。
全世界が注目したブンデス再開の大一番は、コロナ禍の影響は結果には反映されず、予想通りのドルトムントの快勝となった。
スカパー!の配信限定商品「ブンデス・ポルトガルLIVE」なら月額999円でブンデス全試合LIVE配信!
※「ブンデス・ポルトガルLIVE」はAmazon Prime Video チャンネルでもご契約できます。
詳しい放送情報等はスカパー! 公式サイトでチェック!
https://soccer.skyperfectv.co.jp/bundes
Photos: Bongarts/Getty Images
Profile
林 舞輝
1994年12月11日生まれ。イギリスの大学でスポーツ科学を専攻し、首席で卒業。在学中、チャールトンのアカデミー(U-10)とスクールでコーチ。2017年よりポルト大学スポーツ学部の大学院に進学。同時にポルトガル1部リーグに所属するボアビスタのBチームのアシスタントコーチを務める。モウリーニョが責任者・講師を務める指導者養成コースで学び、わずか23歳でJFLに所属する奈良クラブのGMに就任。2020年より同クラブの監督を務める。