数々のビッグセーブを繰り出してきた名手ジャンルイジ・ブッフォン。その中でも「GKの歴史を変えたセーブ」があると唱えるのは、GK専門のサッカーライターとして活動する福田悠氏だ。フットサルのGKとしてもプレー経験を持つ、競技の枠を越えたエキスパートに、そのスーパーセーブから「コラプシングの進化」をたどってもらった。
「あれは本当に美しいセーブだったと断言できる」
ジャンルイジ・ブッフォンがこう振り返るのは、02-03 CL決勝のあのセーブだ。
16分、右に開いたクラレンス・セードルフが入れた低空クロスに、フィリッポ・インザーギがダイビングヘッドで合わせる。ゴール右隅を襲った鋭いシュートは、ミランの先制点となるはずだった。
オールドトラッフォードを埋めた約6万2000人の大観衆の誰もがゴールを確信した、次の瞬間。
堅守を誇るユベントスの要であった当時25歳の守護神は瞬時に体を寝かし、ノーチャンスと思われた一撃を左手一本で弾き出した。至近距離からの、ましてや本人いわく「目の前にチーロ・フェラーラがいたから撃たれた瞬間は見えなかった」シュートを、だ。撃ったインザーギは、のちに回想するように「どうやって反応したんだ!?」という表情で頭を抱え、止めたブッフォンは「どうだ!」と言わんばかりにガッツポーズ。そしてすぐに口を真一文字に結んだ。
映像を見れば「このプレーか」と思い出す方も多いことだろう。攻めも攻めたり、守りも守ったり。コンマ数秒の間に行われた珠玉の攻防は、世界最高峰の舞台にふさわしく、美しいワンプレーだった。
結果的にこのファイナルはスコアレスのまま延長に突入し、PK戦で決着。CLの歴史上唯一のイタリア勢同士のファイナルは、両者のその堅い戦いぶりから「世紀の凡戦」とも揶揄された。あのインザーギのヘッドが決まっていれば、もしかしたら点を取り合うスペクタクルな展開になっていたかもしれないし、多くのフットボールファンはそちらを望んだのかもしれない。
だがこのブッフォンのセーブは、のちの世界中のGKの技術革新に繋がった可能性すらある、歴史的なビッグセーブだったのだ。このワンプレーから、あるシュートストップの「型」の進化を紐解いていこう。
「反応速度」を言語化すると…
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Profile
福田 悠
1985年11月29日生まれ。法政大学社会学部卒業後、大手文具メーカーを経て2012年にライターに。『週刊SPA!』のサッカー日本代表担当を務めるほか、フットサル全力応援メディア『SAL』、『PRESIDENT』など様々な媒体に寄稿している。大学3年時より9年間フットサルの地域リーグでGKとしてプレー。多くの現役Fリーガーのほか、サッカースペイン代表ジョルディ・アルバらとも対峙した経験を持つ“GKライター”。趣味は路上弾き語り。