[PR]現地在住カメラマンが選ぶ、ラ・リーガ“21世紀”ベストプレーヤー
ラ・リーガを中継しているWOWOWが、視聴者投票で21世紀最高の選手を選出する『今夜発表!視聴者が選ぶ ~ラ・リーガ“21世紀”ベストプレーヤー決定総選挙~』を5月2日に無料放送する。今回はその放送に合わせて、2003年から15年以上にわたってマドリッドを拠点にラ・リーガの写真を撮り続けているムツ・カワモリさんに、カメラマン視点で見たラ・リーガ21世紀のベストプレーヤー3人を選出してもらった。
スペイン行き、驚きの経緯
――本日はお時間いただきありがとうございます。本題に入る前に、普段カメラマンとして活動されていることもあって、ムツさんがどんな方なのかというのはなかなか知る機会がありません。なぜスペインでカメラマンになろうと思ったのか、その経緯をうかがってもよろしいですか?
「もともと会社勤めをしていたんですが、いろいろと考えているうちに『今の仕事はもういいかな』と思うようになって、それでカメラマンになろうと考えたんです。そうしたらメディアの知り合いの方から『それだったら日本にいるより、海外に出た方がチャンスがあるんじゃないか』と言われまして。当時は今より流されやすい性格だったので(笑)、『じゃあちょっと行ってみるか』というノリで2003年の秋にスペインに渡り、今に至るという感じです」
――まさかそんなノリでスペインに行かれていたとは(笑)。もともと、サッカー自体は好きだったんですか?
「そうですね。高校の部活でやっていて、そのあと社会人リーグでもプレーしていました。働くようになってからは、平日に開催される代表戦などの時に試合を見にスタジアムにも行くようになってスタンドから撮るようにもなったんですが、ただカメラに関しては趣味以前のような感じで、仕事にしようとはまったく思っていなかったんですけどね」
――そうだったんですね。今、高校の頃のお話が出ましたが、とあるWEB記事で高校の時、ナインティナインのお2人と一緒にプレーされていたというのを目にしたのですが。
「そうですね。上の代(岡村隆史さんの年代)が3年生の活動が終わる時に確か10人で、自分らの代(矢部浩之さんの年代)も8人くらいと少なくてまとまった感じだったので。もし1学年に100人くらいいる強豪校だったら話はまた違ったと思いますが、そういう感じだったので普通に接していました。それに、上の代にはGKがいなかったのでそれ以降は自動的にレギュラーになって(笑)、一緒にプレーもしていました」
――そうだったんですね。話を戻して、海外でカメラマンになると決めた時、スペインを選んだのはなぜだったんでしょうか。当時はまだ、今のように日本人選手がプレーしていたわけではありませんでしたが。
「当時、日本人選手がプレーしていたセリエAには撮影をされている日本人の方がすでにいらっしゃいました。プレミアリーグに関しては撮影許可のライセンスを取得するのが難しく、ブンデスリーガは今のように日本人選手がたくさんいて、写真が売れるという状況ではなかったんです。そうやって絞っていく中で、リーガに関しては写真さえ撮れれば実績になる有名な選手がたくさんいたというのと、あとは当時バルセロナには日本人のカメラマンの方がいらっしゃったんですが、マドリッドには常時撮影をされている日本人のカメラマンがいらっしゃらないということがわかって。それで『行けば何とかなるだろう』という、今思えば危ないとしか思えない考えでスペインに決めました(笑)」
――いや、凄いとしか言いようがないです(笑)。とはいえ、当時はレアル・マドリーが「銀河系」と呼ばれるようになった時期でもあり、リーグとしての注目度の高さが決め手になったわけですね。スペインに渡ってからは、まず語学とカメラの勉強をして、それから試合を撮るようになったんでしょうか?
「いえ、機材自体はそろえて行ったので、とにかく試合を撮りに行きました。とはいえ、そんな新米の写真がいきなり売れるわけではないので、最初は全部持ち出しで。そのシーズン(2003-04)はそうやってずっと撮影を続けて、シーズンオフに日本に帰った時に営業をして、そこからようやく写真が売れるようになっていった感じです。
ただ、僕の場合は当時の状況や知人の伝手もあって最初から試合を撮りに行くことができましたが、今同じように海外に出てもいきなり撮影というのは難しいです。くれぐれもマネしないようにということはお伝えしておきます」
“映える”3選手
――とにかく驚くことばかりでしたが(笑)、ではここからいよいよ、そんなムツさんが選ぶラ・リーガ“21世紀”ベストプレーヤーについてうかがっていきます。まずは3位からお願いします。
「プジョルです」
――その理由は?
「DFは狙って撮りに行かないとなかなか撮影する機会がないんですが、写真映えという観点からすると、あの特徴的な髪形のおかげで動いた時に躍動感が出るんです。映像と違って写真だと瞬間瞬間を切り取るので、例えばスルスルと相手をかわしていくドリブルのシーンなどは、その凄さがなかなか伝わりづらい。その点、プジョルに関してはショルダータックルにいった時などに髪がブワッとなびくので、動きがわかりやすくて写真映えするんじゃないかと個人的に思っています」
――プレー自体も激しくて絵になる選手でしたが、あの特徴的なカーリーヘアがその躍動感をさらに高めてくれるということですね。
「髪が長い(束ねていなかった)頃のセルヒオ・ラモスもいいなと思ったんですが、彼はまだ現役でやっているのでOBのプジョルに花を持たせました(笑)」
――どうしてもゴールシーンを狙うことが多くなるので、DFの選手を狙うというのは少ないですか?
「そうですね。同じDFでもSBはガンガン上がって来るので攻撃の時などは撮りやすいですが、CBは狙って撮りにいかないとなかなかいい写真が撮れません。そういう意味で、プジョルは攻撃を捨ててでも撮りにいく価値のある選手でしたね」
――なるほど。では、続いて2位の選手をお願いします。
「2位にはイニエスタを挙げさせてもらいます」
――ここでイニエスタですか。その理由は?
「彼のプレーはご存じの通りいろいろと凄いんですが、中でもドリブルの時に絵になるんです。先ほどお話した『ドリブルのシーンは写真だと凄さが伝わりづらい』とは相反するんですが、彼の場合、ドリブル中にルックアップして周囲を確認する場面が多々あって、その時の姿勢が凄く綺麗なんですよね。無理やりドリブルしているという感じがなく、凄く自然体で。
この、ドリブル中にルックアップした時の姿勢が綺麗というのは、スペイン人のMFに共通する特徴ですね。例えばマタ(マンチェスター・ユナイテッド)やシルバ(マンチェスター・シティ)、コケ(アトレティコ・マドリー)、ヘスス・ナバス(セビージャ)あたりもそうです。スペインの育成で育った中盤の選手に優れたプレーヤーが多い理由なのかなと撮っていて感じる部分でもあります。
加えて、彼は今日本でプレーしているということもありますし、あとは個人的な思い入れもあって、ドリブル時の姿勢が綺麗なスペイン人選手の代表として彼を2位にさせてもらいました」
――個人的な思い入れ、ですか。
「昨年夏、帰国した時にヴィッセル神戸の試合を撮り行ったんですけど、試合が終わって引き上げる時に呼びかけたらハグしてくれたんです。広報さんの視線が痛かった、本当すみません!という感じで(苦笑)」
――イニエスタに覚えられているなんて凄い! それだけ長い間、第一線でご活躍なさってきた証ですね。それでは、栄えある1位を聞かせてください。
「1位は、ジダンでお願いします」
――おおー、ジダンですか。マドリッド在住なのにバルセロナ勢が続いていたのであれっと思っていたんですが(笑)、ここできましたね。
「特に、自分がスペインに行った直後の頃(2003~05)のプレーは本当に凄かったです。それはもちろんのこと、僕が初めて雑誌で表紙に写真を使ってもらったのが彼の写真だったんです。なので、僕にとって恩人なんです」
――思い入れも一際強いと。写真映えという点ではどうでしたか?
「彼はもう、プレー中じゃなくてもそこに立っているだけで様になりますよね。アップにすれば彫りが深くて滅茶苦茶格好いいですし。他にもベッカムやカカーなど端正な顔立ちの選手というのはいましたが、非常に稀有な存在でした。
もちろんプレーに関しても、彼がボールを持つともう、DFは飛び込めない凄さがありました。(スペインに行くのが)彼の現役時代に間に合ったというのは、凄くラッキーだったなと思っています」
――いやもう、ジダンの写真を撮られているというだけで、うらやましいの一言です。
「試合の結果を伝えるとなると、写真が使われるのはどうしても得点者中心になりますよね。そうなってくると、撮影しても世に出ない写真というのがたくさんあるんです。あらためてストックを見返してみた時に今回の3人、プジョル、イニエスタ、ジダンの写真っていうのはたくさんあって、それだけ映える選手だなということで、カメラマン・カワモリとしてはこの3選手を推させてもらいます」
――これでトップ3が出そろいましたが、メッシとクリスティアーノ・ロナウドの2人が入っていません。その理由は?
「今回はあえて外しました、番組では間違いなく上位にくるでしょうし(笑)。写真映えという観点で言えばクリスティアーノは特にそうですし、メッシに関しては写真映えとかそういった次元を超越しちゃっているというか(笑)。実力を加味すれば当然、ぶっちぎりで入って来るべき2人なんですが、(2人を)順位付けするのが難しいなというのもあって、今回はあえて外してみました」
――ムツさんの中では、彼らは殿堂入りということですね(笑)。クリスティアーノ・ロナウドなんて、写真映えする選手の代表格みたいなものですからね。
「映え過ぎでした(笑)。メディアにとってはありがたいですよね、ああいう選手がいるのは。クリスティアーノが抜けたシーズン(2018-19)の最初の集合写真を撮った時に、集合写真が“軽く”見えちゃったんです。彼がいないだけでこんなに軽くなっちゃうんだって、あらためてその存在の大きさを感じました」
――確かに。ではその他に、残念ながら選外としたけれど候補に挙がった選手がいれば教えてください。
「いちおう、4位と5位にはロナウジーニョとフェルナンド・トーレスを考えていました。それ以外には今まで触れたベッカム、カカー、セルヒオ・ラモス、あとはGKだと個人的にはカシージャス。彼はアクションが大きいので、格好いい写真が撮れました。FWは多士済々で難しいですが……アスレティックにいた(フェルナンド・)ジョレンテ(現ナポリ)や、プレーだけで映えるイブラヒモビッチ(現ミラン)とかでしょうか。佇まいが凄い選手っていうのは、普通に撮っていても何割増しか存在感がありますね。あとは、アトレティコ・マドリーでのSBの印象が強いかもしれませんがレアル・マドリー時代のファンフラン(現サンパウロ)。当時はフィーゴの控えのサイドMFという位置づけでしたが、当時の彼のドリブルはヤバかった。個人的には、フィーゴを押し退けるんじゃないかというくらいのインパクトがありました。
逆に言うと、ベティスで頭角を現した頃のホアキンってイケイケのドリブラーでバンバン抜いていくんですけど、ボールに近いところを見ている感じで顔がずっと下がっていたんです。なので、『プレーは凄いんだけど顔を上げてくれないと写真にならない……』って思っていました(苦笑)」
――なるほど。顔を上げるというのはプレーとしても大事なことですが、カメラマンの方にとっても重要になると。
「そうなんです。先ほども話しましたが、イニエスタたちのようにプレー中に顔が上がっている選手というのは撮りやすいというか、映えます。ホアキンに関して言えば、年を重ねるごとにパスが巧くなってプレースタイルが変わったので、むしろ今の方が撮りやすいですね」
――それは面白い話ですね。これまでに15年以上スペインで撮影を続けられてきて、カメラマン目線で感じる変化などはありますか?
「だんだんサッカーがシステマティックになっていくにつれて、選手が個人技を発揮する場面というのが少なってきているという印象はありますね」
――選手の個性、キャラクターが均一化してきて、カメラマンとしては撮りづらくなっている部分があるということでしょうか?
「そうですね。個人がボールを持つ時間というのが短くなってきているので。それこそシャビ(元バルセロナ)やブスケッツのようにダイレクトやワンタッチでどんどんパスを出されると、なかなか変わった絵というのが撮りづらくなります。プレーが凄いというのは傍目に見ても明らかなんですが、映えるという観点からすると撮りにくいですね」
――プレースピードがどんどん速まってきていますしね。ランキングには出てきませんでしたが、ムツさんがスペインに渡って以降、たくさんの日本人選手がリーガでプレーしました。撮影もなさってきたと思いますが、その中で特に印象に残っている選手は誰でしょうか?
「やっぱり大久保嘉人ですね。僕にとって(リーガで撮影した)最初の日本人 選手になるので、思い入れは強いです。実は、スペインに渡る前に知り合い伝手 で食事をご一緒する機会があって。その翌年夏に一時帰国した時、彼はアテネ五 輪に出場していたのですれ違いでしたが、前述の知り合いから『冬にスペインの チームに移籍するかも』という話も聞いていました。僕自身、スペインに来て まだそれほど経っていない時に、そうやって面識のある人がピッチで戦っている のを撮るというのは感慨深いものがありました」
――それは勇気をもらえますよね。今は試合が中断となってしまっていますが、再開したら素晴らしい写真をたくさん撮って、ぜひまたこうして披露してください。
「今回の中断を受けて、撮れるうちに動いてちゃんと撮りに行かないといけないなという思いを強くしました。正直、最近は日程が多様化したこともあって、金曜日の試合などは少し控えている部分もあったんです。でも、撮らないことには何も残せないので。再開したら初心に帰って、健康には気を付けつつできるだけ多くの試合を撮りに行きたいと思っています」
――今後の活躍を楽しみにしています。本日はありがとうございました。
<番組情報>
『今夜発表!視聴者が選ぶ ~ラ・リーガ“21世紀”ベストプレーヤー決定総選挙~』
5月2日(土)夜8:00 WOWOWプライム ※無料放送
『一挙放送! ラ・リーガ 伝統の一戦クラシコ』
幾多の名勝負を生み出してきたクラシコを、4月25日(土)から36試合一挙放送!
放送に関する詳しい情報はWOWOWサッカー公式サイトをご確認ください。https://www.wowow.co.jp/sports/liga/
Profile
久保 佑一郎
1986年生まれ。愛媛県出身。友人の勧めで手に取った週刊footballistaに魅せられ、2010年南アフリカW杯後にアルバイトとして編集部の門を叩く。エディタースクールやライター歴はなく、footballistaで一から編集のイロハを学んだ。現在はweb副編集長を担当。