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チェルシー、ライバルを直接対決で下しつかんだ初のプレミア連覇

2020.04.08

プレミアリーグ名勝負の記憶

世界的なコロナウイルス禍によりリーグ戦が中断中となっている中、DAZNで現在、プレミアリーグ過去の名勝負をアーカイブ配信中だ。今回は、本日4月8日に配信開始となった2005-06シーズン、チェルシーがマンチェスター・ユナイテッドを下しリーグ連覇を決めた一戦について、現地スタンフォードブリッジで見届けた山中忍さんに綴ってもらった。

 「だからこそ、俺たちはチャンピオン!」―― スタンフォードブリッジのホームサポーターたちは歌っていた。先制点を奪った5分から何度も。予報に反して青空が広がった西ロンドンで、晴れ晴れとした表情で繰り返していた。

 2005-06シーズンのプレミアリーグ第37節、チェルシーはマンチェスター・ユナイテッドに快勝(3-0)して優勝を決めた。ほんの2年前までは、50年間もリーグ優勝と縁のなかったクラブが、記念すべき創立100周年シーズンにプレミア2連覇を達成。もちろん、クラブ史上初のタイトル防衛だ。

 試合後、両軍の監督がそろって口にしていた通り、90分間の内容は最終スコアほど一方的ではなかった。しかし、敗軍の将となったサー・アレックス・ファーガソンに、9カ月間の戦いぶりを「リーグ王者に相応しい」と讃えられたチェルシーは、この日もなるべくして勝者となった。その理由は、インテンシティ。スタンドで見守るロシア人富豪オーナーが買いそろえたタレント集団に、ジョゼ・モウリーニョが戦術意識と勝者のメンタリティを植えつけたチェルシーは、強く、激しく、容赦なくマンUに迫った。

 勝利監督にすれば、要求通りのパフォーマンスだっただろう。優勝を懸けた必勝の一戦というわけではなかった。同節を含む3試合(第36節延期分を含む)で1ポイントを獲得すれば、トロフィーを手にできる状況だったのだ。しかし、そこは勝気なモウリーニョ。続くブラックバーン戦とニューカッスル戦を待たず、ファーガソン率いるリーグ2位との直接対決で優勝を決めたかったはずだ。マンUに勝つことで、その相手監督しか国内の現役監督で知る者がいなかった、プレミア連覇の達成感を味わいたかったに違いない。スタンフォードブリッジでのシーズン最終戦を、ホームで18度目のリーグ戦勝利で終えれば、プレミアのホームゲーム最多勝利記録でもマンUと肩を並べることになる。モウリーニョは、勝利に向けて「とにかくフォーカス!」だと、当日の観戦プログラムに寄せた監督コラムで述べていた。そしてチームは、フランク・ランパードが五分五分のボールに競り合うと同時に笛が鳴った試合終了の瞬間まで、マンUに勝つことに集中し続けた。

質実剛健と「華」

 チェルシーの1点目も、ランバードによる気迫のこもったボール奪取に端を発していた。前節でシーズン合計得点数を初めて20点台に乗せたMFは、自らネットを揺らすことはなかったが、チームの3点目にも絡んでいる。先制の場面では、クリスティアーノ・ロナウドへのスライディングタックルでカウンターを可能にし、手にしたCKから上質のクロス。ゴール前で空中戦を制したディディエ・ドログバがヘディングを放ち、落下地点にいたウィリアム・ギャラスが至近距離から頭で押し込んだ。

先制点を挙げたウィリアム・ギャラス

 モウリーニョのチェルシーというと、質実剛健なイメージがあるかもしれないが、後半の61分に生まれた追加点は「華」のあるゴールだった。得点者は、個人技の使いどころをわきまえて貢献度を高めていたジョー・コールだ。3トップ右サイドで先発した「10番」は、ドログバが胸で落としたボールをゴールに背を向けて拾うと、軽快なフットワークと力強いボールキープを見せながら鮮やかにターン。リオ・ファーディナンドとネマニャ・ビディッチの相手CBコンビによるサンドイッチ状態を脱し、左SBのミカエル・シルベストルも置き去りすると、エドウィン・ファン・デル・サールとの1対1から冷静かつ強烈にシュートを決めた。

勝利を大きく手繰り寄せる2点目をマークしたジョー・コール

 73分の駄目押し点は堅守速攻の極みだ。マンUは、その10分ほど前に、右ウイングで精彩を欠いたロナウドをベンチに下げて、ルート・ファン・ニステルローイを前線に加えていた。ところが、その点取り屋へのクロスに真っ先に反応したのは、チェルシーのリカルド・カルバーリョ。機動力のあるCBは、ドリブルで自軍ペナルティエリアを抜け出してランパードにボールを預けると、足を止めずに相手ボックス内まで駆け上がり、ジョー・コールからのラストパスを右足でゴールに変えた。そのパワーといい、精度といい、祝福に駆け寄ってきた主砲ドログバも顔負けのシュートだった。勝利に貪欲なチェルシーには、フルタイム5分前にも、ランパードが敵陣内で奪い返したボールを、マイケル・エシアンが猛烈なドリブルで運び、アウトサイドでパスを受けたギャラスのクロスが4点目を呼ぶかに思われたシーンがあった。

 左SBとして相手ゴール前でも仕事をしたギャラスは、4カ月後にアーセナルへと移籍する運命にある。理由の1つは、CBとしての出場機会不足。だが、この試合でもそうだったように、ジョン・テリーとカルバーリョのCBコンビは、当時のプレミアで最高とも言えるレベルにあった。特に、3人の中で一番年下のテリーは、当時25歳にしてキャプテンマークも付ける守備の要。この一戦でも前半から、ファーディナンドが狙った楔をルイ・サハの手前でカットし、ウェイン・ルーニーに踏まれた右足の白いソックスに赤い血が滲んでいてもプレーを続けるなど、相手2トップの前で頼もしい守りを披露していた。

若きルーニーの失意

 一方のマンUは、翌シーズンを前にマイケル・キャリックとオーウェン・ハーグリーブスを獲得することになる。対戦前、自軍の戦力を「(99年の)三冠当時にも引けを取らない」と強気に評していた指揮官も、内心では弱点に気付いていたのだろう。本来はウインガーのライアン・ギグスと、守備の便利屋という域を出ないジョン・オシェイを中央に配したマンUの中盤は、より機能的でダイナミックなチェルシーの3センターに攻守両面で圧倒された。中でも、クロード・マケレレの存在感は、小柄な体格とは裏腹に巨大。ワールドクラスのアンカーは、キックオフ早々に前線から戻って来たボールを1タッチで正確にさばき、距離を詰めてきたパク・チソンを軽くいなした場面をはじめ、中盤の底をパトロールしながら、手前のランパードとエシアンに攻撃参加を促していた。

ルーニーとマッチアップするマケケレ

 もっとも、数字上のポゼッションはほぼ互角(49%)だったマンUにもチャンスはあった。22分の時点で絶好機を迎えてもいた。しかし、ゴール前に抜けたルーニーのシュートは、惜しくもファーポストの外へと転がった。同点のチャンスを逃したわけだが、移籍2年目の20歳だったルーニーを責めるのは酷というものだろう。当時8番のルーニーは、前後半にミドルとボックス内でのボレーで、まだ頭部を守るヘッドギヤが不要だったペトル・チェフにファインセーブを強いてもいた。怖さを欠いたマンUにあって、守っては対峙したアリエン・ロッベンに決定的な仕事を許さず、攻めてはルーニーのボレーを呼ぶクロスを放つなどした右SB兼キャプテン、ギャリー・ネビルとともに及第点以上を与えられる貴重な例外だった。

 75分には、チェルシーファンから拍手を送られてもいる。ただし、担架でピッチを去った際の出来事。右SBのパウロ・フェレイラとの競り合いで、中足骨骨折の不運に見舞われてしまったのだ。W杯を目前に、テリーとランパードも、イングランド代表エースの負傷退場にショックの表情。試合後、「頼むからウェインだけは勘弁してくれ」という心境だったと明かしたのはジョー・コールだった。

担架で運ばれるルーニー。チームにとっても自身にとっても失意の結末となった

 とはいえ、その15分後には、すでにベンチに下がっていたジョー・コールも“ドリンクシャワー”を巻き散らしながら優勝カウントダウン状態。モウリーニョも、優勝騒ぎが始まる前にと、ロスタイム中に数m右横のマンUベンチへと出向き、ファーガソンらと労いと表敬の握手を交わしていた。

 優勝決定後は、チームカラーの青と白の紙吹雪が舞うスタジアムで、テリーが優勝トロフィーを掲げたり、モウリーニョが1度ならず2度までも、スタンドにメダルを投げ入れたりする(スタッフが手渡した予備も投げ込んだ)様子の他にも、個人的に印象に残っている光景が1つ。試合終了から3時間近くが経過したスタジアム前の通りでは、通行止めも解除され地元のチェルシーファンが運転する車が、クラクションを鳴らしながら次々に通り過ぎていった。その中に、雨天の多いイングランドではあまり見かけないオープンカーが1台。後部座席には、巨大なゴリラのぬいぐるみ。背中に「マケレレ 4」とあるレプリカシャツを着せられていた(運転手を含む乗員全員が黒人で人種差別とは受け取られず)。ゴリラは人間の10倍ぐらい力が強いと言われるが、マンUとの差を12ポイントとして優勝を決めたチェルシーも本当に強かった。

試合後、笑顔の“スペシャルワン”

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Photos Getty Images

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チェルシープレミアリーグマンチェスター・ユナイテッド

Profile

山中 忍

1966年生まれ。青山学院大学卒。90年代からの西ロンドンが人生で最も長い定住の地。地元クラブのチェルシーをはじめ、イングランドのサッカー界を舞台に執筆・翻訳・通訳に勤しむ。著書に『勝ち続ける男 モウリーニョ』、訳書に『夢と失望のスリー・ライオンズ』『ペップ・シティ』『バルサ・コンプレックス』など。英国「スポーツ記者協会」及び「フットボールライター協会」会員。

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