3月13日、コロナウィルス感染拡大の影響を受け、イングランドのプロサッカー界でもまずは3週間の試合開催見送りが決まった。サッカーが庶民の日常の一部である国とはいえ、肝心の日常生活そのものがウィルスに脅かされている状況なのだから止むを得ない。
実際には、ようやく試合の延期が決まったと言っても良い。欧州大陸側では、一足先に国内リーグやCLとELで無観客試合や試合延期といった対応がなされていた。にもかかわらず、ここイングランドでは、前週末に約7万3000人の観客で埋まったオールドトラッフォードでマンチェスターダービーが行われ、その3日後の11日には、約5万2000人を集めたアンフィールドで、リバプール対アトレティコ・マドリーのCL戦が開催された現実が不思議なぐらいだった。
リーグ緊急会議での延期決定には、アーセナルを率いるミケル・アルテタの感染が12日に確認され、翌朝には、チェルシーのカラム・ハドソン・オドイが、プレミアリーグ選手で初の感染確認事例となった背景もあったに違いない。サッカーを、「重要ではない物事の中で最も大切」と評したのはヨハネ・パウロ2世だが、サッカーの母国でホームスタジアムという聖地に通う各クラブの「信者」たちも、第264代ローマ教皇の言葉を噛み締める日々の始まりだ。……
Profile
山中 忍
1966年生まれ。青山学院大学卒。90年代からの西ロンドンが人生で最も長い定住の地。地元クラブのチェルシーをはじめ、イングランドのサッカー界を舞台に執筆・翻訳・通訳に勤しむ。著書に『勝ち続ける男 モウリーニョ』、訳書に『夢と失望のスリー・ライオンズ』『ペップ・シティ』『バルサ・コンプレックス』など。英国「スポーツ記者協会」及び「フットボールライター協会」会員。