ほとばしる“ギラギラ感”横浜FM遠藤渓太が「勝手に」背負う自負
いよいよ明日2月21日(金)、2020シーズンのJリーグが開幕を迎える。毎年白熱するタイトルレースはもちろん、52歳にしてJ1の舞台に挑む三浦知良をはじめとしたベテランの活躍など見どころは尽きないが、五輪イヤーとなる今シーズン、 特に大きな視線が注がれることになるのが五輪代表メンバー入りを懸けた争いだ。
リーグ連覇を狙う横浜F・マリノスの遠藤渓太もその一人。直近の代表戦で厳しい現実に直面しながらも「昨日の自分を超えていく」ために、王者を背負わんと意気込む22歳のプレーに注目してほしい。
東京五輪に向けて、いきなり快調なパフォーマンスを見せているJリーガーがいる。横浜F・マリノスの遠藤渓太だ。
欧州組、オーバーエイジを含めてたった18人の枠をめぐり、各ポジションで熾烈な競争が繰り広げられている中、メンバーが読みにくい状況にあるポジションの一つが[3-4-2-1]の左ウィングバックだ。有力候補と見られていた遠藤だが、15人の東京五輪世代を招集した昨年12月のEAFF E-1サッカー選手権、1月にタイで行われたAFC U-23選手権で大きな挫折を味わった。
引き裂かれた青写真
2019シーズンのJ1を制した横浜FMの中で、遠藤はジョーカー的な立ち位置ながら優勝に大きく貢献する働きを見せた。
特に、川崎フロンターレとの第33節、優勝が懸かったFC東京との最終節で2試合連続ゴール。本人は「今シーズンは点を取ってもベンチになったり、自分なりに満足したプレーをしても次出られなかったり、そういう苦しいシーズンでもあった」と振り返り、また「後半戦の自分の活躍がチームの優勝に関わる」と、プレッシャーをかけながら戦っていたことを明かしている。
そんな遠藤にとって、年末年始の代表活動は東京五輪への確かな足がかりになるはずだった。しかし、その青写真は脆くも引き裂かれる。
E-1選手権では初戦となった中国戦でフル出場し3-0の勝利に貢献したものの、再び先発した韓国戦では相手の縦に速いサイドアタックを受けて後手に回り、前半のうちに失点。ハーフタイムに相馬勇紀と交代した。森保一監督率いる日本はそのまま1-0で敗れたが、遠藤に代わって左サイドに投入された相馬は日本の数少ないチャンスを得意のドリブルから生み出し、この試合の数少ない収穫となった。
相馬が先発し日本が5-0と大勝したE-1選手権の第2戦香港戦の翌日、遠藤に話を聞くと「相馬くんとプレースタイルは似てるなと思ってます。見ていて何回も何回も縦にえぐっていて、ああいう選手がいないと試合は動きませんし、それがうまくいくかいかないかじゃなくて間違いなく(相手に)ダメージを与えると思ってるので、自分にも似たような役割が求められる」と語っていた。
そこから1カ月も経たないうちに開幕したU-23選手権のメンバーにも名を連ねた遠藤だが、サウジアラビア戦、シリア戦と左ウィングバックで起用されたのは杉岡大暉だった。しかし、日本は連敗。2試合にしてGS敗退が決まった。
残されたカタール戦を前に遠藤に聞くと「自分はこの2試合出ていないというのが実力だと思っている」と前置きして、こう続けた。
「自分のことも大事かもしれないですけど、2連敗でGS敗退は痛いという事実がある中で、最後のゲームで自分らがどういう振る舞いをできるかも大事になってくると思います」
そのために、遠藤は彼なりにチームの問題点を考えていた。シリア戦に関しては「もっともっとクロスに入る人を増やすとか、ああいう相手だったらミドルを撃って引き出すとか、いろいろと策はあった。負ける相手じゃなかったと思います」と、悔しさを素直に表していた。
「結果が大事だと思いますし、それは個人としてもチームとしてもそうですけど、自分にじゃあ何が求められているか自分自身は理解しているつもりだし、それがゴールなのかアシストなのか難しいですけど、その試合の中で自分は何ができるかをしっかり見つめてプレーできればいい」
カタール戦のスタメンは遠藤か、もう一人、出番のなかった菅大輝かと当時の筆者は予想に頭を悩ませた。だが蓋を開けてみれば、カタール戦も起用されたのは杉岡だった。遠藤は出番がないまま大会を終えることに。3試合ともにスタメンで出場した杉岡大暉にとっても悔しい結果となったことは間違いないが、試合に出られないままチームの惨敗をベンチから見届ける心境は察するに余りある。
「ケツを叩かれないと結果を残せないようじゃ…」
代表で築いてきたものはほぼゼロの状態に戻ってしまったと言っていい。ただ、だからこそ割り切れるものもある。クラブでやれることをやる。確かに昨シーズンは優勝に少なからず貢献したが、完全な主力という立場ではなかった。前半戦にはスタメン定着のチャンスもあったが、自分からフイにしてしまった部分もあった。そうした課題をクリアし、明確な結果を残すことが東京五輪への残された時間でアピールする大きな材料となる。
6年ぶりのACL参戦となった横浜FMはその初戦で韓国王者・全北現代のホームである全州W杯スタジアムに乗り込んだ。決して良好とは言えないピッチでもパスを繋いで攻勢をかける横浜FMは33分に先制。ゴールネットを揺らしたのは遠藤だった。
右からのスローインで右SBの松原健が大きく前方に投げ出すと、昨シーズンのJリーグMVPである仲川輝人がDFの裏を鋭く突いて、大きく弾んだボールを右足のボレーでゴール方向へ折り返す。ニアサイドに走り込むオナイウ阿道と元韓国代表の大型DFホン・ジョンホの頭上を越えたボールの落ち際を左サイドから走り込んだ遠藤が右足で捉え、U-23韓国代表の守護神ソン・ボングンの逆を突いてゴール右に決めたのだ。
最後はシンプルに合わせる形だったが、スローインから仲川が折り返すタイミングまで完璧にはかったような動き出しで、遠藤より内側にポジションを取っていた全北の右SB(イ・ヨン)の前に一瞬で出たため、コンタクトプレーを許さなかったのだ。
その4分後には再び遠藤が絡む形で追加点が生まれる。
相手の上げたロングボールをCBのチアゴ・マルチンスが大きくクリアにはいかず、横の畠中槙之輔にヘッドでパス。畠中は相手を引き付けると、鋭い縦パスを中盤のマルコス・ジュニオールに付ける。するとブラジル人テクニシャンは外側にボールを持ち出し、そこから左足で前方のスペースに蹴り出す。
全北のDFライン裏に走り出したのは遠藤だ。オフサイドラインのギリギリから動き出して右SBを振り切ると、ファーストタッチでボールを前に押し出し、ペナルティエリア内に入ったところから左足でグラウンダーのクロスというより、ラストパスを逆側から走り込む仲川へ。韓国代表のキム・ジンスが仲川の手前で体を投げ出し懸命にクリアしようとするが、足に触れたボールは無情にもゴールに吸い込まれた。
アウェイの地で韓国王者から勝利をつかみ取った横浜FMはホームでオーストラリア王者のシドニーFCに4-0と完勝し、タフなグループで開幕2連勝を飾った。この試合でも勝負を決する4点目の起点になった遠藤は、「僕がどこまで、ここから上のステージに行って結果を残せるかで今年のマリノスの出来も変わってくると思うし、今後のマリノスにとっても変わってくると勝手に思っている」と決意をにじませた。
「今までは途中から出て “なにクソ”という気持ちで結果を残してたけど、じゃあスタメンで出るようになって、去年の前半戦は結果を残せなかった。何かに追われないと、ケツを叩かれないと結果を残せないようじゃ正直ダメだと思っているので、今はそこで自分自身と戦えればいいと思う。いい捉え方をすれば昨日の自分を超えていくのが、いいモチベーションの持ち方かなと思ってやっています」
U-23日本代表と横浜FMのスタイルは大きく違うし、連係が成熟してきているクラブで結果を残すことは、そのまま代表での活躍を保証するものではない。それでもACLやJリーグで文句ない活躍を見せてメンバーに呼ばれ、そこで出場チャンスを得てアピールすれば評価はついてくる。
もともと決してエリートではない境遇から這い上がってきたサイドアタッカーのギラギラ感は強まるばかりだ。
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Photos: Getty Images
Profile
河治 良幸
『エル・ゴラッソ』創刊に携わり日本代表を担当。Jリーグから欧州に代表戦まで、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。セガ『WCCF』選手カードを手がけ、後継の『FOOTISTA』ではJリーグ選手を担当。『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(小社刊)など著書多数。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才能”」に監修として参加。タグマにてサッカー専用サイト【KAWAJIうぉっち】を運営中。