今、進化を遂げる南野拓実らストーミングの申し子たち
10月2日のアンフィールドでクロップを渋面にさせ、そのドイツ人指揮官率いるリバプールと移籍交渉中であることが明かされた日本人MFのプレーが象徴的だ。ここでは結城康平氏が、現所属チームの戦術にこだわらず「ストーミング」に向く3選手をピックアップ。その注目すべき理由を解説する。
南野拓実
レッドブル流で磨かれた狼の王
獰猛な獣を想起させる闘志と結果への渇望は、スピードに乗ったプレーを得意とするテクニシャンを新たな領域に導こうとしている。10月2日のCLグループステージ第2節、ユルゲン・クロップの眼前でリバプールを翻弄したパフォーマンスは、彼の名を欧州に轟かせる起爆剤に過ぎない。2015年から2年連続でWEBサイト『IBWM』による恒例企画「期待の若手100人」に選出された若武者は、24歳となった今季、ついに覚醒の時を迎えている。
日本代表でも前線の核として期待されるアタッカーの飛躍を助けたのが、“プレッシングマスター”の異名を取るマルコ・ローゼだ。2017年から2季ザルツブルクを率い、今季からボルシアMGの指揮官に就任したライプツィヒ出身の知将は、レッドブルグループが標榜する激しいプレッシングを南野に徹底して叩き込んだ。今季その後任を務めるアメリカ期待の若手監督、ジェシー・マーシュもボブ・ブラッドリー(元アメリカ代表監督、現ロサンゼルスFC監督)の愛弟子として知られ、中盤をコンパクトに保ちながら主導権を奪いにいくフットボールを好む。
南野はもともとトップスピードでのドリブル突破を得意としていたが、近年成長著しいのはオフ・ザ・ボールのスキルだ。トランジションを連続するチームで求められる「スプリントを連続するスタミナと筋持久力」に加え、困難な局面においても味方の判断を助ける彼の「ボールを引き出す」スキルはチームのアクセントになっている。
柔軟に周囲を使っていくプレーにも対応する南野の強みは、ボールを要求する際に「きっちりと止まる」ことが可能な点だ。密集地で相手のプレッシャーを浴びる中、動きながらボールを受けようとする選手にパスを合わせるのは簡単ではない。一方、南野はギャップを発見すると首を振って周囲の状況を把握しつつメリハリのある動きで停止し、足下にボールを要求する。非言語コミュニケーションとしてのボディランゲージのスキルは軽視されやすいが、南野は若い頃から海外でプレーすることでその重要性に気づいたのだろう。明白なハンドサインで足下のポイントに鋭いパスを引き出し、どんなパスでもコントロールするという確かな自信を感じさせる堂々たるプレーは、味方を安心させるに違いない。
ボールを受ける時は静止していることが多いが、相手の中盤が狙っているワンタッチ目では積極的に方向を変えることで読みを外そうという意識が強い。CLリバプール戦でも、中盤セントラルでプレッシングを受けながらキレのあるターンで何度となく状況を打開した姿が印象的だった。中盤においては攻撃のスピードを落とさない意識も強く、果敢に前を向くようなタッチで仕掛けていく。
56分に決めたゴールシーンは、相手の左SBアンドリュー・ロバートソンが内側に寄ったことで生じた大外のスペースを手で示しながら、スピードを変化させてペナルティエリアに走り込んだ。正確なボレーシュート自体も評価されるべきだが、それに繋がったフリーランこそが彼の武器である。速攻の局面で、味方の動きが脳内に描けていることもポイントだ。ザルツブルクの果敢な速攻に慣れていることで、必ずボールサイドを向いた「オープンな姿勢」で味方からのパスを待つことが可能になっている。
次のプレーを予測する能力に優れ、縦パスを受ける体勢から、サイドからのボールを受ける向きに切り替えるスピードは別格だ。リバプール戦の30分には味方の状態に合わせてボールを引き出し、相手の右SBトレント・アレクサンダー・アーノルドとCBフィルジル・ファン・ダイクの間に生まれたスペースに侵入。CBジョー・ゴメスを前に誘い出したことで広がったエリアを冷静に狙った判断は見事で、名手ファン・ダイクも迷いながらの対応を強いられている。マンチェスター・シティのセルヒオ・アグエロも得意とする「準備のスキル」は、前線で起用された際も強みになるはずだ。
結果に執着する強い意志に加え、確かなオフ・ザ・ボールの技術を習得したことで、南野はより味方に信頼されるアタッカーへと成長し、そして“狼の群れを率いる王”へとさらなる進化を遂げようとしている。
メイソン・マウント
よりモダンなランパードの後継者
チェルシーを指揮するクラブレジェンド、フランク・ランパードの秘蔵っ子として期待を集めるマウント。昨季はそのランパード率いるダービー(イングランド2部)で攻撃の軸に君臨し、公式戦11ゴール6アシストをマークした。20歳のイングランド代表アタッカーは、若武者が躍動する今季チェルシーの中核として新監督が志向するフットボールに見事に適応している。
筋肉量が多く88kgの体重で上下動を繰り返した現役時代のランパードに対し、マウントの体重は70kgだ。身長も6cmの差があるが、それ以上に華奢な印象が強い。プレミアリーグにより適応すべく肉体改造も視野に入れているかもしれないが、現状の彼は「軽さ」を武器にしている。高い位置からのプレッシングを主とするチームにおいて、マウントは相手の死角からプレッシングを仕掛ける技術に長けている。第2節レスター戦のゴールは象徴的で、一瞬の隙を見逃さず敵の背後からボールを奪取し、そのまま得点を奪った。守備面のスタッツでも好数値を記録するMFは、献身的に敵陣でのプレッシングを主導。意識的にプレッシング時にスピードを変化させることで相手を幻惑するようなプレーも巧く、瞬発力を生かして一気にボールホルダーとの距離を詰めていく。
攻撃でも俊敏性とスピードを生かし、ワンタッチでボールを預けて一気に抜け出すパターンが得意だ。CFタミー・エイブラハムとのコンビネーションに優れ、ターゲットとなる彼から離れずにプレーを続ける。オープンスペースに抜け出す能力とともに強く振り抜くシュートも武器としており、相手GKの読みにくいコースに流し込む。さらには、ドリブルでGKのタイミングを外すような技術も高い。強く振り抜くシュートとキックフェイントの組み合わせは、駆け引きしなければならないGKにとっては厄介な2択だ。ランパードの正統後継者として、チェルシーの将来を背負う男の成長は見逃せない。
イルビング・ロサーノ
さらに幅広く、敵陣を切り裂く稲妻
重要なゴールを積み重ねた“童顔の暗殺者”ハビエル・エルナンデスに続き、メキシコ代表の次世代を支える存在が24歳のロサーノだ。圧倒的なスピードを武器とする彼に長い距離を走らせれば、捕まえられるDFは多くないだろう。特に印象的なプレーを披露したのは、メキシコがトランジションとカウンターで敵を翻弄したロシアW杯のドイツ戦。ロサーノはエルナンデスのパスから冷静にDFを外し、値千金の決勝点(0-1)を決めた。試合全体でのパフォーマンスも驚異的で、前回王者を容赦なくカウンターで崩壊させる姿から飛躍の予感が高まった。
母国の強豪パチューカで活躍後、2017年にPSVへ。圧倒的なスピードとキレはオランダリーグでも通用し、ゴールとアシストを量産した。スペースがある状況での仕掛けに定評がある彼は、内側へのカットインと縦への突破という2択を迫るだけで対面するDFを十分に苦しめ、瞬く間にゲームを動かす。今季からナポリに加入し、さらなる飛躍を目指している。元監督のカルロ・アンチェロッティはロサーノをワイドに固定するのではなく、中央に近いポジションでも積極的に起用。トップスピードに乗った状態でボールを受けることに加え、外に流れながら仕掛けるプレーや縦パスを後ろ向きで受けるプレーなど、幅を広げることを要求していた。セリエA第2節でユベントス相手に決めた移籍後初得点のように、中央でマークを外しながらクロスに合わせるといった新たなゴールパターンの構築も求められてくるだろう。ホセ・カジェホンやドリース・メルテンスなどオフ・ザ・ボールの技術に長けた先輩から学ぶことができれば、ロサーノは総合力の高いアタッカーとしてイタリアの地で暴れ回るに違いない。
Photos: Getty Images
Profile
結城 康平
1990年生まれ、宮崎県出身。ライターとして複数の媒体に記事を寄稿しつつ、サッカー観戦を面白くするためのアイディアを練りながら日々を過ごしている。好きなバンドは、エジンバラ出身のBlue Rose Code。