2020年2月、フットボリスタが新しくなります
編集長からのメッセージ
本日発表したフットボリスタのサブスクリプション・サービスへの移行と雑誌リニューアルに込めた思いを、footballista編集長・浅野賀一からのメッセージとしてみなさまにお伝えします。
「なんでフットボリスタってそんなにマニアックなんですか?」
最近非常によくされる質問なんですが、その後はたいていこんな会話になります。
「今、電車で雑誌や漫画を読んでいる人見ます?」
「もう全然見ないですね。みんなほとんどスマホ見てますよね」
「特にサッカーはネットメディアの数が多くて、普通のサッカーファンは無料で見られる記事で十分満足できちゃう環境なんです。TwitterなどのSNSの情報も充実していますしね。そんな中で、雑誌を買ってくれる人が求めるものって何だと思います?」
「『ネットに載っていない情報』でしょうか?」
「そう。試合後のコメントや海外メディアでどう報道されたかはもう全部ネットでタダで見られます。そうじゃなくて、その試合のために監督は1週間どんなトレーニングをしてきたのか、そしてそこまで知った上で試合を分析すると何が見えてくるのか?――知的好奇心が旺盛な日本のサッカーファンは『現場レベルの知識』を求めるようになってきている気がするんです。しかも、世界中から大量のお金と人材が集まっているここ数年の欧州サッカーはその『見えない部分』がものすごい勢いで進化しています。それをキャッチアップして日本に伝えていくことがフットボリスタが日本サッカーにできる貢献だし、サッカー雑誌の存在意義でもあるのかなと僕は考えています」
「特集化」する雑誌、そしてその先
結構いいこと言ってませんか(笑)。ただ、正直に告白しましょう。上の僕の説明はある一つの大きな疑問に目をつぶっています。
「このデジタル全盛の時代にあえて紙の雑誌でそれをやる必要あるの?」
1つ、言い訳をさせてください。僕が編集長になった2015年当時はネットメディアで広告モデル(ページビューに応じて広告収入が支払われる)以外のマネタイズの成功例は少なかったですし、何より2006年の創刊からともに走ってきた木村浩嗣前編集長から受け継いだ雑誌の形式には編集部メンバー全員こだわりがありましたし、「まだやれることがある」という思いも強かった。何より、みんな雑誌好きですしね。
もう1つ理由がありました。
雑誌にはネット記事とは違ってパッケージで読める強みがあります。ネット記事は大手ポータルサイトやSNS経由、あるいは検索流入がほとんどで、その構造上どうしても単発的な読まれ方をしちゃうんですね。そして自分の興味のない記事はクリックもされない。一方、雑誌は「特集」という1つのコンセプトで、問題提起から総論、各論、そして結論と体系化して物事を理解できる仕組みを提示できます。「特集」というのは雑誌メディアの大きな強みで、今はサッカーに限らず多くの雑誌が特集化しています。フットボリスタも一冊丸ごと「データ革命特集」や「新世代メディア特集」など、今までのサッカー雑誌では考えられないような特集(苦笑)をかなり好き勝手やらせてもらったと感謝しています。
雑誌ではおよそ4年半、2017年にリニューアルしたWEBでも2年半、独自路線を貫かせてもらったおかげで、フットボリスタのブランドイメージはかなり浸透してきた手ごたえがあります。加えて、今はネットメディアのマネタイズの手法も多様化してきました。そろそろフットボリスタも、次のステップに踏み出すタイミングが来たなと考えました。
「サブスク化」に込められた思い
2020年2月、フットボリスタは新しくなります。一番大きなチャレンジは「サブスクリプション・サービス」を始めることです。かみ砕いていうと、月額定額制の有料WEBサービスですね。
意外と忘れられがちですが、記事を作成するにはコストがかかります。広告モデルだと“なるべく低いコストでたくさん見られる記事を量産すると儲かる”という収益構造になります。ただこれって、見出しで大げさに煽ったり、読まれそうなテーマの記事だけを投下していくことが最も効果的なプレーヤー行動なんですね。それって不健全だなとずっと思っていました。その先にあるのは、読まれれば本当のことじゃなくても構わないという「フェイクニュース」の考え方ですしね。
だったら、記事を読みたい読者に直接お金を払ってもらう構造の方がずっと健全じゃないかなと。そこで問われるのは、お金を払っても読みたいという記事の質ですし、メディアのコンセプトやそれを作っている“中の人”への信頼だと思うんです。ネット記事にお金を払う習慣があまりないので抵抗がある人もいるかもしれませんが、そもそも雑誌はそうやって成り立ってきましたし、ネットでもそうならないと「目先の数字が取れる話題」ばかりが世にあふれる危ない社会が待っているという危機感もあります。
「サブスク化」するWEBのコンセプトは基本的に今までの雑誌と同じです。欧州サッカーの最先端の情報を伝えることはもちろん、サッカーと社会(や文化)のつながりを大切にする創刊以来のこだわりを貫いていくつもりです。あとは「動画」などWEBならではの表現手法にもチャレンジしていきます。さらにデジタルの「サブスク」に紙の雑誌をつけちゃうことも、新しさでしょうか。今後も紙の雑誌は本屋などでそのまま買えるんですが、「サブスク」に入ってもらった方がコスパ的にはお得かもしれません。
で、その雑誌の方もコンセプトは変わらないんですが、刊行形態を「月刊」から「隔月刊」にします。思えば、月刊ってちょっと中途半端なんですよね。時事性もある程度追えちゃうし、特集による深堀りもある程度できる。ただ、もうさすがにこの時代のサッカー雑誌に時事性はいらないでしょ、と。さらに言うと、特集の取材をするにあたって1カ月の制作期間はかなり微妙なんです。「CLのない3週間後なら取材を受けられます」と言われて、何度諦めたことか……。「特集化」にこだわるんなら年6回、2カ月に一回より深堀りしたものを作る方が「よりフットボリスタらしい」んじゃないかと、結構前から考えていました。
正直、始まってみないとどうなるかはわからないんですが、新しい挑戦に僕はワクワクしています。フットボリスタを経由して世の中に発見された才能が日本サッカーの発展に貢献し、やがて大きなうねりになる――日本サッカーの現場にリアルに影響を与えるサッカーメディアを作ることが僕の夢です。まだまだやりたいこと、計画していることはたくさんあります。今後のフットボリスタにもご期待ください!
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サブスクリプション・サービスの詳細および新サービスに関する追加情報は、フットボリスタ公式サイトおよび公式SNSにて随時発表していきますので、ぜひそちらをご覧ください。
Photo: Bongarts/Getty Images
Profile
浅野 賀一
1980年、北海道釧路市生まれ。3年半のサラリーマン生活を経て、2005年からフリーランス活動を開始。2006年10月から海外サッカー専門誌『footballista』の創刊メンバーとして加わり、2015年8月から編集長を務める。西部謙司氏との共著に『戦術に関してはこの本が最高峰』(東邦出版)がある。