“福山シティクラブ”が掲げる「地域課題解決型総合クラブ」とは
福山シティフットボールクラブ新ビジョン発表会レポート
先日、8部から4年でJFL昇格を果たし脚光を浴びたいわきFCをはじめJFLの奈良クラブやJ3昇格を決めたFC今治など、Jリーグ以下のカテゴリー所属ながら明確なビジョンを掲げ独創的な取り組みに挑むクラブが増えている。
そんな野心的なクラブの一つが広島県東部の都市・福山にもある。去る11月18日の「新ビジョン発表会」で明かされた、非常に興味深いクラブの展望について、発表会を取材したフットボリスタ・ラボのジェイさんがレポートする。
福山という地が密かに、日本サッカー界において話題となっている。
今年4月の天皇杯広島県大会決勝戦。県2部所属ながら天皇杯予選を勝ち進んでいるチームがある、という話に興味を惹かれて会場に足を運んだ。
これが福山SCCとの最初の接点だった。県2部に不相応な戦力と、試合後に岡本佳大GMが語ってくれたビジョンが興味深く、強く印象に残った。
福山SCCについて簡単に紹介すると、「福山JC(福山青年会議所)が母体となって発足した一般社団法人であり、福山からJリーグを目指しているクラブ」ということになる。今季は広島県2部を全勝で優勝し、県1部への昇格を決めた。発足の経緯から今日に至るまではクラブの公式noteに詳細が記されているので、気になった方はこちらに目を通してみてほしい。
そんな福山SCCが11月18日、「新ビジョン発表会」なるものを開催。そこで語られた内容は、およそ県リーグ所属クラブのビジョンとは思えない、ややもすると誇大とも言えるほど壮大なものだった。
こちらもクラブ公式noteに詳細が公開されているが、まずもって、この会の中で「福山シティクラブ」と名称を新たにすることを発表。さらには様々なビジョンが打ち出されたのだが、中でも特に目を引くのが表題にもある「地域課題解決型総合クラブ」という響きだ。
「地域課題解決型総合クラブ」とは?
これまでもサッカークラブによる地域貢献が叫ばれてきたが、具体的施策というとサッカー教室などの「普及活動」の範疇を出ないものに限られてしまうケースも少なくなかった。その点、福山シティクラブは発足時から「まちづくり」を主眼としており、あくまでサッカーはその手法の一環であるという考えに基づき活動してきた。
ただ、地域課題解決型総合クラブとして今後は「従来の漠然とした考え方でではなく、こちらから出向いてもっと地域に踏み込んでいく」と新たにクラブの副理事長となった岡本氏。具体的には、
●地元企業や自治体のニーズに対して、スポーツで貢献できることを提案していく
●地元企業の福利厚生、健康管理への施策提案
といった、地域だけでなく企業や自治体も巻き込んでいく活動を計画しているという。
「宣伝広告費としてスポンサーになってもらう形はもう古い。レバレッジを効かせて、お互いにもっと利益になるように動いていきたい。慈善事業ではなく投資案件として捉えてもらいたい」(岡本副理事長)という考えはすでに共感を呼んでおり、新たにサプライヤー契約を結んだSquadra(株式会社アクラム)の勝谷仁彦社長も「商品を提供して広告してもらうという関係ではない、新たな形を福山シティクラブと構築したい」と会見の中で語っている。
デザインからも福山を変えていく
また、名称変更に伴いクラブエンブレムも一新。それだけにとどまらず、シティグループ統一の「スポーツ用」に加え、新たに立ち上げる「ライフスタイルブランド用」の2種類を用意。ライフスタイルブランド用エンブレムはいわゆる「ユベントス的モチーフ」を用いており、スタイリッシュで普段使いに溶け込みやすいデザインとなっている。国内では東京ヴェルディや奈良クラブなどが2種類の意匠を使い分けているが、県リーグのクラブでここまで用意しているのは異例だろう。取材に訪れた記者の一人が「確かにかっこいいが、アマチュアはアマチュアらしいデザインなのが良かったりするんだけど……」とと思わずつぶやいていたが、それくらい異例ということである。
2種類のロゴを始め、ユニフォームやグッズから福山の街のリブランディングまで、デザインを総括するクリエイティブパートナーとなるのがYourmoon(ユアムーン株式会社)だ。パートナー契約を締結した同社の田中隆史代表取締役も「Jクラブからも同様のお話があったが、福山シティの想いに心打たれた」と語っており、こちらもクラブの熱意にほだされた恰好だ。
新たなゲームモデルも作成
サッカーそのものについては、この会見ではそれほど多くは語られなかった。ただ、今季の反省を踏まえてすでにクラブのあるべきゲームモデルを作成済みであり、新監督とも契約済みであるという。12月8日に新監督の発表とトークセッションを東京で行う予定となっており、「Jリーグを目指すクラブとしては異例。みなさん意外な人選と受け取られると思う」(岡本副理事長)とのこと。どういった人物が就任するのかも注目される。また来年2月にキックオフカンファレンスを開催し、その場で選手の陣容やメインスポンサーなどがお披露目される予定となっている。
果たしてどこまで実現できるか
地域課題の解決、ブランドの水平展開、多種目の運営、スタジアムの建設、ジュニアユースの複数設置などなど、この日掲げられたビジョンには「正直こんなことが本当にできるのだろうか……?」という内容がてんこ盛りである。ただクラブとしては「ビジョンは壮大だが、同時にリアリストでなればならない。ここからは泥臭く動いていく」(小林政嗣代表理事)と、夢を語りながらも浮ついた雰囲気は感じられない。
どうせぶちあげるなら、夢は大きい方がいい。長らく「閉塞感を感じている」という福山の人々にとって、大きなビジョンが語られることは活力になるだろうし、そのうちのたとえ10%でも達成できれば地域には大きな効果があるだろう。
会見で、「福山のみなさまのポテンシャルは絶対にあると信じている」と協力を呼びかけた小林代表理事。最後に、会見の前に筆者へ語ってくれた想いを書き記しておきたい。
「最初の頃は白い目で見られることもありましたけど、先日ある地元の方とお会いした時に言われたんです。『誰もこういうことをやらなかったんだ、よくやってくれた』と。早く価値を創造してお返しできるよう、頑張りたい」
Profile
ジェイ
1980年生まれ、山口県出身。2019年10月よりアイキャンフライしてフリーランスという名の無職となるが、気が付けばサッカー新聞『エル・ゴラッソ』浦和担当に。footballistaには2018年6月より不定期寄稿。心のクラブはレノファ山口、リーズ・ユナイテッド、アイルランド代表。