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浦和レッズの改善点は?ACL決勝第1レグ分析から見えたポイント

2019.11.24

2シーズンぶりのACL制覇を目指し、運命の決勝第2レグに挑む浦和レッズ。敵地での第1レグは1-0ながらスコア以上の完敗。“逆転”に向けて改善すべき点はどこなのか。イングランドのカーディフでコーチを務めた平野将弘氏に第1レグを分析してもらい、修正ポイントを挙げてもらった。

 浦和レッズはほとんどボールをポゼッションすることなく、完膚なきまでにアルヒラルにゲームを支配された――これが試合を見た人のほとんどが持った印象に違いない。最大のポジティブな要素は、そのような試合展開の中アウェイで1失点に抑えたこと。GK福島春樹の数々の素晴らしいセーブはチームを救ったし、彼のパフォーマンスは高評価に値する。

 おおまかな所感は以上になるが、以下では客観的なデータ分析と主観的な試合分析からなる、私の第1レグの考察を述べていく。

①データによる振り返り

 実際のボール支配率はアルヒラルが71%を記録。さらに、前半に関しては76%もホームチームがボールを保持していた。後半の浦和がわずかではあるが前半より長くボールを持てたのは、試合終盤にアルヒラルが守備ブロックを下げて守りに入ったからだろう。

 とはいえ、統計の量の部分だけを見ても説得力がない。ポゼッションの質はどうだったのかを見ていくと、浦和はほとんど“ボールを持ちたいように持つ”ことができなかったとスタッツは示す。なぜなら、ポゼッション平均時間(1度ボールを保持してからボールを失うまでの時間)がアルヒラルの22秒に対し浦和はわずか9秒だった一方で、もしボールを奪って少ない時間でゴールを目指していたとすれば、それを達成するための戦い方も効率的だったとは言いがたい。

 そのことを示すのが、筆者が現在発売中の月刊フットボリスタ第75号に寄稿した記事で紹介した指標「PPDA」(「Passes Allowed Per Defensive Actions 」。パスごとの守備アクション値という意味で、ハイプレスの強度を測る。相手にボールを持たせるチームは高く、積極的にプレスを仕掛けるチームは低くなる)において、浦和レッズは19.4と非常に高い数値を記録している。19.4はPPDAにおいては非常に高い数値であり、前線から高い位置でプレスは行わず、多くの人数を自陣に配置して守備を行なっていたという事実を表す。

 ロングカウンターが狙いだったかもしれないが実際には興梠慎三が孤立してしまっていたため、より多くの人数をカウンターアタックに割く必要があるだろう。ちなみに、アルヒラルのPPDAは5.1だった。

 さらに敵陣でのポゼッションの回数を見ても、アルヒラルが74なのに対し浦和は2倍少ない32。ペナルティエリア内でのポゼッションの回数はアルヒラルが5倍近く上回るデータを残した。

 サイド別の攻撃回数と危険度を見ると、アルヒラルは右サイドに重点をおいて攻撃を仕掛けていたことがわかる。回数と危険度ともに一番高い数値を叩き出した。試合全体のゴール期待値(xG)でアルヒラルは2.5という高い数字を記録。xGを見ると、いかに浦和が1失点に抑えられたことがラッキーだったか理解できる。

 フィールドプレーヤーの平均ポジションを見ても、アルヒラルはチームの縦の幅が37mなのに対して浦和は58m。この数値から読み取れることは、ボール保持時で言えばアルヒラルはほとんどの時間を敵陣でボールを保持していたのに対して(陣形がコンパクト)、浦和はカウンターアタックを多用していたこと(最前線と最後尾の距離が長い)。そしてビルドアップからの攻撃もあったが、敵陣で相手にブロックを敷かせた状態で長い時間ボールをキープする機会が少なかったことがわかる。

 一方ボール非保持時に関してアルヒラルは、ユニット同士の距離を徹底的にコンパクトにして狭く守れていたと言えるし、浦和はライン間と選手間にスペースを与えていたと言うことが可能だ。実際に横の幅も浦和の方が5m相手より長かった。

第1レグでのアルヒラルと浦和の平均ポジションと縦横の距離を示す図

 これらの客観的なデータ分析は、それぞれのクラブのプレースタイルを表すもので、そのプレースタイルが良い悪いかの話ではない。実際に筆者も自分らがコントロールした状態で相手にボールを持たせて、ダイレクトなプレーで攻めるスタイルを好む。果たしてそのスタイルのサッカーが機能していたか、試合で何が起こっていたか、そして第2レグへの改善点を次の主観的な試合分析で述べる。

②試合分析による振り返り

 前述したデータ分析の通りアルヒラルがほとんどの時間ボールを支配した中で浦和はシュートを2本記録したが、その2本とも左サイドから生まれた。相手が高い位置からプレスを仕掛けてきたところを右サイドから逆へ展開してチャンスを作り出した。事実、アルヒラルは2トップのバフェタンビ・ゴミスとセバスティアン・ジョビンコや両サイドMFが高い強度で前線からプレスをかけてくるので、SBの前やSBが前へ出た時のその裏は空きやすい。自陣でボールを奪った後のサイドチェンジは1つ有効な手段になるかもしれない。

 アルヒラルのPPDAが低くなった一つの要因として、浦和の選手がしばしば意図のないロングボールを蹴っていたことが挙げられる。そのロングボールを目がけて蹴るエリアや受ける選手のエリアを整理できれば、成功率が上がるに違いない。似ている現象ではあるが、浦和のボール非保持時の陣形が[1-5-4-1]で、ボールを奪った後のポジティブトランジションの局面でパスの出口を探すのに苦労していたように見受けられた。例えば13分3秒のシーン。青木拓矢がインターセプトした後3秒間もセンターサークル内でボールを止めた状態でフリーの味方を探し続け、後ろからゴミスにボールを取り返された。個人レベルの判断ミスと同時に、チームとして奪った後どのようにプレーしたいかに迷いが見られた。また、興梠に当ててポストプレーを試みた際も、サポートに上がる両シャドーの長澤和輝やファブリシオの動き出しが遅かった場面が多々あり、ここも修正したいところである。

 ボール非保持時で気になった点は2つ。1つ目は、浦和のCB陣がゴミスとジョビンコに対してマンマークでついていたこと。彼らの能力をリスペクト、警戒してこのアプローチをしているのだと思うが、彼ら2人にばかり気を取られず第1レグで得点を挙げたアンドレ・カリージョや左サイドのサーレム・アル・ドーサリにも注意を払いたい。アルヒラル側としては徹底的な分析によって浦和レッズのDFたちの振る舞いを把握し、特定の選手に対しマンマークを採用することの弱点を突いてくるだろう。実際に第1レグで、アルヒラルの両サイドのウインガーは中に絞ってプレーをする傾向があった。それによりSBを高い位置に持ってきて、ジョビンコかゴミスが浦和レッズのDFを引きつけることで空いた裏のスペースを狙っていた。

 2つ目は浦和の左サイドである。データでも明らかにされたが、アルヒラルは関根貴大とファブリシオが守備をするサイドを積極的に攻撃していた。1つのパターンとして、ボールを右サイドウィンガーのカリージョに入れ、ボールがカリージョに向かっている間に彼とほぼ同位置に意図的に待機していた右SBのモハメド・アル・ブライクがインナーラップし、トップスピードで前方へ抜け出すという形があった。43秒、7分20秒、31分35秒など90分で数回、この攻撃パターンの現象が確認された。右ウインガーのカリージョが1対1で関根を打ち負かす高い個の力を持った選手であることを考えると、左サイドに守備に長けた選手を配置させるのも大槻監督の1つのタスクかもしれない。この試合唯一の得点シーンもアルヒラルの右サイドから演出された。関根が内のレーンでピン留めされ、裏に抜け出したアル・ブライクへのふぁぶりしおの対応が遅れたため、正確なクロスを供給するのに十分過ぎる時間を与えてしまった。ACL決勝のような大舞台では、こういった小さな原理原則の部分のエラーが失点の要因となる。

第2レグへ向けて

 アルヒラルの過去5試合の戦績は2勝2敗1分。浦和にとって絶対に勝てない相手ではないことが明らかである。サッカーのゲームでは5コーナー(「Technical」「Tactical」「Physical」「Psycological」「Social」)のうちの1つであるPsychological(心理面)が非常に重要なものになる。特に、第2レグは選手の心理的な状態がパフォーマンスに影響を及ぼすだろう。浦和の選手たちはまったく慄く必要はない。第1レグのように受動的に戦うのではなく、自らアクションを起こす強者の戦い方で試合に臨んでほしい。

 第1レグの試合で個人レベルでは、試合開始早々の岩波拓也のジョビンコに対するタックルは相手に心理的な優位性を見せる上でとても良い印象を受けた。浦和には精神的に強く成熟してなおしたたかな選手が多いので、トップレベルの舞台でトップレベルの相手と戦う際の駆け引きやマインドセットの保ち方を理解しているはずだ。

 戦術的には、第1レグで機能しなかったダイレクトスタイルではなくボールを保持するスタイルで戦うことを期待したい。ただ、たとえチームとしての戦い方でカウンタースタイルを選んだとしてもポゼッションスタイルを選んだとしても、高い位置からのプレスに人数をかけるべきだし、守備ブロックも数m高い位置まで上げ、ボール保持の際はウィングバックをもっと高い位置に置きたいところである。第1レグでの反省と相手の分析を通してどのように修正して戦うのかに注目したい。


Photo: Getty Images

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Profile

平野 将弘

1996年5月12日生まれ。UEFA Bライセンスを保持し、現在はJFL所属FC大阪のヘッドコーチを務める。15歳からイングランドでサッカー留学、18歳の時にFAライセンスとJFA C級取得。2019年にUniversity of South Walesのサッカーコーチング学部を主席で卒業している。元カーディフシティ

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