注目クラブの「チーム戦術×CB」活用術
欧州のトップクラブはセンターバックをどのようにチーム戦術の中に組み込んでいるのか。そしてCBはどんな要求に応え、周囲の選手と連係し、どんな個性を発揮しているのか。2019-20シーズンの興味深い事例を分析し、このポジションの最新スタイルに迫る。
#2_シェフィールド・ユナイテッド
昇格組の3バックと聞けば「自陣深くに引いてクロスを跳ね返す」と連想するだろう。しかし、クリス・ワイルダー率いるシェフィールド・ユナイテッドは違う。2トップが積極的にプレスをかけ、3枚のCBもなるべく高い位置を維持するのだ。リーグ開幕から13戦無敗を続けるリバプールを最も追い込んだチームの一つと言えるのが彼らである。
鍵を握るのは「3」という数字だ。前線からのプレスを突破された場合、即座に3人がフラットに並ぶ。これはDFラインだけでなく、中盤の3人にも言えること。2列のラインが綺麗に形成され、相手チームからすると中央のスペースが極めて狭く見えるのだ。そしてサイドのスペースはウイングバック(WB)が小刻みに上下して埋める。時には完全に5バックになることも辞さない。そうやって間延びしそうな[3-5-2]をコンパクトに保つのである。
攻撃に転じる時も「3人」の関係性が生きてくる。左サイドに展開した場合、まずは左WBのエンダ・スティーブンスがボールを収める。2トップが裏へ飛び出すならシンプルに前線に送ればいい。それ以外のケースでは、左インサイドMFのジョン・フレックや左CBのジャック・オコネルと三角形を形成し、パス交換で打開を目指す。とりわけ前方にスペースがある時は、オコネルが猛烈な勢いで大外(もしくは内側)を駆け上がって数的優位を生み出す。これがイングランドで話題の“オーバーラッピング・センターバック”だ。決して流動性が高いチームではないし、ドリブラーがいるわけでもない。それでも攻撃に人数をかけられるし、サイドをドリブル突破できるのはCBがパスの選択肢を作るからである。
CBオコネルは、敵陣でボールを持てば得意の左足でシンプルに高精度のクロスを入れることが多い。一方で逆サイドのCBは、ドイツの皇帝にちなんだ愛称がつけられている“ ベイシャンバウアー”ことクリス・ベイシャム。その通りボールを運べるDFだ。特筆すべきは、2人とも敵陣で慌てないこと。決して器用な現代型DFではなく、むしろ大柄な英国系CBである。でも、そういう選手だからこそ、敵DFを惑わすことができる。どう仕掛けてくるかわからないし、リーチが長くて厄介なのだ。だから少し粗いタッチでもボールを奪われない。 無論、3バックが手薄になることもある。0-1で惜敗したリバプール戦で決定機を許したのは、自分たちのパスミスとCBが攻め上がるタイミングでボールを失った時だ。その時でさえ、逆サイドのWBやボランチが即座にカバーリングしてみせた。だからリバプールはスペースを見出せなかったのだが、それは戦術以外にも理由がある。彼らの本拠ブラモールレーンは横幅が66.7m(通常68m)、縦も101m(通常105m)しかない。そもそもプレミアで屈指の“狭小ピッチ”なのだ!
Photos: Getty Images
Profile
田島 大
埼玉県出身。学生時代を英国で過ごし、ロンドン大学(University College London)理学部を卒業。帰国後はスポーツとメディアの架け橋を担うフットメディア社で日頃から欧州サッカーを扱う仕事に従事し、イングランドに関する記事の翻訳・原稿執筆をしている。ちなみに遅咲きの愛犬家。