注目クラブの「チーム戦術×CB」活用術
欧州のトップクラブはセンターバックをどのようにチーム戦術の中に組み込んでいるのか。そしてCBはどんな要求に応え、周囲の選手と連係し、どんな個性を発揮しているのか。2019-20シーズンの興味深い事例を分析し、このポジションの最新スタイルに迫る。
#4_レアル・マドリー
結論から言うと、CBがチーム戦術に組み込まれている印象は極めて薄い。特に守備。[4-1-4-1]の形でベンゼマが最前線に残るのだが、1人なので当然相手のCBコンビに対するプレスが効かない。よって、相手CBは楽に前を向き、狙いすましたロングボールを送ることができる。
CLのGS第2節クラブ・ブルージュ戦では相手2トップに対しセルヒオ・ラモス&バランがマッチアップする形となったが、彼ら2人が弾き返したボールをカセミロが拾えなかった時には、裏へスルーパスを出されて簡単に最終ラインを破られるシーンが相次いだ。つまり、相手のボール出しにプレスをかけないがゆえに、ロングボールに対して両CBが裸になってしまう(1対1を強いられる)のだ。もちろん、セルヒオ・ラモスとバランは相手2トップにことごとく勝利してボールを弾き返す。が、そのセカンドボールを狙われるとさすがの2人も対処のしようがない。
机上の理論的には、カセミロがそのセカンドボールの拾い役なのだが、彼のいないサイド、特にSBの裏へボールが落ちたり、落とされたりするとカバーリングの達人カセミロでも間に合わない。カセミロというフィルターがかわされた状態で、ボールを持って前を向かれ裏へ走り込まれる。悪い時には2対3の数的不利、良くて2対2の数的同数というのはレアル・マドリーの最終ラインの高さを考えると、GKとの1対1が生まれる“お膳立てが整った”状態と言っていい。
解決法としてはアザールが前に出てプレスをかける手もあるが、コンスタントにそれを要求するのは難しい。よって、例えばグラナダ戦(第8節/4-2で勝利)ではSBまたはMFの1枚が高い位置取りをせず、カセミロをサポートする形で対策していた。一方、ロングボール以外の攻め手に対しては人数をかけて守る[4-1-4-1]は非常に堅い。
攻撃については、ボール出しに関してはセルヒオ・ラモスに一任されている。相手がプレスをかけてくれば、彼の左横にクロースが下がって来てサポート。セルヒオ・ラモスとクロースの長短のキック精度があれば、マルセロ、アザールとのコンビでボール出しはほぼ確実に行える。対照的に、クロースがいる場合バランやモドリッチはボール出しにはあまり関与しない。
ボールが前に運べれば両CB+カセミロはバックパスの受け手に徹して、後方の中央ソーンに鍵をかけておく。CKや相手エリア付近のFKを得て、空中戦での絶対的な強さが生かせるセットプレーまで攻撃的アクションは封印である。
要は、ジダンの役割分担が明確なサッカーの中でCBはほぼ守る人であり、攻守ともに個の力で何とかしてくれる人である、ということだ。
Photos: Getty Images
TAG
Profile
木村 浩嗣
編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。