チームが得点力不足でも批判はお門違い。ウエスカ岡崎慎司の戦い
一度はマラガに加入するも選手登録の問題により契約解除となり、同じスペイン2部のウエスカで2019-20シーズンを戦うこととなった岡崎慎司。加入3試合目となった第6節アルバセテ戦で初先発すると、以降すべての試合でフル出場を続けここまで9試合2ゴール。なかなか詳細が伝わってこない33歳のストライカーの、チームの現状も踏まえた戦いぶりを、スペイン在住の木村浩嗣さんに分析してもらった。
ウエスカは非常に良いチームだが、何かが足りない。
昨季1部リーグでラジョ・バジェカーノを率い、すでに評判が高かったミチェルが指揮するチームの概要は以下の通りだ。システムは[4-3-3]で、スターティングメンバーは以下のようにほぼ固定されている。GKアルバロ、DFは左からルイジーニョ、プリード、ジョズエ、ミゲロン、MFはファン・カルロス、モスケラ、ミケル・リコ、FWはフェレイロ、岡崎慎司、セルヒオ・ゴメス。このうちアルバロはU-21スペイン代表で、ミゲロンはビジャレアル、セルヒオ・ゴメスはドルトムントからレンタル中の有望若手だ。一方、オーバー30のルイジーニョとモスケラ、ミケル・リコ、フェレイロはスペイン1部リーグの経験者。控えにはビジャレアル、ウディネーゼからそれぞれレンタル中で将来性豊かなラバやクリストもいる。
他チームがうらやむ陣容に加えて、サッカースタイルも良い。後ろからしっかりボールを出し、ポゼッションしながら前進、サイドへ展開する間に、MFも攻撃参加してゴール前に人数をかけフィニッシュする。ボールを失えば、距離感の近い選手たちがプレスをかけて瞬く間に奪い返し、再び攻撃態勢に入る。
機能している時のチームはハーフウェイライン近くまで最終ラインが上がり、相手のクリアボールをことごとく拾い、両SBは上がりっ放し、ミケル・リコは第4のFW化し、セルヒオ・ゴメスとファン・カルロス(彼には特に注目!)が鋭いスルーパスやワンツーで崩し……と波状攻撃で相手を圧倒する。今季の2部リーグでは最もコンビネーションとポゼッションに優れたチームであることは間違いない。
だが、勝てない。
昨日(10月20日)は降格圏にいたルーゴに敗れ(3-2)、2位以下が混戦で目標の自動昇格圏から1ポイント差ではあるものの、順位は6位と辛うじてプレーオフ圏内に引っかかっている状況だ。
原因はいろいろある。
堅守速攻の名手(例えば首位カディス、2位アルメリア)がそろっている2部リーグで大胆過ぎるプレースタイルであること、セットプレーの守備が弱いこと、先制されるとショックを引きずること(先制された試合は1分5敗)……。中でも目を引くのがゴール不足だ。テクニシャンたちがこれだけの魅力あるサッカーをしながら12試合でわずか12得点。最少得点で勝つか最少失点で負けるか、という試合が続いている。
「大胆過ぎる」チームのスタイルの中で
となると、CFである岡崎が真っ先に批判されそうだが、実際に試合を見ればそれはお門違いであることに気がつくだろう。
裏へ飛び出す駆け引きを続け、中盤まで下がってクサビの受け手になり、密集のゴール前では誰とも重ならないスペースを探し、アクロバティックなシュートを枠に飛ばし、単独でのプレスも厭わない。
プレスについて少し補足すると、相手のボールが最終ラインにある時、彼は必ずプレスに行く。本来は連動すべきだが単独でも行く。単独ではボールは奪えない。だが、岡崎が前に出ることでパスコースが限定され、他の選手がプレスに出られる状況ができるかもしれない。反対に、岡崎が空振りに終われば他の選手は連動しない。つまり岡崎の初動が、周りの選手もプレスに出るか、それとも自重するかのガイド役となっているのだ。
こうしたボール保持時、非保持時のアクションを90分続けられる体力と忠誠心があり、ついでに2得点を挙げられるFWは他にいない。
例えばクリストはポストプレーをさせればピカ一だが、ボールがない時の駆け引きが足りず味方の長所を十分に引き出せない。岡崎との2トップも何度か試されたが、成功していない。
そもそも、ポゼッションサッカーでCFを務めるのは簡単なことではない。
どうしても遅攻が主になって敵も味方もゴール周辺に集まってしまう。スペースがなく時間がなく、シュートできるボールがなかなか届かない。攻守が一体化しているスタイルだから、組み立てやキープ、プレスに関与せず、前線に張り続けてゴールゲットに専念するわけにもいかない。ボールを触り、触らなくても何かをしなければならない。
スペイン代表のCFとして過去にはパコ・アルカセル、ジエゴ・コスタ、モラタらがことごとく挫折し、MF的なセンスを持つイアゴ・アスパスやロドリゴも得点源となり得ていない現状を見れば、その困難さがわかるだろう。結局ポゼッションサッカーの純粋なCFで成功したのは、メッシがいる時のルイス・スアレスだけではないか、とさえ思える。
もちろん岡崎が点を取りまくればいいのだが、「ついでに2得点」と書いた通り、このプレースタイルのウエスカではCFに求められるのは得点だけではない。ミチェル監督はそこを評価しているから得点不足だからと言って岡崎を外すことはない、と断言する。
むしろ、得点不足の解消のためにこそ、岡崎をもっと活用すべきではないか。
例えばこんなシーン。
ボール出しに成功し相手の背後にスペースがある状況でMFがボールを持った時、岡崎はレスター時代にお馴染みの裏へ飛び出す動きを見せる。が、繋ぎにこだわり過ぎるのか、そこへパスが出ない。定石通り一端フリーのサイドへ展開し、そこで左右MFと左右FWのコンビによる崩しがあるか、センタリングが上げられるかになるのだが、いずれにせよ、岡崎はすでに相手に囲まれている状態になる。
そうではなくMFが前を向いた時に、岡崎へ縦に速く長いボールを出せばGKとの1対1が出来上がるかもしれない。パスが通る確率はもちろん低いが、その分絶対的なチャンスになる。遅攻だけでなくシンプルで手数をかけないカウンターもあるぞ、と相手に見せておくのは、守備の的を絞らせないためにも良い。
戦術的に作り込まれた好チームに臨機応変さと即興が加わればレベルが一段上がり、岡崎ももっと光るに違いない。
Photo: MutsuKAWAMORI/MutsuFOTOGRAFIA
Profile
木村 浩嗣
編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。