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誕生から1年で1部昇格!? FCソチ「ウルトラC」のカラクリ

2019.10.03

FCソチ

 ロシア南西部、黒海に面した街ソチは温暖な気候や温泉で知られ、ソ連時代から国内有数の保養地だった。5兆円近くの予算を費やした2014年の冬季オリンピック開催によって世界にもその名が知れ渡ったが、大会終了後もF1グランプリ招致やスキー場開発などが進み、スポーツ都市としての色を強めている。背景にはソチを国際的なリゾート地として是が非でも発展させたい国の戦略があり、アメリカ『ワシントン・ポスト』紙は「あらゆるところにプーチンの手が及んでいることを実感する街」とロシア政府の注力ぶりを紹介している。

 ただし、サッカーに関しては思惑通りには事が進んでいない。昨年のW杯では同じ地方でサッカー熱が高いクラスノダールを落選させてまでソチを開催地にねじ込んだが、サッカーファンにとって不可解な決定だった。かつてトップリーグにも参戦したFCジェムチュジナ・ソチは経営難により2011年に解散しており、以降ソチにはまともな地元クラブが存在していなかったのである。オリンピックで使用したフィシュト・スタジアムをサッカーのために改修したものの、大会後の活用の見通しはまったく立っていなかった。

特殊なロシア2部の事情

 ところが昨年6月、事態は急展開を迎える。2部に所属していた1924年創設の古豪ディナモ・サンクトペテルブルクが突然ソチへの本拠地移転と「FCソチ」への改名を発表。そして2部で2位となり、わずか1年でソチに1部リーグのクラブが誕生したのだ。ディナモのボリス・ロテンベルク会長は9歳の頃からプーチン大統領とサンボや柔道を習い、政府系企業と密接な関係にある富豪。ディナモの「引っ越し」に国の「指導」があったことは明らかだろう。

 1年での昇格が叶った要因には、様々なクラブが同居する2部の事情もある。スパルタク2やクラスノダール2のような1部クラブのセカンドチームは規定により昇格権を持たず、トム・トムスクのように経済的な理由で昇格を断念するクラブが半数ほど。つまり、1部参入はほとんど金次第という状況なのである。

 FCソチの当面の課題は巨大スタジアムの集客だ。昨季のフィシュトでの平均観客数は3948人。リゾート地だけに夏場は観光客で賑わうが、秋や春は街全体が閑散としている。クラブは昇格を機にイベントの数を増やし、ファンサービスの向上に着手している。チームを2シーズンで3部から1部まで導いたFCソチのアレクサンドル・トチリン監督は「魅せるサッカーをすれば結果にかかわらず観客は来てくれる。我われには飛び抜けたスターはいないが、コンビネーションで崩すことはできる」と攻撃的なスタイルを貫く覚悟だ。舞台をソチに変えているとはいえ、クラブの土台はペテルブルクとの関わりが深い。国の実質的なバックアップを受けて強豪へと成長したゼニトのように、FCソチが欧州カップ戦の常連となる日がやって来るかもしれない。

1部デビューを飾った開幕節スパルタク戦でオーバーヘッドを試みるDFツァラゴフ。開幕3連敗、7戦未勝利(3分4敗)と苦しいスタートを切ったが、初勝利を挙げた第8節以降は3勝1分1敗で10位まで浮上。目標の残留へ向け軌道に乗ってきている


Photos: Getty Images

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Profile

篠崎 直也

1976年、新潟県生まれ。大阪大学大学院でロシア芸術論を専攻し、現在は大阪大学、同志社大学で教鞭を執る。4年過ごした第2の故郷サンクトペテルブルクでゼニトの優勝を目にし辺境のサッカーの虜に。以後ロシア、ウクライナを中心に執筆・翻訳を手がけている。

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