クラブとして世界に挑戦する意味 永井雄一郎が語るUCLとACL
2019-2020シーズンの開幕を迎えるUEFAチャンピオンズリーグ。欧州を舞台とした世界最高峰の戦いはこれまでも数多くのドラマを生み出してきた。クラブとして国際試合を戦う魅力や意義を今シーズンからDAZN「Football Freaks」で欧州サッカーの解説も務める永井雄一郎氏に聞いた。レッズ時代のACL経験も振り返りながら、語られた言葉にはまだ現役時代の熱量が残っていた。
PSGの魅力
――UEFAチャンピオンズリーグがいよいよ開幕します。昨シーズン、解説者として初めて1シーズンを通じてご覧になられて改めて発見された魅力はありますか?
「国際試合なので色んな種類のサッカーが表現される点がまず面白いですよね。あと、同じ国際試合でも代表は一緒に練習する時間が限られているのでやりたいサッカーが出来ないこともありますが、クラブではそれが十分に表現されます。最も完成度が高いサッカーを観ることが出来るのがチャンピオンズリーグだと思います」
――今シーズン、注目しているクラブはありますか?
「昨シーズンに優勝予想をしたPSG(パリ・サンジェルマン)です。チームとしてハードワークを行った上で、選手個々の自由も感じさせてくれる。規律が徹底されることの強みは否定しませんが、一方で個人のイマジネーションが見えるチームの方がワクワクします。僕は予想を覆されるプレーに惹かれるので。まあ、昨シーズンはあっさり負けちゃったのですが(笑)」
――そういう意味では個で魅せることができるネイマールのPSG残留は大きいですね。
「ネイマールは気分にむらがありますが、守備のタスクをこなした上で攻撃では違いを出せる選手。チームの役割を果たすことだけに満足した時点で終わりなので、プラスアルファをいかに出せるか。チャンピオンズリーグはそれを出来る選手が多く出場しているので試合が面白くなることが多い」
――PSGはグループリーグにおいてレアル・マドリード、クラブ・ブルッヘ、ガラタサライと同じA組に入りました。
「PSGは比較的楽なグループに入った印象です。レアルも現状、そこまでチーム状態が上がっているようには見えません。今シーズンは全体的に強豪クラブが分散しましたよね。昨シーズンのPSG、リバプール、ナポリが同グループになるような“死の組”がない……バルサ、ドルトムント、インテルのF組が少し難しいですか。D組(ユベントス、アトレティコ、レヴァークーゼン、ロコモティフ・モスクワ)もレヴァークーゼン次第で混戦になる可能性はあるかもしれませんね」
――今シーズンは日本人選手4名(南野拓実、奥川雅也、伊東純也、長友佑都)が出場します。
「日本代表でも結果を出している南野選手は乗っている時期だと思うのでチャンピオンズリーグでどんなプレーを見せてくれるかは純粋に楽しみですね。(所属するザルツブルグは)リバプールやナポリと同組で厳しい試合になるとは思いますが、(昨シーズン戦った)ヨーロッパリーグでは自分の良さを発揮出来ていたので期待しています」
ACL経験から考えるクラブの国際戦
――近年のUEFAチャンピオンズリーグを語る上で“大逆転”は1つのキーワードだと思います。例えば「アンフィールドの奇跡」においてスタジアムの雰囲気、サポーターの後押しは逆転要因としてあると思いますか?
「間違いなくあると思います。レッズでプレーしていた時、埼玉スタジアムでは前半にリードされても、最終的には勝てると思わせてくれる雰囲気がありました。サポーターに気持ちを高めてもらえる感覚はありましたね」
――そのホームアドバンテージが爆発した試合が2007年ACL準決勝第2戦・城南一和戦だったと感じています。PK合戦時におけるレッズゴール裏の熱量は日本サッカー界におけるACLの価値を変えたと思っています。
「あれは凄かったですよね。相手クラブの選手じゃなくて良かったと心から思いました(笑)」
――そんな興奮状態のスタジアムの中、4人目のキッカーであった永井選手はインサイドで右隅に蹴って成功。冷静さが印象的でした。
「まずオジェック(監督)が僕を信頼してくれていたのが大きいですね。PK合戦が始まる前に『思いっきり蹴ればいい』と声をかけてくれて。あと、ホームなのでボールをセットするところから蹴るに至るまで自分のリズムをキープできたことで冷静でいられた部分もあると思います」
――特にアウェイだと思いますが、国際戦になると自分のリズムは乱れるものですか?
「そうですね。ただ、レッズでACLを戦っていた際は移動や食事など海外にいてもJリーグのアウェイ遠征時と変わらないサポートを多くの関係者によって実現して頂いたのでストレスは少なかったです。まあ、中東では地元のサッカークラブが練習場を占領していたり、ピッチに錆びた釘がまかれていたり、いかんともし難い事態は発生したのですが(笑)、サッカーに集中させて頂ける環境を整えて頂けたことは本当にありがたかったです」
――事実、2007年のACLではアウェイ無敗を記録しています。
「あと、戦術的な相性もあったと思います。当時のレッズは守備のチーム。まず守備を固めて、ボールを奪ったら手数をかけずに攻撃する。そのスタイルはACLにおいてホームでもアウェイでも変わらないのはアドバンテージでした」
――当時と今とでは状況は違っていると思いますが、日本勢がACLを連覇した2007年~2008年は相手クラブのスカウティングが甘かった印象もあります。
「Jリーグでは前から守備に来るチームが多く、時間的余裕が少ない中でプレーをしなければならない状況が多かったのですが、ACLではリトリートするクラブが多かったのでやりやすさを口にしていた選手は何人かいました。スカウティングの影響かは分かりませんが、サッカーの違いはありましたね」
――代表とクラブ、国際戦を戦う際に心境に違いはありますか?
「代表ではセレクションの側面もあるので相手と戦う前に自チームでの競争がありますし、短い練習時間で試合に挑むのでプレーが合わないストレスを僕は感じていました。クラブでは長い時間チームメイトと一緒に練習を重ねて気心も知れていますし、精神的にスムーズに試合に挑めますね」
――戦術的完成度と共にチームに対する帰属意識の高さなどもクラブレベルにおける国際戦を面白くさせる要素である。そして、その世界最高峰がUEFAチャンピオンズリーグ。
「国を代表する誇りは間違いなくありますが、サッカー選手として一番時間を費やしているのはクラブでの活動。それが国際戦という舞台で通用するのか。クラブが世界からいかに評価されるのか。選手として挑戦する重みがあるのはこちらだと思います」
永井雄一郎さんが出演する『Football Freaks』はUEFAチャンピオンズリーグ開催週の木曜日にDAZNで配信!
『Football Freaks』
出演:永井雄一郎、石川直宏、野村明宏、ベン・メイブリー(※UCL開催週以外に出演
Photo: Nahoko SUZUKI
Profile
玉利 剛一
1984年生まれ、大阪府出身。関西学院大学卒業後、スカパーJSAT株式会社入社。コンテンツプロモーションやJリーグオンデマンドアプリの開発・運用等を担当。その後、筑波大学大学院でスポーツ社会学領域の修士号を取得。2019年よりフットボリスタ編集部所属。ビジネス関連のテーマを中心に取材・執筆を行っている。サポーター目線をコンセプトとしたブログ「ロスタイムは7分です。」も運営。ツイッターID:@7additinaltime