残りのシーズンと、その先と レノファ山口の未来航路
昨季クラブ史上最高位を更新し、さらなる飛躍を期し2019シーズンに臨んだレノファ山口。しかし、待ち受けていたのは厳しい戦いだった。序盤の大不振からは脱却したものの、第29節を終え15位。シーズンも終盤に差しかかる今、レノファの現状とそしてこれからを、先週末のV・ファーレン長崎戦を取材したジェイ(@RMJ_muga)さんが綴る。
勢いを持続できなかった長崎戦
2019年のJ2はシーズン残り3分の1の戦いに突入。8月24、25日にかけて各地で開催された第29節、レノファ山口はV・ファーレン長崎を維新みらいふスタジアムに迎えた。
アウェイの長崎は[4-4-2]の布陣。夏の移籍期間に獲得したカイオ・セザール(←川崎フロンターレ)、秋野央樹(←湘南ベルマーレ)が中央でダブルボランチを組み、ベンチにはビクトル・イバルボ(←サガン鳥栖)も控える。
前節に引き続き[4-2-3-1]で迎え撃つホーム山口側では、同じく夏の補強で加わった宮代大聖(←川崎)、石田崚真(←ジュビロ磐田)がスタメンに名を連ねた。前節甲府戦で活躍した高宇洋(←ガンバ大阪)はベンチ外となったが、状況的におそらく負傷欠場と思われる。
各種イベントなど力の入った動員により1万2105人の大観衆が詰めかけた一戦。しかし、レノファは積極的なプレスを繰り出してきた長崎に主導権を握られ早々に失点。33分に早くも交代カードを切り、システムも[4-3-3]に変更した。終盤にはさらにFWを投入して[3-1-4-2]に変更するなどシステムや選手配置について何度も策を打つが実を結ばず、逆に要所で失点を重ね終ってみれば0-4の大敗。以前から続いている「観客が1万人を超えると勝てない」というジンクスも継続することとなった。
これには「初めてスタジアムに来てくれた人がいるかもしれない。そういう人たちにレノファのサッカーがおもしろい、もう1回見に来たいと思ってもらわなければならないのに、試合で負けたことよりも、そういうことができなかったことが本当に申し訳なく思います。結果も含めて全て監督の責任です。力のなさを感じます」(霜田監督)と、指揮官も肩を落とした。
これで今季18回目の複数失点。3勝3分8敗と大幅に負け越した序盤戦に比べ、中盤戦は6勝3分5敗と調子を上げながらも、最近5試合では4失点→零封→4失点→零封→4失点を繰り返すという何とも浮き沈みの激しい状況が続いている。
選手の「成長」による浮上
今季のレノファはスタートダッシュに失敗。一時は降格圏ギリギリをさまよっていたが、6月以降調子を上げてきており現在は「やや安全圏」まで浮上している。
浮上の要因として、最も大きいのは昨季に倣った「3バック」への変更。フォーメーション別の得失点では[3-4-2-1]が収支プラスと安定している(参照:Football LAB)
もう一つ、システム変更時期に顕著になってきた選手間の連係向上と成長による「自滅的ミスの減少」が挙げられるだろう。序盤戦は単純なパスミスやDF陣のミスが頻発しており、昨季にも増して若返りと入れ替えを促進したことのマイナス面がクローズアップされてしまっていた。
しかしながら徐々に連係は深まり、大卒1・2年目コンビのCB菊池流帆と楠本卓海は「高い授業料」を払いながらも日に日に逞しさを増してゆき、目に見えるミスは減っていった。第28節ヴァンフォーレ甲府戦では4バックに戻したが、強力外国籍FW相手にゼロで抑えている。
ただ全体的にはまだまだ戦い方が安定せず、大型連敗こそないものの連勝は2回のみと、なかなか結果と内容が持続しない。これについては「年齢は言い訳にはしませんが、サッカーの中で経験値がどれだけ大事なのかというのを、毎試合やりながら思い知らされている」 (霜田監督) と指揮官が語るように、若い選手たちによるアグレッシブなサッカーを目指す途上での、理想と現実の狭間に苦しんでいる格好だ。昨年の小野瀬康介(現G大阪)と同じように、今夏も瀬川和樹(→栃木SC)や高木大輔(→G大阪)、鳥養祐矢(→FC琉球)ら経験のある選手が流出。財政的に厳しいことから即戦力の補強は叶わず、出場機会を求める若手有望株の期限付き移籍で賄っているのが現状である。
終盤戦と、来季以降に向けて
ピッチ上の戦術においても、解決できていない課題がいくつかある。
例えば先述の甲府戦では[5-3-2]で低く構えてカウンターを狙ってくる甲府に対して、3ボランチ脇の有効活用とそこからのコンビネーションなど、1-0の最少得点勝利ながら多彩な攻撃を繰り出すことができた。一方で長崎戦では相手のハイプレスに苦しみ、「こちらの2CBに相手の2トップがプレスに来た時にうまくピックアップできずに、プレスにはまってしまっていた。それを剥がせる立ち位置を取れれば良かったがうまく数的優位を作れなかった」とボランチの佐藤健太郎が語ったように、この試合に限らず相手が強く来た際の対処については課題となっている。キャンプから「ビルドアップはノーリスクで行う」と掲げて取り組んできたが、実践にはムラがある状態だ。バタついたまま先制されて主導権を握られてしまった試合も多いだけに、落ち着いてボールを保持する、ゲームをコントロールすることについてはさらにトレーニングを重ねる必要があるだろう。
逆に「前進できた状態からの攻撃」のついては様々積み上がっている。確かに決め切れないシーンも多いが、ピッチの真ん中より先はその試合ごとの意図を感じる攻めも多く、あとは最後の精度やスピードが紙一重といった感じであまり心配はしていない。長崎戦も無得点に終わりはしたが、相手が引いてからは何度もチャンスを作れていた。
また来季に目を向ければ、現在の戦力をどれだけ維持できるかが一際重要となってくる。ベンチメンバーも含めれば常時6、7人を期限付き移籍選手が占めており、継続性としては不安が残る状況だ。もちろん前貴之や山田元気のようにそのまま完全移籍となるケースもあるが、今季の面子は年齢的に難しいのではないか。
もちろんどのポジションのどの選手もプロテクト対象なのだが、継続性という点からすれば特に楠本、菊池の両CBを残せるかどうかは今オフの最も重要なポイントになるのではないか。まだまだ経験不足ではあるが目指すサッカーに適合した人材であり、ここを抜かれてしまうと土台が一気に揺らぎかねない。資金力でどうこうできるクラブではないので、その他の条件面やメンタルケアが重要になってくるだろう。長崎戦にも見られるように、前半からの交代、後半頭からの交代といった積極采配が目立つだけに、交代選手やサブ選手へのケアも入念に行う必要がある。
一つの時代であった上野体制から霜田新体制へと引き継がれ、アグレッシブで魅力的なサッカーを披露しながらも観客動員は頭打ち状態にある。アマ時代を知るレジェンドの一人である鳥養の移籍もあり、今オフにさらなる大幅入れ替えがあれば、ライト層のみならずコア層が揺らぐことも懸念される。
このまま残留できるのか、さらに上位に食い込めるのかというピッチ上の内容・結果と同等以上に、オフに向けての動向にも注視していきたい。
Photo: Jay
Profile
ジェイ
1980年生まれ、山口県出身。2019年10月よりアイキャンフライしてフリーランスという名の無職となるが、気が付けばサッカー新聞『エル・ゴラッソ』浦和担当に。footballistaには2018年6月より不定期寄稿。心のクラブはレノファ山口、リーズ・ユナイテッド、アイルランド代表。