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ペップ・シティの強さを支える欧州屈指のデータアナリスト集団

2019.08.27

 クラウディオ・ラニエリがプレミアリーグを制覇する偉業を成し遂げ、フットボールの歴史を示すモニュメントに名を刻んだ時、背後には統計の専門家ダニエル・アルトマンが「世界でもトップレベルのデータ分析者集団」と語る分析チームが存在した。

 レスターがデータ分析を活用して奇跡を成し遂げたことは、瞬く間に一般のメディアにも取り上げられた。エンゴロ・カンテをフランスから発掘したスカウティング部門のデータ活用もその1つで、スカウティングの責任者だったスティーブ・ウォルシュや北欧担当スカウトを務めたオレ・ニールセンはエバートンへと引き抜かれる。この頃から、優秀な「裏方」の奪い合いは加速していく。

 プレミアリーグ連覇を成し遂げたマンチェスター・シティも、アナリストへの投資を惜しまない。最先端の設備が導入される練習場でも、様々な位置にカメラが設置されている。練習から選手のプレーを記録し、データを収集するアプローチはトップクラブでは「一般的な取り組み」となっている。個人の技術指導を任されているミケル・アルテタは、個々の練習動画を確認することで、緻密な指導に繋げている。同時にGPSを搭載したウェアラブルデバイスの発展は、選手の位置情報などのデータ収集を容易にした。

タブレットを使ってフェルナンジーニョを指導するシティのアシスタントコーチ、ミケル・アルテタ
タブレットを使ってフェルナンジーニョ(右)を指導するシティのアシスタントコーチ、ミケル・アルテタ。シティはデータ活用の分野でも最先端を行く

 すでに、彼らのデータ分析は「複数クラブ」に及んでいる。なぜなら、シティ・フットボール・グループのデータ分析は「統括的に管理されている」からだ。複数人のデータサイエンティストを束ねるのがバークレーやデロイトといった他分野で実績を積み、2014年にサッカーの世界に足を踏み入れたリー・ムーニー。彼の右腕には、ボルトン時代に「データ分析の先駆者」と評されたブライアン・プレスティッジが控える。彼らはさらにデータ分析の活用を目的に、マンチェスター・シティ専門のデータサイエンティストも公募中だ。

 トップチームのデータ分析と活用を統括するのが、バルセロナB時代からグアルディオラとともに働く「相棒」カルレス・プランチャート。グアルディオラの求めるデータや映像を把握し、適切なタイミングで準備することに長けている男には、指揮官も全幅の信頼を寄せる。彼のチームを構成するのが、U-18チームのアナリストから叩き上げてきたアーロン・ブリッグスと、イングランド下部リーグのスカンソープ・ユナイテッドから引き抜かれたハリー・ダン。2013年にレディングから加入し、アシスタントアナリストから「対戦チーム分析」に抜擢されたのがリチャード・ブレダイス。彼は相手チームの分析を担当しており、弱点を見抜く力に長けている。全員が最先端のテクノロジーに精通し、映像などのデータを共有している。

プランチャート(右)はバイエルン時代にもグアルディオラの“相棒”を務めていた

「23歳のエリート分析官」にみる未来

 中でも最も興味深い存在が、提携先のNACブレダから呼び寄せた「23歳のエリート分析官」ピート・クレマースだ。オランダでわずか18カ月で実力を認められた青年は、データ革命に挑むクラブとして知られるブレントフォードで腕を磨いた経歴の持ち主。コーチングスタッフや分析チームの雇用に積極的に取り組んでいるスコットランドの古豪レンジャーズに引き抜かれたニール・マクラージーの後を継いだルーク・ストップフォースの分析チームに所属しながら統計データの分析を叩き込まれたクレマースは「マンチェスター・シティの統計データ分析には、発展の余地がある」と指摘する。

 彼の武器は、最先端の統計分析だ。特に「ゴール期待値」を使った分析に精通する彼を招へいしたことは、マンチェスター・シティの先鋭的な姿勢を示唆している。選手の個人技術を向上させるトレーニングにも「統計データを活用する」彼のスタイルは、チームに新たな視点を加えるだろう。実際にタレントの質・量の両面で他を圧倒しながら、最新鋭のデータ分析の導入にも躊躇しない。シティは豊富な資金力で、データ分析の分野でも欧州の頂点を目指している。


Photos: Getty Images

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マンチェスター・シティ戦術

Profile

結城 康平

1990年生まれ、宮崎県出身。ライターとして複数の媒体に記事を寄稿しつつ、サッカー観戦を面白くするためのアイディアを練りながら日々を過ごしている。好きなバンドは、エジンバラ出身のBlue Rose Code。

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