12月から2月の冬季中断があるため、欧州各国に先駆けて7月12日に開幕したロシアプレミアリーグ。本田圭佑、巻誠一郎、松井大輔、赤星貴文に続くリーグ5人目の日本人選手、22歳のFW西村拓真(CSKAモスクワ)は勝負の2年目を迎えている。
昨シーズンは12試合に出場し2得点。先発は4試合にとどまり、試合終盤の交代出場が多かったが、限られた時間の中でも状況に応じたポジショニングやパスを引き出す動き出しには光るものがあった。「ロシア語はほとんどしゃべれなくて、英語を勉強しています」「チームメイトは各国代表ばかり。個の力の差を感じた」と語る西村にとって、1年目はとにかく環境に慣れ、自分に足りないものを確認するシーズンとなった。
西村を気にかけて頻繁に対話を重ね、一緒に日本料理屋に行ったこともあるというビクトル・ゴンチャレンコ監督は昨シーズン終了後、その高いプロ意識を認めこうコメントを残している。
「タクマは良質な日本車みたいだね。ミニマリオのようでもある。練習好きで誰よりも早く来て、遅くまで残っているし、出番が3分だったとしてもその3分にすべてを懸けている。最初は言葉の問題で戦術理解に苦労したが、今は大丈夫だ。不満を漏らすこともなく、監督の要求を懸命に理解しようとしている」
生きのいい若手たちとの競争
CSKAは昨年のW杯後に8人もの主力が抜け、チームは大幅な若返りを図った。7シーズン連続のCL出場は逃したものの、4位でEL本戦出場を決め、多くのメディアが「再構築途中の1年目にしては上出来」と評価。クラブにも失望の色はなく、その要因は若きタレントたちの台頭にある。
筆頭は21歳46日で史上最年少リーグ得点王に輝いたFWフョードル・チャロフ。ゴール前でのシュート技術に磨きがかかり、代表でも次世代エース候補として期待されている。複数の欧州クラブからの関心が伝えられているが、よほど好条件のオファーがない限り放出の可能性は低く、西村が狙うのはチャロフとコンビを組むセカンドトップか、2列目となる。
しかし、そこには昨季ブレイクを果たしたライバルがひしめいている。昨年の国内最優秀若手選手に選ばれた21歳のイルザト・アフメトフや21歳のイバン・オブリャコフは万能型で代表定着を狙える逸材だ。エバートンで伸び悩んでいたクロアチアの21歳二コラ・ブラシッチはほとんどの専門家がシーズンベスト11に選ぶ活躍を見せ、クラブは異例の5年の契約延長を提示。アイスランド代表アルノル・シグルズソンやスロベニア代表ヤカ・ビオル(ともに20歳)も西村以上の数字を残した。
3年連続で国内最優秀若手選手を輩出しているCSKAでは20代前半の選手たちによる熾烈な競争が繰り広げられている。横一線から誰がより急激な成長曲線を描けるか。ロシアから日本代表を狙う西村の挑戦が始まった。
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Profile
篠崎 直也
1976年、新潟県生まれ。大阪大学大学院でロシア芸術論を専攻し、現在は大阪大学、同志社大学で教鞭を執る。4年過ごした第2の故郷サンクトペテルブルクでゼニトの優勝を目にし辺境のサッカーの虜に。以後ロシア、ウクライナを中心に執筆・翻訳を手がけている。