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CLは16強で1冠止まり…パリSG、 トゥヘル1年目をどう評価するか

2019.08.05

18-19 Playback For The Coming Season#4

8月に入り、5大リーグ開幕の足音が近づいてきた。プレシーズンマッチを重ねチーム作りを進めている各クラブは、順調に歩みを進められているのか。その進捗を測るうえでは、昨シーズンのチームが抱えていた課題を正確に把握しておくことが欠かせない。

この昨シーズンの振り返り記事で課題を再確認することで、来たる19-20シーズンに向けた準備は的を射ているのか、的外れになってしまってはいないか、判断する手がかりにしてほしい。

PARIS SAINT-GERMAIN | パリ・サンジェルマン

 昨シーズンのパリ・サンジェルマンは欧州の主要リーグでは前人未到の開幕14連勝を成し遂げ、第33節で優勝を決めた。がしかしその彼らの18-19は、「失敗」だったとされている。リーグカップ、フランスカップの両タイトルを逃し、悲願のCLではまたしても16強止まりに終わったからだ。お金でトロフィーが買えるわけではないが、彼らに次いで年間予算の多いリヨンの倍近い運営費を投じているとあっては、1冠だけでは採算が取れない、ということだろう。

 18-19のPSGは、キリアン・ムバッペの成長を映し出す場だった。夏のロシアW杯でフランス代表の主力として優勝を経験した20歳の寵児は、クラブでもエースの一角としてチームを牽引できることを十分に証明してみせた。特に後半戦、ネイマールとエディンソン・カバーニが相次いで負傷で長期欠場を強いられると、攻撃は若きムバッペに託されたが、ポジションをサイドからトップへとスイッチしてゴールを量産。リーグ得点王に君臨したゴール数と合わせて特筆すべきは、そのコンスタントさだ。出場したリーグ戦で得点ゼロに終わったのは連続2戦が最長。2月から3月にかけては7戦連続でゴールを記録した。その彼が終盤、出場停止処分で欠場した3試合では、チームは1勝しか挙げていない。もはやムバッペの影響力はPSGでも絶大だ。

 年間最優秀選手賞と年間最優秀若手選手賞をダブル受賞したプロ選手組合主催の年間アワードの席で彼は、将来について「PSGでももちろん良いが、別の場所かもしれない。まったく新しいプロジェクトに挑むこともある」と発言した。昨季の活躍ぶりを見ても、ムバッペがフランスでやり残したことはそう多くはないだろう。

アメとムチを使い分け、ネイマールもやる気

 一方、新監督トーマス・トゥヘルの1年目については、十分に評価できる。チームが熟成し、指揮官の采配に大きく左右されることなく勝ち続けられる状態になる場合もある。ズラタン・イブラヒモビッチが船頭となり、国内スーパーカップと合わせて4冠を達成したローラン・ブラン監督の3年目、15-16シーズンなどはそうだった。

トレーニングで選手に指示を送るトゥヘル監督

 しかしいくらスーパープレーヤーがそろっていても、うまく使いこなせなければ結果は出せない。トゥヘルはその点において、就任直後からスター軍団にしっかり規律を植えつけ、監督としての自身の立場を認識させた。ほんの数分の遅刻でもメンバーから外すという制裁を科す厳しさの一方で、寛大にオフ日を与えるなどアメとムチを使い分けながら、17-18に騒がれたカバーニとネイマールの軋轢(あつれき)もうまく収め、強烈なバッシングでやる気を失いかけていたネイマールに息を吹き込んだ。トゥヘルは「ネイマールが絶対的なリーダー」だと明言しつつも、先輩カバーニへのケアも怠らず、ムバッペについても彼の良さを最大限に生かせる状況を作った。

 PSGにとって計算外だったのは、昨年に続き今年も、CLが決勝ラウンドに突入する一番大事な時期にネイマールが致命的なケガを負ったことだ。本人もシーズン序盤から「ピークが最も重要な2月以降にくるよう調整していく」と誓っていただけに無念さもひとしおだったろうが、彼なしで戦い、CL史上初の大逆転を許したマンチェスター・ユナイテッド戦、ホームの第2レグ(3月6日)で喫した敗北は、選手たちのメンタル面に相当なダメージを与えた。

 すでにリーグ制覇が確実となった4月は気が抜けたように公式戦2勝1分4敗と負け越し、フランスカップ決勝でレンヌに敗れるとトゥヘルへの批判の声も上がった。だが、スター軍団の維持にお金がかかるため育成所上がりの若手がバックアップを務めるチーム事情や、にもかかわらず契約延長に応じないMFアドリアン・ラビオを上層部が戦力外にするなど、彼の手腕だけではどうにもならない難局もあった中で、指揮官はできる限りの結果を導き出したと言える。

 そんなPSGの18-19は、果たしてさらなる高みへジャンプするための助走だったのか、それともカタール体制の限界を象徴するものなのか? 5月下旬に2021年までの延長契約を締結したトゥヘルにとっても経営陣にとっても、19-20に向けたプレシーズンは多くの宿題を抱えた夏になる。

「多くの宿題を抱えた」プレシーズンを経て8月3日に迎えたスーパーカップではレンヌに2-1で勝利。フランスカップでの雪辱を果たし幸先の良いスタートを切った


Photos: Getty Images

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トーマス・トゥヘルパリ・サンジェルマン戦術

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小川 由紀子

ブリティッシュロックに浸りたくて92年に渡英。96年より取材活動を始める。その年のEUROでイングランドが敗退したウェンブリーでの瞬間はいまだに胸が痛い思い出。その後パリに引っ越し、F1、自転車、バスケなどにも幅を広げつつ、フェロー諸島やブルネイ、マルタといった小国を中心に43カ国でサッカーを見て歩く。地味な話題に興味をそそられがちで、超遅咲きのジャズピアニストを志しているが、万年ビギナー。

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