ウルグアイ戦分析:中央で4対2。数的優位を作り出した“采配”
平野将弘の日本代表テクニカルレポート
若手中心の陣容で20年ぶりのコパ・アメリカに挑んでいる日本代表。2戦目は優勝候補の一角ウルグアイを向こうに回し2度リードを奪い、追いつかれたものの2-2のドローで勝ち点1を手にした。欧州の現場を知る指導者の目にこの一戦はどう映ったのか。イングランドのカーディフでコーチを務める平野将弘氏が分析する。
難敵ウルグアイ相手に真剣勝負の場で善戦。選手全員が森保一監督から与えられたタスクや試合中での制約をしっかりと遂行できているように見えた。さらに、チリ戦で露になった問題点を修正できている、または修正しようとしているようにも見受けられた。そういった姿勢が監督と選手の両方から見られたというのは、非常にポジティブな傾向である。
一方で、基本システムの噛み合わせが良かったことに加え、ウルグアイのボール非保持時のプレースタイルが幸運にも、日本が苦手とする前線からガンガンカウンタープレスを仕掛けてくるものではなかったという側面があったのも事実だ。
ただ間違いなく言えることは、代表分析スタッフのスカウティングの成果と森保監督の戦術的知性の高さが采配に現れていたということ。ウルグアイのプレースタイルや個々の特徴をよく理解して、この先発メンバーと基本システムやタスクを決定したに違いない。
ウルグアイの基本システムは、75分まではフラットの[1-4-4-2]で、これは日本と同じであった。その後、フェデリコ・バルベルデを投入した75分あたりから逆3角形の3MFに変更。前を3枚に増やし、ポジションはかまわず流動的にプレーしていた。
ウルグアイのプレースタイルは簡潔に述べると、前線のカバーニとルイス・スアレスの質的優位性を生かしたダイレクトな攻撃(ただし、後ろから丁寧にビルドアップをできるクオリティも兼ね備えている)。いかに早く、スペースがある時に彼らにボールを送れるかが鍵となるため、カウンターアタックやロングボールを多用する。これは彼らが抱える選手の特徴を考えると、とても理に適っている戦術だと言える。エビデンスとして両チームのCBのロングボール回数を見てみると、日本のCBの冨安健洋と植田直通がともに5回なのに対して、ウルグアイのCBゴディンが16回、ヒメネスが15回と3倍の数字を叩き出している。ウルグアイはケガで欠場しているベシーノの位置でルーカス・トレイラがプレー。ベストメンバーで若き日本代表と相対した。対する日本代表はチリ戦から6人、メンバーを変更して。
ここからは前回のチリ戦同様、①ボール保持時、②ボール非保持時、③トランジションの3局面ごとに日本代表のパフォーマンスを分析していく。
①ボール保持時
チリ戦と比較して、このウルグアイ戦で明らかに改善された部分がボール保持時のSBのポジショニングだと個人的に見ている。この試合ではSBが高く、ワイドに位置することで幅と深さを取ることができていた。そして、サイドMFの中島翔哉や三好康児がボールを持った際には、オーバーラップしてサイドで数的同数の局面を作ったり、相手をおびき寄せる役割を果たしたりして、カットインを得意とするこの試合のサイドMFの特徴を生かすことに成功した。
ではなぜ、SBが適切なポジショニングを取ることができたのか。それには3つの理由が挙げられる。1つ目は、明らかに森保監督からの指示があったこと。チリ戦の反省点を練習場で修正し、ピッチ上で示すことができた。2つ目は、日本の自陣内でのウルグアイのプレス強度だ。彼らのボール非保持時の戦術は、基本的に[1-4-4-2]のベーシックなゾーンディフェンス。FW2人の前線からのプレス強度は高くなく、DFとMFユニットはミドルゾーンで構えて守備を行なっていた。チリ戦の後半がそうであったように、相手が前から激しくプレスに来なければ、日本のSBは効果的なポジションを取ることができる。3つ目は“逆足”サイドMF起用である。右利きの中島を左に、左利きの三好を右に起用することで、彼らにより中へのプレーを要求。サイドにスペースを作り、その空いたスペースをSBが埋めるまたは利用するという連動した動きが自然に見られた。日本の2点目はまさにこの連動性から生まれた得点であり、両SBが最終的にはファイナルサードまで位置していた。そして、そのサイドMFのポジショニングも、この試合のボール保持時におけるキーワードである。ウルグアイの2CF、スアレスとカバーニが守備の際に深い位置までほとんど戻らず、守備的MFと彼らとの間にギャップができていた。日本代表はそのギャップを利用して中央で数的優位を作ることにより、ピッチ上で1番難しい真ん中のレーンでボールを握り、中央を突破することに成功した。それはデータにも表れている。
このデータはピッチを縦に3分割し、どのサイドでより攻撃が行われたか、そしてどのサイドの攻撃が1番脅威だったかを示すものである。ウルグアイの攻撃はサイドからが多かったのに対し、日本はサイドよりも中央を使い攻撃していたことがわかる。さらに中央突破によるxGはサイド攻撃より高く、効果的に行えていたことが示されている。それではなぜ、人が密集しやすくボールを持つのが最も困難な中央で数的優位を得ることができたのか。それはまさに、サイドMFが中でプレーしていたことに起因している。
上図を見てもらいたい。中でプレーする日本のサイドMFの存在により、ウルグアイの2セントラルMFがピン留めされている。例えば、ここで相手セントラルMFが1列上げて日本のセントラルMFをマークしに行ったとしても、それだけでは日本のサイドMFか、CF高い位置にいるSBのパスコースのどれかが空く現象が生まれる。この時、日本視点で見た時に戦術的ディテールとして重要なのが、SBが高く位置し過ぎないこと。相手のサイドMFの位置に留まり彼らを引きつけることが、この状況を作るのに必要だからだ。もしパスコースが完全に塞がれていたら、GKの川島に戻してビルドアップをすれば良い。
前線では中島が十八番のドリブルで時に相手を5人も引きつけ、柴崎はこの中央に生まれた位置的優位性と数的優位性を賢く利用し、隙あれば縦にペネトレイトパスをいくつも配給。2分15秒の自陣でのスローインからの流れで生まれたこの試合最初の得点機は、まさに彼ら2人の優位性が集結したものだった。このように相手の守備構造や戦術の恩恵を生かし、ピッチ中央で4対2の状況を作れたことは大きな意味があったし、これは事前に森保監督が狙っていたと推測する。
②ボール非保持時
今回は、あえてFW、MF、DFの各ユニットごとにタスクとパフォーマンスを分析してみた。初めに、岡崎と安部裕葵のFWユニットから。相手CBがボールを持っている時は、守備的MFのトレイラとベンタンクールを警戒しながらプレスへ行っていた。ただし、相手のビルドアップ陣形が整っている時はそこまで激しく行かない。プレスの開始位置に関しては、前のチリ戦のような前からの無駄追いは減少。計画的に後ろのMFラインとの距離をコンパクトに保ちながら、センターサークルのあたりからスタートしていた。ウルグアイの2セントラルMFは日本のCFによってパスコースを消されているので、SBの位置に下りたり、たまにCBの間に入ったりと臨機応変に工夫したポジショニングを見せていたが、先のデータでも示したように、結局はCBが前に蹴る場面が多かったように感じる。
次は、岩田智輝、植田、冨安、杉岡大暉によるDFユニット。まず、流れの中からの失点がなかったことは評価したい。チリ戦の4点目のような、集中力を欠いた守備が終始見られなかったことも素晴らしい。ただし、この結果は正直なところ運に恵まれた部分もある。
具体的には、世界トップクラスの両ストライカーに対してのプレッシャーが遅く、甘かった。相手シュート数を見れば明らかで、トータル25本のうち18本をスアレスとカバーニによって放たれている。バーと川島に救われる場面が少なくなかったのが事実だ。この試合での冨安の空中戦勝率はわずか17%。ウルグアイの2点目のシーンでも、ホセ・マリア・ヒメネスに競り負けヘディングで得点を奪われた。DF全体のデュエル勝率を見てもウルグアイのCBのヒメネスが36%、ゴディンが50%なのに対し、岩田が0%、植田が22%、冨安が29%、杉岡が14%と全員が低調な数値にとどまっている。
ただその一方で、インターセプトに関しては岩田が6回で植田が8回、冨安は13回、杉岡は7回を記録。体をぶつけない、頭を使った予測のディフェンスでピンチを凌いだ。身体的な不利を考えると、我われ日本人がやれることをしっかりやったと言えるだろう。
最後にMFユニット。個人的にはチリ戦よりも格段に良くなっていると感じた。その理由としては、中島も積極的にMFラインへ入り守備をする時間が増えたこと。後半の残り15分はボール非保持時に自陣深くまで戻ることは多くなかったが、これはチーム内で許容されているように感じた。実際、中島がMFラインで守備参加しない時は残りの3人が中央でコンパクトに効果的な位置取りをしながらディフェンスする場面が見受けられた。中島がユニットに加わる場合とそうでない場合の守備陣形が、事前に準備されていたものと考えらえれる。そうしたポジショニングの柔軟性も、前の試合より成長したと感じるポイントだ。
加えて、38分には森保監督が中島に対して守備位置を少し下げるよう、修正を促している様子が映像から確認することができた。彼の守備時のポジショニングに改善が必要な点は、森保監督も当然理解していたであろう。
個人的な見解を述べると、中島は攻撃時には圧倒的な個人技で好影響をもたらす選手であるから、ある程度は守備を免除されても良いと思う。そのために、安部をサイドに持ってきてトップ下で起用するのもありだろう。ただし、中島はボールが自分よりも前にある時の守備の頻度は高いし、器用に行う選手であるということを最後に記しておきたい。
③トランジション
ポジティブトランジションに関しては、相手の両SBが高い位置へ攻撃参加していた時に効果的にカウンターアタックができていた。ダイレクトな攻撃よりもポゼッションをより好む攻撃スタイルを志向する中でも、ウルグアイの守備陣が2CBと1人のMFの3枚しかいない場合には、すぐに速攻のスイッチを入れ3人、4人と適切な人数をかけてアタックを遂行することができていた。具体的には8分49秒と45分45秒の2つのシーンだ。
ネガティブトランジションについては、ファイナルサードのサイドでボールを保持している際には逆サイドのSBは後ろの人数の状況によっては上がらず、セントラルMFの横に位置してカウンター対策をするなど、状況に応じて正しい準備ができていたと言える。ボール保持時に残る枚数についても、2セントラルMFがよく判断できていたと思う。板倉に関しては、左サイドで中島と杉岡の2人が高い位置で攻撃参加している時、ネガティブトランジションでその後方のスペースを突かれないようにもう少し2人に寄るべきシーンがあった。だが、基本的な部分では大きく改善されている印象を受けた。
次はグループステージ最終戦のエクアドル戦。勝てば決勝トーナメント進出となる一戦で、実際は非常に手ごわい相手を過小評価せずにどう戦うかが楽しみだ。
コパ・アメリカはDAZN独占配信! 今なら2カ月無料キャンペーン実施中!!
Photos: Getty Images
Profile
平野 将弘
1996年5月12日生まれ。UEFA Bライセンスを保持し、現在はJFL所属FC大阪のヘッドコーチを務める。15歳からイングランドでサッカー留学、18歳の時にFAライセンスとJFA C級取得。2019年にUniversity of South Walesのサッカーコーチング学部を主席で卒業している。元カーディフシティ