『ガーディアン』紙コラボ企画:女子W杯チーム紹介
イギリスの高級紙『ガーディアン』との連動企画が昨年の男子W杯に続き実現! そのブランド力を生かし各国の一流メディアが提携した「女子W杯コラボレーション企画」に、“日本代表”としてfootballistaが参加した。各国事情に精通する記者による出場国紹介の中から、日本がGS第3節で対戦するイングランドの記事をお届け。情報が限られる対戦国の現状をチェックしてほしい。
フィル・ネビル体制では、ダイレクトプレーとカウンターアタックを主体とする実用的なスタイルから、甘美なパスワークとポゼッションを重視する洗練されたスタイルへの移行が取り沙汰されていた。しかし、現実を照らし合わせてみれば「ハイブリッドなチーム」と表現できるだろう。複数のスタイルを組み合わせながら相手に合わせて柔軟にアプローチを使い分ける対応力は、紛れもなくこのチームの1番の強みであり、フランスでの活躍を後押ししてくれるに違いない。結局、4年前のカナダW杯でマーク・サンプソンが率いたイングランドの収穫は銅メダルのみ。ネビルの前任者は毎試合のように選手、布陣、戦術を変更していたため、超攻撃的になったかと思えば超守備的にもなる、そんなチームだった。
当時のメンバーには世界トップ40に入る選手がカレン・カーニー1人しかおらずサンプソンが悪戦苦闘する要因となったが、今では世界レベルの選手も増えており、ネビルのもとでチームは技術的にも成長を見せている。しかし、いまだにイングランドは1つのスタイルを極めてきた対戦相手との勝負をモノにできていない。確かに、今春アメリカで開催されたシービリーブス杯を制したのは事実だ。だが、ホームに強豪スウェーデン、カナダを迎えた親善試合ではそれぞれ敗戦。国民の不安を煽ってしまう結果となった。
“ライオネス”(イングランド女子代表の愛称)が勝ち進んでいけば、言うまでもなく指揮官にはローテーションをしてやりくりをする手腕が問われる。ただ幸運なことに、彼が率いるメンバーには層の厚さと幅広さがある。ネビルは主に[4-3-3]と[4-2-3-1]を併用。後者のシステムでは天性のプレーメイカー、フラン・カービィ(チェルシー)を古典的な10番に据えて真価を発揮させることが可能だ。 カービィのライン間でプレーできる天賦の才はイングランドがチャンスを演出する上で必要不可欠であり、ジェイド・ムーアとジル・スコットはバランスの取れた中盤のペアとして共演できる。それでも、負傷した攻撃的MFジョーダン・ノブスが起こすはずだった“化学反応”が恋しくなるかもしれない。
イングランドは守備面でも強力だ。中央ではステファン・フートンとミリー・ブライトが無敵のコンビを組み、世界最高の右SBであろうルーシー・ブロンズは精力的な攻撃の突破口となる。ネビルはブロンズを中盤でも試しているが、輝かせるならSBでの起用だろう。攻撃陣にはカービィ、ニキタ・パリス、トニ・ドゥガン、ベス・ミード、エレン・ホワイト、ジョディ・テイラーら豪華なメンバーがそろい、全員がゴールを演出できる。
ネビルが抱えるジレンマは、 前線3、4枚の相性と組み合わせにある。 創造性と守備での献身性を兼備するノブスが負傷で抜けた穴が大きいからだ。ノブスがピッチに立つことができていれば、負担が大きい中盤の不安を払拭することができていただろう。そしてもう1つ、2017年の女子EUROで得点王に輝き、今もチーム随一の危険なストライカーであるテイラーが、最も輝けるアプローチを見い出す必要がある。もしかすると、ネビルにとってこれが最重要課題かもしれない。
Text: Louise Taylor
Translation: Masatoshi Adachi (footballista)
Photos : Getty Images
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ガーディアン
1821年に『マンチェスター・ガーディアン』として創刊したイギリスの高級紙。スポーツ面を含め「読み物」の質の高さでクリエイティブ層からも支持されており、世界中に1億4000万人以上の閲覧者を持つ。