来季からアルゼンチンの女子サッカー1部リーグがプロ化されることとなり、3月16日にAFA(アルゼンチンサッカー協会)が発表会見を行った。以前にもこのコラムで取り上げたが、アルゼンチンでサッカーといえば「男のスポーツ」という概念が根強く、女子サッカーにおいては明らかに「発展途上」にある。
そんな国でプロ化に踏み切ったAFA幹部と開発部の行動力は当然注目を浴び、私も会見に足を運んだ。会場は大勢の報道陣と女子サッカー関係者で文字通りあふれ返り、座るどころか立つ場所さえなく入れなかった人もいたほど。AFAの広報も「まさかこんなにたくさんのメディアが集まるとは予想していなかった」と話していた。
ある1人の女子選手の訴えから
会見にこれほど大勢の報道陣が集まり、各メディアが「アルゼンチンサッカー史における歴史的な日」と大々的に報じた背景には、近年の欧米の動きに遅れることなくアルゼンチン社会でも女性の声が強い影響力を持ちつつあること、そしてどのクラブも女子サッカーの活動に本格的に力を入れ始めた現状が反映されている。
会見に先立ち、3月9日にはボカ・ジュニオールの女子チームが初めてホームスタジアムのボンボネーラで公式戦を戦い話題となった。男子チームの試合の前座として行われたこともあり、後半が始まる頃には大勢のサポーターが詰めかけ、ラヌース相手に5-0と完勝した“Las Gladiadoras”(ボカ女子チームの愛称で「女グラディエーターたち」の意)の勇姿に会場は大いに盛り上がった。
これを機に国内の他クラブでも女子チームの活動をアピールする動きが急激に広がっていることから、AFAのプロ化宣言はジャストなタイミングだったと言っていい。
ではなぜこうした激動があったのかというと、やはり昨年起きたある選手の解雇をめぐる世論が火つけ役になったと考えていい。強豪クラブUAIの主力でありながら突然退団を命じられたマカレナ・サンチェスが、その不当な扱いに不満を抱き、クラブとAFAを相手に訴訟を起こしたのだ。クラブには雇用側の責任、AFAにはFIFAが定める男女平等のルール考慮および女子リーグのプロ化を求める内容だったが、たった1人の訴えに大勢の女性が一斉に賛同の声を上げたのである。
2017年3月の就任以来、AFAのクラウディオ・タピア会長は女子サッカーのプロ化に向けて同組織の開発部とともに着々と準備を進めてきていたが、だからこそ訴訟を機に起きたムーブメントに乗り遅れるわけにはいかなかった。会見ではプロ化の要因にサンチェスの影響があったのではないか? との問いに「私は2年前からサッカー界の男女平等に取り組んできた」と答えた会長だが、この一件がプロ化発表を急がせたことは明白だった。
3月末にはAFAが所有する代表チームのトレーニングおよび合宿施設内に女子代表専用のロッカールームがオープン。12年ぶりのW杯出場を前に、アルゼンチンの女子サッカー界は転換期を迎えている。
☆アルゼンチン女子プロリーグの概要
・首都圏の16チームで構成
・各クラブ最低8人がプロ契約を結ぶことが条件
・プロ契約を結んだ選手には男子4部リーグと同じ最低賃金が保障される
・各クラブにはAFAから女子チームをサポートする助成金が出る
・スタジアムのないクラブのホームゲームはAFAの施設で行われる
・アルゼンチンサッカー選手組合を通して全選手に医療保険が与えられる
Photos: Javier Garcia Martino/Photogamma
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Profile
Chizuru de Garcia
1989年からブエノスアイレスに在住。1968年10月31日生まれ。清泉女子大学英語短期課程卒。幼少期から洋画・洋楽を愛し、78年ワールドカップでサッカーに目覚める。大学在学中から南米サッカー関連の情報を寄稿し始めて現在に至る。家族はウルグアイ人の夫と2人の娘。