アジア・アフリカから新たな才能を発見せよ!FIFA U-20 ワールドカップのスター候補
これまで多くのスター選手を生み出してきたU-20ワールドカップ(旧ワールドユース選手権)だが、欧州・南米はもちろんアフリカ・アジアからも多くの選手がこの大会をきっかけにスター選手への階段を駆け上っている。
リーガで活躍する韓国人レフティ
今大会で最も期待される一人がリーガエスパニョーラのバレンシアに所属する韓国のイ・ガンインであることに異論の余地はないだろう。幼少期から天才的な才能を認められて両親とスペインに移り住み、ダビド・シルバらを輩出したバレンシアのカンテラでメキメキと頭角を現すと、昨年のコパ・デルレイでトップデビュー、今年1月には17歳でリーガデビューを果たした。
超絶技巧の左足を駆使したドリブルと俊敏なステップワーク、遠目からでもゴールを狙えるシュート力、そして直接FKと攻撃的なセンスをハイレベルにそろえており、個人で組織を打ち破る希少な能力は韓国開催だった前回大会で注目を集めたバルセロナのカンテラ出身MFイ・スンウをも上回る。また、時に周囲を生かすオープンな視野も兼備。これらを持ち合わせていることが、バレンシアという欧州トップレベルの厳しい環境で下部組織からトップチームへステップアップできた要因だろう。
イ・ガンインは10歳の時にバレンシアの入団テストに合格した。だが、未成年の国際移籍はFIFAの移籍条項によって制限されている。特例の条件を満たしすぐ加入するには、家族全員がスペインに移り住まなければならなかった。家族が10歳の子供に生活を賭けるというのは是非があるかもしれないが、この時の決断がなければ10代にしてリーガで活躍する韓国人レフティが生まれていなかったことも事実ではあろう。
トップデビューするまでの間にも多くのビッグクラブからの誘いが後を絶たなかったようだ。それでも、バレンシアはイ・ガンインを守り続けてきた。DFキム・ヒョンウ(ディナモ・ザグレブ)、MFキム・ジュンミン(リーフェリング)といった”欧州組”も名を連ねるが、韓国が今大会で前回のベスト16を上回る躍進を果たしたならば、その時にはきっとイ・ガンインが輝きを放っているはずだ。
ネクスト・ヤヤ・トゥーレ
ナイジェリアはU-20ネーションズカップの準決勝でマリにPK戦負けを喫し、アフリカ4位で今大会への出場権を手にした。ただ、その“アフリカ予選”には参加していなかった有望タレントが今回は登場する。マンチェスター・シティのU-23でプレーするトム・デレ・バシルだ。マンチェスターで生まれ、シティのアカデミーで育った。イングランドU-16代表でもプレー経験のあるテクニシャンは、2017-2018シーズンのリーグカップ準々決勝レスター戦でトップチームデビュー。荒削りながら中盤で印象的なプレーを見せた。まだトップチームに定着はできていないものの、この大会をブレイクのきっかけにする可能性は十分にある。
シティに所属するアフリカ人MFであることから“ネクスト・ヤヤ・トゥーレ”と評する声もあるが、プレースタイルはコートジボワールのレジェンドとはまったく異なる。179cmとあまり大柄ではないもののボールを奪うセンスに優れ、攻めに転じれば周りを見ながら効果的なファーストパスを供給。常に次のプレーを描けていることが見て取れる。
メインポジションはシティの王道システムである[4-3-3]のインサイドMFでアンカーもこなす。一方で、今大会の“フライング・イーグルス”(U-20ナイジェリア代表チームの愛称) は、よりシンプルにタレント力を生かす[4-4-2]を採用している 。普段とは違うポジションに適応し、周囲のタレントを生かすことができるかがチームにとってももデレ・バシル自身にとっても鍵となりそうだ。
アスパイア・アカデミー出身のストライカー
続いて紹介するのは、現在アルアハリでプレーするカタールのアブドゥルラシード・ウマル。カタールが国家的に取り組んでいる選手育成の総本山「アスパイア・アカデミー」で育った技術の高いストライカーで、ゴール前での身のこなしは今年のアジアカップで得点王に輝いたアルモエズ・アリを彷彿とさせる。さらに、直線的なスピードを発揮したラインブレイクからの鋭いフィニッシュも得意としている。
厳しくマークされていても、ファーストコントロールでターンしながらそのままシュートに持ち込んでしまう形は相手ディフェンスにとって脅威。常識的には強引だが、アブドゥルラシードにとってはごく普通のことのように、しっかりとミートして枠内に撃ち込んでくる。U-20ネーションズカップで5試合1失点のナイジェリア、注目GKルニンを擁するウクライナ、北中米カリブ海王者のアメリカとディフェンスの強い国がそろう組を勝ち上がる立役者になれば、A代表への扉も開かれそうだ。
日本の注目選手は”飛び級”参戦の17歳
前回大会ではラウンド16敗退ながら堂安律(フローニンゲン)がインパクトを残した日本は、久保建英や安部裕葵といった期待のタレントが五輪世代が中心になるとされるコパ・アメリカとの兼ね合いもあってかメンバーから外れた。しかしながら、彼らに勝るとも劣らないポテンシャルを持つのが“飛び級”参戦となる17歳の斉藤光毅だ。J2の横浜FCで主力を担い、すでにリーグ2得点を記録。三浦知良との“35歳差コンビ”が紙面を躍らせるなど露出度は高まっているが、その才能を考えればもっと注目されていてもおかしくはない。
ただ、ここまでは横浜FCでの落ち着いた環境が彼の成長を守ってきたと言えるかもしれない。2017年に仙台で開催されたU-16インターナショナルドリームカップの得点王と大会MVPに輝き、同年のU-17ワールドカップでも久保や宮代大聖、中村敬斗とともに中心メンバーとして期待された。ところが、ケガで直前に辞退。その時の悔しさが、17歳にして芯の強いアタッカーの糧になっている背景もありそうだ。
前線とサイドの両ポジションをこなす斉藤の武器は鋭いドリブル。しかしながら、本人も主張するようにドリブルだけでなく、常にゴールに向かうプレースタイルが相手ディフェンスの脅威になる。3得点をマークして世界行きに貢献したU-19アジア選手権でも、個の突破力はもちろんのこと、FWや中盤の選手と見事に絡んだコンビネーションからフィニッシュやラストパスを繰り出す姿が印象的だった。
おそらく[4-4-2]の左サイドMFがメインになるが、“逆足”の右利きということもあり、中央に流れるというより斜め前、ゴール方向に入り込んでいくプレーが随所に見られそうだ。勝負どころでは2トップの一角でよりフィニッシュに直結する役割が求められる時間帯、シチュエーションが出てくることも想定される。
この世代で久保と安部が攻撃の中心を担ってきたことは間違いなく、さらに今季のJリーグで得点を重ねて期待された清水エスパルスの滝裕太もケガで離脱するなど前途多難の”影山ジャパン”だが、現在の注目度を大会に入って覆せるタレントはそろっている。その筆頭株として斉藤の活躍に期待したいところだ。
ブレイク目前!アフリカ系の注目選手
前回ラウンド16に進出するなど、若年層から着実に結果を出しているアフリカの雄セネガルは“未知のタレント”を多く抱える。フランスのメスに所属する長身FWのアマドゥ・ディア・エンディアイエも期待のタレントだが、2001年12月生まれの“飛び級”ながら前線の主力を張るユスプ・バジにはさらなるポテンシャル感が漂う。アフリカ勢の中でも目を引く卓越した身体能力とディフェンスを破るセンスは抜群。現在はカサ・スポーツという国内リーグのクラブに所属しているが、FIFA規定を満たす年齢になれば欧州クラブが放っておかないだろう。その前に今大会でブレイクするか。
アフリカ王者のマリでは、オーストリア1部のボルフスベルガーでプレーするセク・コイタが注目だ。優勝プレーオフのザルツブルク戦で得点を記録するなど成長著しい19歳のアタッカーで、2015年のU-17ワールドカップではクロアチアとベルギーから得点を奪う活躍を見せ、チームを準優勝に導いた。非常にスピードがあり、CSKAモスクワに所属する左利きのラサナ・エンディアイエらと躍動感にあふれる多彩な攻撃を仕掛ける。タレントが出ては消えてしまう傾向があるマリの中で順調に成長を見せている選手であり、すでに欧州主要リーグのスカウト網にも入っているはずだが、この大会が飛躍のきっかけになる可能性は大いにある。
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原点がココにある
5/23(木)開幕
FIFA U-20 ワールドカップ ポーランド 2019
J SPORTS にて全52試合生中継!
スマホ・PC・タブレットでも視聴可能!
放送予定
5/23 (木) 24:45 タヒチ vs. セネガル
5/23 (木) 27:00 日本 vs. エクアドル
5/24 (金) 24:45-カタール vs. ナイジェリア
5/25 (土) 22:15- ポルトガル vs. 韓国
5/25 (土) 24:45 パナマ vs. マリ
他試合スケジュールなど詳細はこちら
Photos: Getty Images, AFLO
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Profile
河治 良幸
『エル・ゴラッソ』創刊に携わり日本代表を担当。Jリーグから欧州に代表戦まで、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。セガ『WCCF』選手カードを手がけ、後継の『FOOTISTA』ではJリーグ選手を担当。『サッカーの見方が180度変わる データ進化論』(小社刊)など著書多数。NHK『ミラクルボディー』の「スペイン代表 世界最強の”天才能”」に監修として参加。タグマにてサッカー専用サイト【KAWAJIうぉっち】を運営中。