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RBライプツィヒは、なぜ最小失点を達成したか。 コントロールされたカオスについての考察

2019.05.21

RBライプツィヒ

ゲームモデルのケーススタディ#1

最先端戦術トレンドの2大潮流の一つ「ストーミング」。現在の牽引役はユルゲン・クロップだが、“開祖”はRBライプツィヒを率いるラルフ・ラングニックである。ボール支配率への拘泥を「ポゼッション・フェチ」と一刀両断する男は、「ボールは奪えるもの」という幹は変えることなく、現代サッカーへ適合するための変化にトライ。リーグ最少失点の堅守を実現した。

 ド派手な撃ち合いのイメージが強いRBライプツィヒが、意外な方向へ進化しようとしている。リーグ後半戦の17試合で喫した失点は12。トータル29失点は、ブンデス7連覇を遂げたバイエルン(32)を抑えリーグ最少である。

 今季開幕前、1年間限定で指揮を執ることになったラルフ・ラングニック監督(SDと兼任)は「RBのDNAを取り戻せ!」と宣言していた。激しく闘牛のように相手へと襲いかかるレッドブルスタイルである。

 5秒以内にボールを奪い返し、10秒以内にシュートを打つのが目安で、秒数を管理するために、自動音声がカウントダウンするデジタル時計が練習場に置かれているほどだ。

 ただし、何事もいき過ぎると弊害が生じる。過度な闘争心は不安定さをはらむ。それに気づくきっかけになったのが、ELのGS第1節、ザルツブルクとの試合だった。RBライプツィヒは同じコンセプトの“兄弟クラブ”を上回ろうと、立ち上がりから激しくプレスをかけた。しかしそれが空回りし、立て続けに2失点。一度は追いついたが終了間際に再び決められ、2-3で敗れてしまった。

レッドブル・ザルツブルク時代のアマドゥ・ハイダラ
両クラブの生みの親が飲料メーカーであることから「缶ダービー」(Dosen-Derby)と称された昨年9月のザルツブルク戦。当時はザルツブルク所属で、冬にRBライプツィヒへ加入したハイダラの活躍でザルツブルクに軍配が上がった

 MFカンプルは当時をこう振り返る。

 「9月にザルツブルクに敗れたことが目覚ましになった。こんな守備ではダメと気づかされたんだ。自分たちのゴールをしっかり守ると、みんなで誓った」

 当時の一番の問題は、プレスのタイミングだった。FWが高い位置からボールを奪おうとして深追いし過ぎていた。これでは守備陣形が間延びして、プレスがかかりづらい。ラングニックは問題解決のために、FWは相手CBに対してコースを限定するのみに留め、サイドにパスが出た瞬間に一気にプレスの強度を高めるように変更。2トップと2人のサイドMFが近い距離を保つことができるようになった。全員が突進することに変わりはないが、そのタイミングを微調整したことで猛牛たちのエネルギーが1つになった。

「ボールは奪えるもの」

 ここで、あらためてRBライプツィヒのゲームモデルを確認しておこう。無駄な横パスを繋ぐことを嫌うラングニックは、ボール支配率を気にする人を「ポゼッション・フェチ」と揶揄(やゆ)する。1にも2にもプレーの選択肢は前であるべきと考え、ボールを奪ったら前線の4人が一斉にペナルティエリアを目指して走り出す。

 プレースピードが上がるためミスも生まれるが、後ろから走って来た選手が奪い返せばいいという考え方。「ボールは奪えるもの」という共通理解があるため、ロングボールも有効な攻撃法の1つになる。セカンドボールに群がってこぼれ球を回収し、ショートカウンターと同じ状況を作り出すのだ。意図的に相手を混乱に陥れるため、「コントロールされたカオス」と呼ばれている。

 このサッカーをやる上で不可欠となるのが、選手の走力とチームとしてのコンパクトさだ。

 選手の獲得条件として「足が速い」「23歳以下」という基本条件が設定されており、疲労度を管理するために毎朝、血液検査でクレアチンキナーゼの値がチェックされている(クレアチンキナーゼは筋肉に多く含まれており、筋肉を損傷した時に血液中で高い値になる)。練習中も走行距離や心拍数がリアルタイムで計測され、疲労度が大きい選手には休みが与えられる。

 裏を返せば、それだけ試合がハードということだ。

 試合中、選手たちは常に攻守の切り替えに備えてスプリントを準備し、同時にポジションを修正してコンパクトさを保たなければならない。攻撃時にCBはセンターラインまで上がり、ボールと反対側にいるSBはピッチ中央付近まで絞る。過剰なまでの密集を作るからこそ、こぼれ球に強い。

 攻撃時にサイドMFの2人が中央に絞り、2トップと合わせて計4人の攻撃者が相手のCB2人に襲いかかるのも特徴だ。その特性を表すために、ドイツではフォーメーションが[4-2-2-2]と記されることが多い。

 「私たちの強みは、先発メンバーの約8割が3年以上クラブに在籍していることだ」

 ラングニックがこう自負するように、[4-2-2-2]の完成度は極めて高い。

RBライプツィヒのラルフ・ラングニックSD兼任監督
1シーズン限定でSDと監督を兼任したラングニック。来シーズンからは再びSD専任に戻る

 ただし、1つの布陣にとらわれるのはラングニック流ではない。15-16シーズンに1年間指揮を執った時と同じように、今季も複数のシステムを使い分けている。RBライプツィヒの守備時の基本布陣は「中盤フラットの[4-4-2]」だが、「中盤ダイヤモンド型の[4-4-2]」をオプションに加えた。

 プレス時、相手MFに関しては2ボランチが監視するのが基本ルールだ。だが、相手MFが深い位置まで下がり距離が遠くなると、捕まえ切れない場面が多々発生する。より具体的に言うと、相手がアンカーを置くシステムの場合、積極的にプレスをかけるとミスマッチが起こりやすい。

 そこで、相手にアンカー的な選手がいる場合、ラングニックはトップ下にフォシュベリを置く「中盤ダイヤモンド型の[4-4-2]」を採用。フォシュベリが相手のアンカーをマークし、他の3人のMF(例:カンプル、デンメ、ザビツァー)がスライドしながらサイドへのプレスを仕掛ける。相手に応じてプレスのかけ方を変える柔軟さが生まれ、[5-3-2]も採用できるようになった。

 特に、今年に入ってからは試合中のシステム変更が当たり前になった。

 例えば第26節シャルケ戦では、相手3バックの前にアンカーがいることを考慮し、フォシュベリをトップ下にするダイヤモンド型の[4-4-2]で臨んだ。そして14分に先制に成功すると、プレスの開始位置を少し下げていつものフラット型の[4-4-2]へと変更。試合をコントロールし、そのまま0-1で勝利した。

ブンデスリーガ第26節シャルケ戦のハイライト

次期監督との戦術対決で見せた可能性

 最大の頭脳戦となったのが、来季RBライプツィヒの監督に就任するナーゲルスマン率いるホッフェンハイムとの対決(第23節)だ。

 ラングニックは相手のウイングバックを封じるために[3-5-2]で臨んだが、ナーゲルスマンは裏をかき、いつもの3バックではなく[4-1-3-2]を採用。マークが混乱したRBライプツィヒは、22分に先制を許した。

 ラングニックは修正すべく、36分に選手にメモを渡し、中盤ダイヤモンド型の[4-4-2]へのシフトを命じる。それによって流れを変えると、さらに後半開始にアダムスを投入していつものフラット型の[4-4-2]に戻した。

 だが、ナーゲルスマンも負けていない。相手の変化を見て取った49分、選手にメモを渡していつもの[3-5-2]へと移行、守備を整えた。

 ホッフェンハイムのリードで試合は終わるかと思われたが89分、RBライプツィヒのCBオルバンがオーバーラップし、クロスを執念で押し込む。1-1の同点で終わったチェスのような戦術対決は、両チームに拍手が送られるべき熱戦だった。

ブンデスリーガ第23節ホッフェンハイム戦のハイライト

 今季のRBライプツィヒの充実はいろいろな数字に表れている。

 リーグ戦1試合あたりのデュエル(Zweikampf)は約117回でブンデス1位。走行距離は116.1kmで、昨季の114.2km、一昨季の114.3kmを上回っていた。先制して逆転されたのは開幕節のドルトムント戦のみ。以降の33試合中19戦で先制し、18勝1分とほぼ完璧な戦績を残した。

 もちろん、まだまだ課題はある。例えば、リーグ戦での逆転勝ちは1試合だけ。引いた相手に対する攻撃を磨かなければならない。

 いずれにせよ、RBライプツィヒは自分たちの哲学を追い求めながらも、より現代サッカーに適合した方向に変貌しつつある。来季、ナーゲルスマンが加わることによって、そのスピードはさらに早まるだろう。

RBライプツィヒの選手たち
25日に控えるバイエルンとのDFBポカール決勝に向け、先週末のブンデス最終節ブレーメン戦では大幅なローテーションを敢行。クラブ初の主要タイトル制覇へ照準を合わせている

Photos: Bongarts/Getty Images, Getty Images

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RBライプツィヒラルフ・ラングニック戦術

Profile

木崎 伸也

1975年1月3日、東京都出身。 02年W杯後、オランダ・ドイツで活動し、日本人選手を中心に欧州サッカーを取材した。現在は帰国し、Numberのほか、雑誌・新聞等に数多く寄稿している。

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