タレントの宝庫というイメージが強いブラジルだが、王国の各クラブは育成に関して模索を始めているという。昨年で21回目となったジーコ主催大会「U-15日本ブラジル友好カップ」に集った日伯U-15指導者の声から、その現状を読み解く。
ロドリゴがサントスで16歳にしてプロデビューし、17歳でレアル・マドリーと契約したのを見てもわかる通り、ブラジルでは、かつてはプロになれるかを真剣に見極めるのがU-17だったのが、近年はU-15がその世代と言われている。
そんな中、現在鹿島アントラーズでテクニカルディレクターを務めるジーコが毎年リオデジャネイロで主催している「U-15日本ブラジル友好カップ」が、昨年で第21回を迎えた。例年ブラジル全国の強豪クラブに、日本から参加するJリーグ選抜や鹿島などを合わせて20チーム前後で争われる。
かねてから育成におけるU-15世代の重要性を説くジーコは、両国の少年たちが国際経験を積めるようにと、この大会を始めた。これだけの規模と参加クラブのレベルを維持し、長年継続されている大会は他にないため、信頼度も高くプロへの登竜門としても知られている。
サントスのロドリゴも2016年に出場し、チームは優勝、彼は大会MVPを獲得した。今シーズンからレアル・マドリーに加入したビニシウス・ジュニオールも、フラメンゴの一員として2015年大会に出場し、得点王となった。
J監督たちの印象、エバートンの渋面
そんなブラジルの至宝が集結する大会に、今年Jリーグ選抜の監督として参加した田中智宗監督に、この世代のブラジル人選手の印象を聞いた。彼はクラブの方針により、イタリアやオーストリアなどにチームとともに遠征するなど、欧州勢との対戦経験も豊富だ。
「この年代でもヨーロッパの方がもう少し組織力はありますが、個人に特化して考えると、ブラジルにはやっぱり、非常に能力の高い選手が多い。一人ひとりができることのレベルが、凄く高いんです」
一方、選手の育成や下部組織の方針について、ブラジルも過渡期にあるという印象を語ってくれたのは、鹿島の天野圭介監督だ。彼は10年前から継続して、指導者としてこの大会に参加している。
「今回は、クラブによって2つに分かれているのを感じましたね。誰が見ても一目瞭然のブラジルサッカーを貫いているクラブもあれば、例えばバスコダガマなんかは、ヨーロッパのサッカーも取り入れて新しいものを作ろうとしている」
ロドリゴを16歳でプロに引き上げた、当時のサントス代行監督エラーノ(元ブラジル代表)が「サントスのDNAを持つ彼に賭けた」と言っていたように、おそらくサントスの育成には普遍的な哲学があるのだろう。それでも、「クラブはアーティストを育て、選手は早くから芸術サッカーを学ぶ。それがサントスの伝統だ」とかつての下部組織コーディネーターが語っていたのに対し、現在のコーディネーターであるロナウド・リマ氏は「選手はアーティストでありたがるが、そうではないことも学ばなければならない」とまったく逆のことを言っていた。
また、国内でも育成に定評のあるアトレチコ・ミネイロで、16年にわたって下部組織コーディネーターを務めているエバートン(90年代前半に日本でプレー)はこう話していた。
「サッカーの進化とともに、育成年代も進化している。特にU-15は、その国のサッカーを映し出す鏡のようなもの。例えば、W杯で見られるパスワークは日本サッカーの成長の最たるものだが、ここで見ているとU-15でも同じだ。つまり、国際サッカーで成功するためにはU-15の時点で、トレーニングの量も育成にかける費用も増やし、中・長期的なプランに基づく仕事をしなければならない、ということだ」
そう語る彼は、この友好カップで上位の常連である自分のチームが、今年まさかのグループリーグ敗退を喫したことに大きな衝撃を受けていた。その厳しい表情もまた、U-15の重要性を物語っているようだった。
Photos: Jorge Ventura
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藤原 清美
2001年、リオデジャネイロに拠点を移し、スポーツやドキュメンタリー、紀行などの分野で取材活動。特にサッカーではブラジル代表チームや選手の取材で世界中を飛び回り、日本とブラジル両国のTV・執筆等で成果を発表している。W杯6大会取材。著書に『セレソン 人生の勝者たち 「最強集団」から学ぶ15の言葉』(ソル・メディア)『感動!ブラジルサッカー』(講談社現代新書)。YouTube『Planeta Kiyomi』も運営中。