グアルディオラがプレミアリーグを刷新した5つのアイディア
2016年夏の就任から3年弱、48歳のカタルーニャ人監督はイングランドサッカーに消えない刻印を残した。マンチェスター・シティで取り組み、実現してきた戦術的な革新の中で、最も重要な5つの事例に迫ったイタリアのWEBマガジン『ウルティモ・ウオモ』の考察記事(2019年2月22日公開)をお届けする。
就任1年目は無冠で終わり、様々な批判も浴びたものの、戦術的な観点から見れば、グアルディオラがプレミアリーグに与えたインパクトは最初から非常に大きいものだった。当初、彼のポジショナルなスタイルとは大きく異なるイングランドサッカーへの適応に困難を抱えたことは確かだ。しかし、現在のマンチェスター・シティのサッカー、そしてそれがピッチ上にもたらした結果を見れば、彼の試みがすべて成功したことは誰の目にも明らかだ。
グアルディオラのサッカーは、ブンデスリーガとプレミアリーグへの適応、そしてそれがもたらした影響にもかかわらず、今なおいくつかの主要な原則に集約することができる。監督として最初のバルセロナがそうであったようにマンチェスター・シティにおいても、ボールを保持している選手、保持していない選手がそれぞれ的確な位置関係を保って動きピッチを占有することにより、チーム全員が能動的にアクションに参加する。
まず、一般論としてはっきりさせておく必要があるのは、プレミアリーグで今「未来のサッカー」ともてはやされているものは、もう何年もの間、世界中で広く共通言語として使われてきた考え方がベースになっているということだ。グアルディオラはその発明者ではなく「アンバサダー」と呼ばれるべき存在だ。現在のスタイルに到達する過程では、トッププレーヤーとしてヨハン・クライフ、ルイス・ファン・ハールという偉大なマエストロの下で重ねた経験からの学びも、自らのサッカーに取り入れてきた。結果が出ている時に、あえて新しい試みに取り組むというリスクを冒すこともあった。
グアルディオラは本来、現状に満足するタイプではない。常に新たな革新に取り組んでは実現し、そのいくつかは今では一般的な戦術論の中に取り入れられるまでになった。(リーグ中盤戦で)首位を走るリバプールを追う展開となった今シーズンも、他の監督なら間違いなく、一度到達したチームのバランスを崩すことを嫌い、昨シーズンの成功をもたらした従来のやり方を継続するであろうところを、グアルディオラは自らのスタイルを更新し続けている。
以下、グアルディオラがこの3年でプレミアリーグに持ち込んだ戦術的な革新の中で、最も重要な5つの事例を見ていくことにしよう。
インサイドMFの再発明
Rinventare le mezzali
グアルディオラの師であるファンマ・リージョは「ポジショナルプレーとは、ボール保持と味方プレーヤーの動きによって、敵プレッシャーラインの背後に優位性を作り出すものだ」と定義している。それゆえ、最終ラインからの球出しは細部にわたって設計される。敵の第1プレッシャーラインを越えない限り、優位性を作り出すことはできないからだ。
ボールをそこまで運んだ後、プレーの焦点は第2プレッシャーライン、すなわち敵中盤ラインの背後に移る。グアルディオラがチームに求めるのは、この2ライン間のゾーンにおいて、個のクオリティで局面を打開するために必要な時間とスペースを確保した状態でパスを受けることだ。狙いは、敵ペナルティエリアの前で創造性を存分に発揮できる状況を作り出すことにある。そのためにはボールをそこに送り込むメカニズムを確立するだけでなく、どのスペースに動いてパスを引き出すべきか、パスを受けたら次に何をすべきかを理解し判断し実行できる戦術的インテリジェンスと技術を備えたプレーヤーの存在が不可欠だ。クライフの言葉を借りれば、「すべては正確なボールコントロールとパスから始まる」ということだ。
シティの監督となったグアルディオラが最初に手をつけたのは、まさにこの2ライン間のゾーンだった。それまでワイドに開いた位置を起点にして内に入り込むタイプのウイングだったダビド・シルバとケビン・デ・ブルイネ(そして今はベルナルド・シルバ)を、最初から内に絞った位置に置いてインサイドMFとして起用したのだ。彼らに求めたのは、直接ハーフスペースでパスを受け、そこから縦方向にプレーすることだった。
しかしシティの両インサイドMFは、同じタスクを課されているわけではない。1人は最終ラインに寄って球出しを容易にし、もう1人は敵中盤ラインの背後を取るという逆方向の動きを取る傾向がある。ビルドアップにおける秩序とボールコントロール、2ライン間での創造性のいずれにおいても傑出した能力を持つデ・ブルイネは、このポジションのプロトタイプと呼ぶべきプレーヤーだ。彼のような選手を擁しているおかげで、シティは敵守備ラインを自在に操ることができる。狭いスペースにおける正確なボールコントロールを生かし、ボールサイドの密度を高めることで、逆サイドにおいて1対1で仕掛ける状況を準備するのはその一例だ。
グアルディオラは、監督としての自分の仕事は、チームが最良の状態で2ライン間にボールを運ぶところまでであり、そこから先、フィニッシュに繋がる最良の道を見出すのは最もタレントに恵まれた選手たちの仕事だ、と一度ならず語ってきた。これだけ高いクオリティを備えたプレーヤーをハーフスペースに配すれば、ボールホルダーに複数のパスコースを与えるトライアングルを作りやすくなる。これは、フィジカルな圧力が強くカオティックな状況が起きやすいプレミアリーグにおいては小さくないアドバンテージだ。
リベロ型GK
Il portiere libero
リベロ型GKはすでに1970年代にその萌芽があったが、とりわけ近年になって大きな発展を見せてきた。グアルディオラはそこに大きな貢献を果たしている。中でも2017年夏に獲得したエデルソンの使い方は、プレミアリーグにおいてはまったく前例のないものであり、大きなインパクトをもたらした。それまでイングランドにおいて、GKの足下のテクニックや戦術眼に焦点が当たることはほとんどなかった。GKに要求されていたのは、シュートをセーブし、ハイクロスに飛び出して処理し、ロングフィードを蹴り出すという3つのことだけだった。したがって求められていたタイプも、ペトル・チェフ(アーセナル)やダビド・デ・ヘア(マンチェスター・ユナイテッド)のように、ハイクロスに強くシュートに対する反応が良い大型GKだった。
グアルディオラがシティの監督に就任して最初に直面した批判も、ジョー・ハートのような大型GK(当時のイングランドではまだ高い評価を受けていた)を放出し、クラウディオ・ブラボを獲得して正GKに据えるという判断に対するものだった。ブラボがミスを犯すたび、とりわけそれがハイボールへの飛び出しであればなおさら、彼を正GKとして起用したグアルディオラの責任だ、という言い方で強調されたものだった。
そうした見方を一変させたのが、エデルソンだった。昨夏、プレミアリーグの複数のチームがリベロ型GKの獲得に動いたのも偶然ではないだろう。ケパ・アリサバラガ(チェルシー)、ベルント・レノ(アーセナル)、そしてとりわけアリソン(リバプール)は、それぞれタイプが異なってはいるものの、ペナルティエリアの外で両足を使いこなしてプレーできるという点は共通している。プレミアリーグでも、GKがリベロとして最終ラインの背後をカバーし、時にはビルドアップにもアクティブに参加するという考え方が受け入れられ出した証拠と言えるだろう。
エデルソンは、グアルディオラのサッカーにとって根源的な2つの戦術的機能を担っている。最終ラインからのビルドアップ、そしてネガティブトランジション(攻→守の切り替え)だ。後者における重要性は明白である。重心を高く保ち全体を押し上げて戦うチームにとって、ペナルティエリアの外まで飛び出して最終ライン背後のスペースをカバーするGKの存在は不可欠だ。プレミアリーグの性急な展開の中でグアルディオラのスタイルを機能させるためには、エデルソンのように爆発的なスピードを備えたGKが必要だった。その点において彼が与えたインパクトは大きく、対戦相手のカウンターアタックのやり方にまで影響を与えた。最終ラインの背後にやみくもにロングボールを放り込んでFWを走らせたところで、エデルソンの鋭い飛び出しの餌食になることは明らかだからだ。
それ以上に大きな違いを作り出しているのは、エデルソンの「11人目のフィールドプレーヤー」としてのクオリティである。とりわけ彼の優れた戦術眼は、シティが敵のハイプレスをかわすだけでなく、逆にそれを利用してより前方に優位性を作り出す上で、決定的な重要性を担っている。それを支えているのは、単純な数の論理だ。最終ラインの背後でパスを受け、さばく能力を備えた文字通りのリベロとして機能するエデルソンの存在は、それに対して前線からマンツーマンでのハイプレスを仕掛けようとした相手(こちらはGKを上げることができない)を、自動的に最終ラインでの数的不利に追い込むことになる。そして実際、もし相手がそれをあえて試みれば、エデルソンは状況をすぐに読み取って中盤あるいは前線でフリーになっている味方に正確なパスを送り込む。実際エデルソンは今シーズン、1アシストと3つのキーパスを記録している。GKはビルドアップに詰まった時の逃げ道として使う、という考え方は、すでに完全に過去のものになった。
偽サイドバック
Il falso terzino
「偽サイドバック」とは、後方からのビルドアップにおいてどちらかの(アンカーが2CBの間に落ちた場合には時に両方の)SBが斜め前に動く形で内に絞り、MFと同じ高さにポジションを取るメカニズムを指す。グアルディオラはすでにバイエルン時代(13-16)にこのメカニズムを導入し、フィリップ・ラームから持てるクオリティを最大限に引き出すことに成功している。このアイディアの源はおそらく、クライフの下でプレーした選手時代、最終ラインからのビルドアップでしばしばSBのセルジやアルベルト・フェレ-ルと横並びになる位置関係でプレーした経験にある。
シティの監督に就任した当初の構想は、タッチライン際を継続的に上下動できる高い運動能力を備え、プレミアのようにフィジカルなリーグにあっても、ピッチの全域にわたってチームに幅を提供することができるSBを左右に擁するというものだった。1年目に偽SBのメカニズムがほとんど使われず、何度か試されただけに終わった理由、そして2年目に向けて巨額の資金を投下してバンジャマン・メンディ、カイル・ウォーカーというフィジカルなSBを獲得した理由もそこにある。
しかし結果的には、2つの「想定外」が偽SBのプレミアリーグへの導入をもたらすことになる。1つは、2017年9月にメンディが十字靱帯断裂の重傷を負って長期離脱したこと、もう1つは、プレミアという非常にフィジカルかつダイナミックなリーグにおいてシティが中盤でのポゼッション確立において困難に直面したことだ。イングランドでの1年目を終えたグアルディオラは、プレミアリーグのいくつかの状況で突然生まれるカオス(選手たちがパスを繋がずにボールを蹴り上げようと焦り、その結果、理詰めの組み立てがまったく意味を持たなくなる瞬間)を過小評価し過ぎていたと、正直に認めなければならなかった。ボールロスト直後のネガティブトランジション時、選手たちが敵カウンターアタックのスピードに追随しなければならない状況もその1つだった。
この状況認識が、グアルディオラをして(本職はMFの)ファビアン・デルフを左SBに起用せしめた直接の理由だった。グアルディオラはデルフに、ビルドアップ時には内に絞ってアンカーのフェルナンジーニョと同じ高さにポジションを取り、常に体をピッチの内側に向けてパスを受けるよう要求した。この時、右SBのウォーカーはジョン・ストーンズ、ニコラス・オタメンディと同じ高さを保ち、チーム全体の陣形は一時的に[3-2-4-1]となる。ビルドアップの初期段階で数的優位を確保し、フェルナンジーニョにマンマークを付けられた場合への対応としても機能する。この陣形が整った時点で、左右のウイング(スターリング、サネ)はサイドライン際に張って、常に展開の幅を確保する役割を担う。全体としては、少なくとも6人を自陣に配置して攻撃をビルドアップし、残る5人が敵プレッシャーラインの背後に位置を取って縦パスを引き出すという構造になっているわけだ。
このメカニズムは対戦相手に、自分たちの戦略を極端なところまで明確に打ち出すことを強いる。例えばクロップのリバプールは、プレッシャーラインの背後にスペースを与えないため、チームの重心を思い切り下げ、ロングカウンターに攻撃の活路を見出すという対応を選んだ。最近もホジソンのクリスタルパレスが、前線からのプレッシャーを放棄して自陣に撤退、強力なカウンターによる反撃に訴えて、シティを小さくない困難に陥れている。
偽センターバック
Il falso centrale
「偽センターバック」は、昨シーズン(CLリバプール戦)にその萌芽が見られたものの、この2019年初頭になって本格導入されたメカニズムだ。2月3日のアーセナル戦(○3-1)では、ダニーロとデルフがともにメンバーに入っていたにもかかわらず、グアルディオラはフェルナンジーニョをCBに置き、局面に応じてCBあるいはMFとして機能させる変則3バックの布陣を選んだ。
このケースにおいては、一方のSBが外から内に斜めに絞ることによってではなく、CBの1人が「サリーダ・ラボルピアーナ」とは逆の動きで中盤に上がることによって、中央のスペースを埋めるという方法が使われた。より具体的に言えば、組織的守備のフェーズではCBとして機能するフェルナンジーニョが、ビルドアップとともに中盤までポジションを上げて、ボールロスト直後のネガティブトランジション時にはMFとして機能する。グアルディオラは試合終了後、このメカニズムを使った理由をこう説明した。
「状況に応じて後ろと中盤でプレーできる選手が必要だった。パスコースを増やしたかったのだけれど、敵が2トップだったので、SBを同時に上がらせるとカウンターで一発でやられるリスクがあった。そこでネガティブトランジション時には3バックで中央をプロテクトするやり方を選んだんだ」
やり方は違っても目的は常に一つ、後方からのビルドアップ時に、ピッチの幅を取りつつ数的優位を確保するために、最終ラインに一定の距離を保って3人、2列目に近い距離で2人を配し、左右のタッチライン際にも1人ずつを開かせることだ。注意すべきなのは、このメカニズムは極めてデリケートかつ直観に反するものであり、フェルナンジーニョのように全面的に信頼できるプレーヤーにしか任せることはできないということだ。
いずれにしても、グアルディオラはここでも何一つ「発明」してはいない。この偽CBのメカニズムもまた、彼もその一員だったクライフ時代のバルセロナがしばしば使っていたものだからだ。そこでフェルナンジーニョと同じ役割を担っていたのは、ミゲル・アンヘル・ナダル(偉大なテニスプレーヤーの叔父でもある)だった。ナダルは最終ラインを起点に、ビルドアップ時にはレジスタ(グアルディオラだ)と同じ高さまで上がり、さらにそのまま敵陣深くまで進出してフィニッシュにも絡むという、ボックス・トゥ・ボックス型MFさながらの機能を担っていた。グアルディオラ自身の言葉を借りれば、「クライフはカテドラルを築いた。私たちの仕事はそのメンテナンスに過ぎない」ということだ。
ロークロス
Il cross basso
2月のアーセナル戦は、偽CBのメカニズムを分析する上だけでなく、『ニューヨーク・タイムズ』紙のロリー・スミスや『ESPN』のマイケル・コックスが指摘したように、シティが驚くほど容易にゴール前へのロークロスから得点を挙げているという事実に着目する上でも、重要な一戦だった。この試合の44分にアグエロが挙げた2-1とするゴールは、中盤にポジションを上げたフェルナンジーニョが起点となったものだ。フェルナンジーニョからのサイドチェンジを左サイドで受けたスターリングは、ハーフスペースにいるイルカイ・ギュンドアンにパスを送ると同時に裏のスペースをアタック、ギュンドアンがダイレクトで折り返した浮き球のスルーパスを、これまたダイレクトでゴール前に詰めるアグエロの足下に送り込んだ。
このプレーは、シティがアタッキングサードでポジショナルな位置関係を整え、敵最終ラインを混乱させる動きをシステマティックに行うメカニズムを確立していることを示すものだ。その目的は、ファーサイドに詰めたFWがボールをゴールに押し込むだけという状況を作り出すことにある。
アグエロのゴールはその好例だ。この場面では、アーセナルの最終ラインを動かさない限り、ゴールに繋がる状況を作り出すことは不可能だった。フェルナンジーニョのポジショニングが作り出した数的優位によって最終ラインをボールサイドに引き寄せ、サイドチェンジによって逆サイドのスターリングを使った時には、ギュンドアンとD.シルバが2ライン間にポジションを取っている(D.シルバがオフ・ザ・ボールの動きでギュンドアンのマーカーを引き付け、フリーで受けられる状況を作った)。数的優位を作ったボールサイドでの細かいパス交換から逆サイドへの展開、そしてドリブル突破による数的優位の創出を通じて、グアルディオラは敵の守備システムに幅と奥行きのどちらをカバーするかという困難な選択を突きつけ、しばしば混乱に陥れる。
シティを前にした相手は、丈の短い毛布で身を守ることを強いられているように見える。中央のゾーンを固めたチームは、コンパクトな陣形を保ってスライドしない限り、サイドのスペースを守ることは不可能だ。一方、両サイドをカバーしようと幅を取って布陣したチームは、その間を縫って中央から裏のスペースに侵入してくる相手を食い止めることができない。フラットな5バックのラインを形成すれば、ピッチの幅をすべてカバーすることができなくはない。しかしそうなるとほとんどの場合、その最終ラインは後退を強いられてゴール前に押し込められ、2ライン間から自由にミドルシュートを打たせることになる。
今シーズンのシティは、(本稿執筆の)2月中旬時点でゴールエリア内からのシュート数47本がリーグ最多(2位はトッテナムの38本)であり、しかも作り出す決定機の質の高さはプレミアリーグでもダントツのレベルにある。累積ゴール期待値(xG)は66.83で、2位リバプールを15xG以上も上回っているのだ。個のレベルでもこの圧倒的な優位は変わらない。アグエロはここまでリーグトップの17.14xGを記録しており、アシスト期待値(xA)のトップ5のうち3人をシティの選手(スターリング、D.シルバ、サネ)が占めている。
マイケル・コックスの言葉を借りれば、こういうことだ。「最も多くのゴールを挙げているのは、単にシュート数が最も多いからではなく、より近い距離からシュートを打っているからだ。グアルディオラは、得点の確率が高いゾーンまでボールを運ぶことの重要性をあらためて示した。これはシティが頻繁に『空のゴール』にボールを流し込んでいるという事実にも表れている」。シティが多用しているロークロスは、イングランドサッカー伝統のハイクロスとはまったく異なるものだ。後者は、大型のストライカーが敵CBと空中戦を競り合うのに合わせて送り込まれる高いボールだ。しかしシティのアタッカー陣は、ほぼ全員が小柄でクイックなタイプ。彼らがピッチ上で演じているゴールシーンは、フィニッシュの効率や成功率を重視するグアルディオラのサッカーに、xGやxAのような統計データが明らかな影響を与えていることの証左でもある。
もちろん、グアルディオラとて批判を逃れることはできない。例えばジョナサン・ウィルソンは、彼がチームに過大なトレーニング負荷を与えがちであることを指摘している。「プレッシャーが高まれば高まるほど、グアルディオラは対策をこねくり回し過ぎる傾向がある」。CL決勝トーナメントのように不確定要素の多い一発勝負の試合でも、リスクを顧みずにギャンブル的要素が強い対策に訴え、それが裏目に出るケースがままあるというのだ(バイエルンを率いていた2015年のバルセロナ戦で、メッシ、スアレス、ネイマールの3人にマンマークを貼り付けたことはその一例だ)。そうした印象を与える部分があることは事実だが、ウィルソンはおそらくグアルディオラがシーズン中に行っている様々なテストの価値を軽く見積もっている。彼にとってリーグ戦は、CLで使う戦術を試す実験室のようなものだ。実際、偽CBのメカニズムもプレミアリーグで試された後、シャルケとのCLラウンド16第1レグであらためて使われている。
とはいえ、相手を研究して対策を講じるのはグアルディオラだけではない。対戦相手もまたシティのサッカーを研究しているわけで、グアルディオラを困難に陥れるような策を編み出してくる可能性は常にある。それに対してグアルディオラは、また新たな対抗策をひねり出す。モダンサッカーはそのようにして進化を続けているのだ。ポジションの解釈やデータの活用はさておき、グアルディオラが監督として残してきた最も大きな遺産は、常に新たな革新、新たな変革を求め、実行し続けるその姿勢とそれが生み出したサッカーの進化にあると言えるだろう。
Text: Daniele V. Morrone
Translation: Michio Katano
Photos: Getty Images
Profile
ウルティモ ウオモ
ダニエレ・マヌシアとティモシー・スモールの2人が共同で創設したイタリア発のまったく新しいWEBマガジン。長文の分析・考察が中心で、テクニカルで専門的な世界と文学的にスポーツを語る世界を一つに統合することを目指す。従来のジャーナリズムにはなかった専門性の高い記事で新たなファン層を開拓し、イタリア国内で高い評価を得ている。媒体名のウルティモ・ウオモは「最後の1人=オフサイドラインの基準となるDF」を意味する。