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スターリングの進化。ドリブラーから、完璧なアタッカーへ

2019.05.17

ラヒーム・スターリング

ゲームモデルに適応する「個」

 ペップ・グアルディオラの薫陶を受けたことで、ラヒーム・スターリングは単なる「ドリブラー」から完璧な「アタッカー」に進化を遂げた。リバプール時代はブレンダン・ロジャーズに「優れた学習能力が彼の武器だ」と称賛された賢いウイングプレーヤーは、グアルディオラの緻密な指導を柔軟に吸収している。イングランド代表でも欠かせない選手に成長した男は、どのように進化を続けているのだろうか。

ペップがウイングに求める3つの役割

 明確なゲームモデルの存在は、選手が「思考に費やす時間」を減らすことを助ける。マンチェスター・シティのウイングは、基本的にはポジショナルプレーの原則に基づいた3つの役割を担う。

①ヨハン・クライフの思想に繋がる「タッチライン際まで開くことで、内側にスペースを生み出す役割」
――相手SBを外に引っ張り出すことで、守備陣形をアンバランスにすることが目的。特にレロイ・サネは、この動きを得意としている。同時にSBとの1対1で質的優位を生かして突破することも求められる。

②グアルディオラが重要視する「ハーフスペース侵入によって、サイドレーンにSBやトップ下が入り込むスペースを生み出す役割」
――中央に入っての味方とのコンビネーション、そしてゴールに近い位置からの仕掛け、エリア内で得点機を生み出すプレーが求められる。ベルナルド・シルバのような機動力に優れたトップ下とのコンビネーションを機能させるためには、この役割が重要になる。

③「逆サイドにボールがあるタイミングで、受け手としてファーサイドに飛び込む役割」
――逆サイドのウイングが突破したタイミングで、CFとともにエリア内で受け手になる。チェルシーのペドロはバルセロナ時代に「シャドーストライカー」として活躍した。

 スターリングはグアルディオラのゲームモデルを完璧に理解しており、3つの役割を見事に使い分けている。特に彼が得意としているのが「相手SBの死角」を陥れるプレーだ。スターリングは積極的にハーフスペースに入り込み、味方がサイドでボールを受けたタイミングで死角から抜け出す。ハーフスペースからの仕掛けと、スペースへの侵入を巧みに使い分けることで、相手守備陣に距離感をつかませない。

死角に入り込むフリーランで、相手SBの裏を突く。ハーフスペースで受ける動作と、スペースへの侵入を組み合わせた仕掛け

 印象的なのは、2018年11月のサウサンプトン戦。2点目は「ハーフスペースからのドリブル突破」からアシストを記録し、3点目は「相手の死角に入り込むフリーラン」を活用。瞬間的な動きの切り替えに優れる彼は、オフ・ザ・ボールでも「くさびのボールをワンタッチで下げながらスペースに抜け出す」スピードに優れている。

 逆サイドからの侵入も上達しており、特に「遅れて入って来ることでフリーになる」技術の向上が著しい。2019年2月10日、チェルシー戦の先制点は象徴的だ。相手守備陣のタイミングを外しながら侵入し、冷静にインフロントキックでゴールを奪っている。駆け引きの技術も別格で、名手アスピリクエタには徹底的にロングスプリントを挑んで翻弄。俊敏性に優れるプレミア屈指のDFを、ワンツーや縦への大きなタッチで苦しめた。

 最近のインタビューによれば、スターリングは「8歳以下のチームで教わったようなことを、徹底してグアルディオラに教え込まれている」と語る。例えばグアルディオラには、ファーストタッチのタイミングで「アウトサイド」でボールを止めることを指摘されたという。足下にボールが止まってしまうことで、リズムが悪化することを避けるように意識づけを徹底させる狙いだろう。

 スターリングはゲームモデルを把握し、求められている役割に完璧に適合している。だからこそ、彼は限られた思考のリソースを「細部の向上」に割くことができる。進化の過程にある24歳は「グアルディオラの哲学を体現するアタッカー」として、さらなる高みへと挑む。


Photo: Getty Images

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マンチェスター・シティラヒーム・スターリング戦術

Profile

結城 康平

1990年生まれ、宮崎県出身。ライターとして複数の媒体に記事を寄稿しつつ、サッカー観戦を面白くするためのアイディアを練りながら日々を過ごしている。好きなバンドは、エジンバラ出身のBlue Rose Code。

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