悪名高いリーガの月曜開催がどうやら来季からなくなりそうだ。スペインサッカー連盟(RFEF)もプロリーグ協会(LFP)も「ファンを第一に考えた」そうだ。が、これおかしくないか? もうかれこれ6年間、月曜開催でファンを無視してきたのに、今さらなんだ!どうせ裏があると思ったら、やっぱり……。
最初にはっきり言っておこう。「リーガはテレビ様のおかげで成り立っている」と。クラブの売上高の約4割がテレビの放映権料なのに対し、入場料収入は約2割。ファンはファンでもスタジアムに足を運ぶ人たちではなく、みなさんを含めた世界に散らばる視聴者が払うお金でクラブが潤い、高契約金&高給の選手たちがやって来ることでリーガのレベルは保たれているのだ。
よって、月曜開催でスタジアムへの客足が鈍るのは当然(土日と比較して2、3割減)だが、そのマイナス分を補って余りあるテレビのお金が入るので、2012-13シーズン以来、ほぼ毎週実施されてきた。放映権料を高く売りCMを確保するには裏番組ならぬ“裏試合”をなくす必要があった。10試合を重ならないようにすると、土日だけでは消化できず金曜・月曜21時キックオフという常識外の放送枠が生まれたのである。
もちろんファンの抗議はあった。だが無視されてきた。なのに、2月にアラベスファンが試合開始5分後に入場する、という抗議行動を起こすと、いきなり来季から取り止めとなった。
言っちゃあ悪いが、たかがバスクの小クラブ(欧州カップ戦に出場中のチームは月曜開催を免除されるので、2強ら有力クラブには抗議資格がない)に、いつからそんな影響力があったのか?
中止の理由が、また白々しいものだった。
リーガを主催するスペインサッカー連盟(RFEF)+プロリーグ協会(LFP)のコンビは、会長名で次のようなコメントを出した。
「ビジネスよりもファンの方が大事だ」(ルイス・ルビアレスRFEF会長)、「抗議しているファンのことが心配だ」(ハビエル・テバスLFP会長)。
が、この2人、前者は昨年8月にスペインスーパーカップをモロッコで開催、後者は1月にジローナ対バルセロナ戦をマイアミで開催しようとするという、ファン無視もはなはだしい行為の張本人なのだ。
犬と猿の提携。LFPが日程を決めRFEFが承認
どうも腑に落ちない、と思ったら裏があった。
今季終了時が放映権入札の更新期に当たっており、今なら来季用に月曜開催を含まないスケジュールをテレビ局に提示できるのである。しかも、こっちの方がより重要なのだが、リーガ開催をめぐるRFEFとLFPの提携協定も同時に更新期を迎えている。
リーガの興行主であるLFPと、クラブと選手に出場資格(ライセンス)を与え審判を派遣するRFEFは、協定を結ばざるを得ない運命にある。単独ではリーガを開催できないのだ。力関係でどっちが上かというと公的な機関であるRFEFなのだが、うなるほど金があるLFPにはクラブの経営と選手の生活を守っている、という自負がある。
しかも、トップ同士の仲が悪い。さっきのモロッコ開催はテバスの反対にもかかわらずルビアレスが強行したが、テバスのマイアミ開催の野望を潰したのはルビアレスである。その際のテバスとルビアレスの海外開催反対の理由がともに「地元ファンを無視」だったことは特筆しておくべきだろう。
現在はLFPが曜日と時間を決め、RFEFがそれを承認するという役割分担になっている。協定更新を前にしてルビアレスは「我われのもの(曜日と時間の決定権)を取り返す」と息巻き、テバスは「自分のものでないものを取り返すことできない」と反論している。
RFEFとLFPが今さら人気を気にする訳
こうした中、犬猿の仲の2人が「月曜開催の中止」と口をそろえたのは、人気を気にしてであろう。RFEFとLFPが合意に達しない場合は、監督官庁であるスポーツ高等委員会(CSD)が調停に乗り出すことになっている。政府機関であるCSDはビジネスの論理、つまり 金儲けの巧拙では動かない。選挙の論理、つまりどちらの言い分が民意を反映しているかで動く。要は、RFEF、LFPのどちらかの主張が成人の6割以上いるサッカーファン、という膨大な票田に反感を買っている場合、CSDはそちらに与することはできないのだ。
奪う側のルビアレスは「金曜開催の是非も検討したい」と攻め、既得権者のテバスは「金曜はお客さんが入っている」と防戦。さらにルビアレスは「アマチュアサッカーを大切にしたいから、日曜に放送空白時間を設ける」とまた人気取りの発言もしている。
こちらも何を今さら……の感がある。
アジアの視聴者を意識した土曜の13時、日曜12時にプロの試合があるせいで、サッカー少年&青年たちがスタジアムに行けない状態になって久しい。日曜の昼に空白を作れば青年は救えるかもしれないが、試合が土曜午前に集中する少年と、その付き添いの家族は救えない。権力争いのついでの放送曜日・時間変更、これからも冷めた目で見守っていきたい。
Photos: Getty Images
Profile
木村 浩嗣
編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。