ティモ・ヴェルナー。「守備」と「眼」で仕掛ける神速ストライカー。
16-17シーズン、RBライプツィヒへの移籍をきっかけに本格的なブレイクを果たした、ドイツ人FWティモ・ヴェルナー。それまで所属したシュツットガルトでは持ち味のスピードでゴールを脅かすものの、なかなか結果に結びついていなかった。
RBライプツィヒ移籍後は毎シーズン2ケタ得点を重ね、今やドイツ代表の常連に。バイエルンやリバプールといったビッグクラブから関心も寄せられる存在となるまでに成長した。
移籍後のヴェルナーが得点を重ねるようになった要因は、RBライプツィヒの「速攻」をメインとした戦術に、スピードという最大の武器がマッチしたことが大きい。ただし、それだけではない。速攻の舞台を整えるための「守備」と、スペースを見極める「眼」が飛躍的に成長したのである。
速攻に繋がる守備
RBライプツィヒのシステムは、両サイドハーフが中央に絞った[4-2-2-2]がベースとなる。前線の6人がコンパクトな陣形を保ち、ボールを奪った瞬間に複数の選手が近い距離感を維持したまま駆け上がる。
このRBライプツィヒのシステムにおいて2トップに求められる守備は、第一にアンカーを使わせない守備である。中央に位置するアンカーを経由されると、選択肢を絞り切れずにコンパクトな陣形を保つのが難しくなるからだ。
ヴェルナーは、2トップの相方となるユフス・ポウルセンと連係をとり、アンカーへのパスコースを切りながらボールホルダーを追い詰める。この「パスコースを切る守備(=カバーシャドウ)」が速攻における大きなポイントである。
受け手へのパスコースを切りながらホルダーに寄せるカバーシャドウを行うことで、1人で2人の敵を相手にすることができる。そのためRBライプツィヒでは基本的に、2トップで2CB+アンカーの3人を相手にすることとなる。数的不利を覆すことのできるこの守備は、敵を追い詰めて高い位置でボールを奪うのに一役買っているのだ。高い位置で奪えるほど、ゴールに結びつく確率が高くなる。
さらにこの守備は、速攻への移行がスムーズになるという利点を持つ。パスコースに入るということは敵にベッタリとついてケアすることができない反面、離れた距離でも受け手を消すことができる。つまり、ボールを奪った瞬間に、敵から離れた位置で攻撃のスタートを切ることができるということである。
この守備をマスターしたヴェルナーは、速攻における初期位置で優位に立つことが増えた。圧倒的なスピードを持つ彼が初期位置で優位に立てば、まさに弁慶になぎなたである。
スペースの見極め
カバーシャドウを駆使した守備で初期位置の優位を確保するヴェルナー。ボールを奪った瞬間彼はどこを狙うのか。それは守備の最中から検討がなされている。
ヴェルナーは、敵のビルドアップ時の動きを注意深く観察している。守備をしているのだから、当然と言えば当然だ。ただ、それは守るためだけではなく、奪った直後の攻撃に繋げるという意味でも重要となってくる。
例えばSBが位置を上げる、CB同士の距離間が開く、CBが持ち上がる等、考えられる形は様々である。その中で敵のとるビルドアップ手法に応じて空くスペースを把握、狙いを定めて侵入する。
狙ったスペースに侵入し、ゴールまで駆け抜けられれば単独で一気に陥れる。一度敵陣深くで落ち着かせたとしても、切り替えの早い味方の攻撃陣がゴール前になだれ込んでくるため、引き続きのチャンスを期待できる。
敵のDFからすれば、スピードある選手がフリーの状態で空いたスペースに侵入してくるのだから、対応は困難だ。守備の陣形が崩れた状態で第2波、3波を受ければ、綻びを突かれる確率も高まる。
パスコースを切る守備とスペースの見極め。この2つを持っているからこそ、ヴェルナーのスピードは際立つのだ。
「相棒」の存在
ヴェルナーは、近い距離に味方がいてこそ活きるタイプだ。ドイツが優勝した2017年のコンフェデレーションズカップではレオン・ゴレツカやユリアン・ドラクスラー、ケレム・デミルバイが、RBライプツィヒでは2トップを組むポウルセンが彼との距離感を保ってプレーしている。
ヴェルナーはスピードを活かした抜け出しだけでなく、DFとMFのライン間でボールを受けることもできるタイプだ。サイドに流れるプレーも多く、一カ所に留まらない。ただしライン間でターンをして躱す、サイドからドリブル突破を仕掛けるといったプレーは強みというほどでもない。彼がボールを持った時の仕掛けはあくまで瞬間的に敵を外してパスコースやシュートコースを確保するためのものだ。
そんな彼がポジションを移すことでチームに与える影響は、スペースメイクの部分だ。
スピードのあるヴェルナーがポジションを移せば、当然敵は警戒してついてくる。そうして空いたスペースを別の味方に使わせるのだ。
そのためヴェルナーには、近い距離に位置して自身が作ったスペースを突いてくれる「相棒」が必要だ。相棒がいなければ、ヴェルナーの輝きは半減してしまうだろう。選手の距離間の近いRBライプツィヒで活躍しているのもそういった理由だ。
逆に速攻同様、彼自身がスペースを突く役目も果たす。RBライプツィヒでの相棒ポウルセンは、高さと速さを兼ね備えた万能型ストライカーだ。彼は、ヴェルナーには難しい空中戦からのボールキープを得意としている。ポウルセンが競り合ったDFの背後を突く動き、空中戦の落としを受ける動きはパターン化されており、チームの大きな武器となっている。阿吽の呼吸とも言うべきこの2人の関係はまさに2トップの理想形である。
課題
そんな彼の課題は、何と言ってもシュート精度である。コンスタントに2桁得点を続けているヴェルナーだが、決定機を逸するシーンは決して少なくない。
かつてヴェルナーも在籍したアレクサンダー・ツォルニガー時代のシュツットガルトや、ロジャー・シュミットが率いた当時のレバークーゼンのように、プレッシングと速攻をメインとするチームが決定力不足に泣くケースは多々ある。守備に速攻、スペースメイクに侵入役と様々な形でチームに貢献するヴェルナーだが、個人として、チームとしてさらなる高みを目指すのであればシュート精度の向上は避けて通れない。
そしてもう一点、アグエロのような個人の駆け引きをベースとした裏への飛び出しが少ないという点だ。
ヴェルナーは敵の背後に抜ける際、スペースの広がっている状態でなければゴールを陥れることができない。ビルドアップで前進した敵のDFの背後に入る、ポウルセンが競り合ったDFの背後をとる等、裏に抜けるまでに段階を踏む必要がある。
サッカーというチームスポーツにおいて、この動きをこなせるのが強みであることは間違いない。ただ、さらに上に行くには世界屈指のストライカーであるアグエロのように、何のフラグや過程もない状態から突如として敵の背後に入り込みゴールをさらう、理不尽なまでの駆け引きの技術を身につける必要がある。最前線、ボックス周辺での、純粋なストライカーとしての動きには改善の余地がある。
守備と眼、スピードを武器にビッククラブからも注目される存在となったティモ・ヴェルナー。今の彼にシュート精度と最前線での駆け引きの技術が加われば、途轍もない選手に化ける可能性を秘めている。華麗なドリブルも圧倒的な高さも持たない彼が最前線で今後どのような輝きを放つのか、期待したい。
Edition: Sawayama Mozzarella
Photos: Bongarts/Getty Images, Getty Images
Profile
とんとん
1993年生まれ、長野県在住。愛するクラブはボルシアMG。当時の監督ルシアン・ファブレのサッカーに魅了され戦術の奥深さの虜に。以降は海外の戦術文献を読み漁り知見を広げ、Twitter( @sabaku1132 )でアウトプット。最近開設した戦術分析ブログ~鳥の眼~では、ブンデスリーガや戦術的に強い特徴を持つチームを中心にマッチレビューや組織分析を行う、戦術分析ブロガー。