もしも名将ペップ・グアルディオラがアマチュアクラブを率いたら、どんな化学反応が起こるのだろうか。そんな妄想を現実にした英サッカーメディア『COPA90』の企画が、海外サッカーファンの間で密かに注目を集めている。
「サンデーリーグ」に参戦したペップ
現在マンチェスター・シティを率いるペップ・グアルディオラは、先日のカラバオカップ連覇で監督としての通算獲得タイトル数を25まで伸ばした名将の中の名将。そんなペップがアドバイザーを務めるのは、イングランドのイプスウィッチにあるローカルパブ公認のサッカークラブとして1967年に創立されたキッチナーFCだ。
土曜日に試合を行うプロリーグとは対照的に日曜日に試合開催する「サンデーリーグ」を戦っているこのアマチュアクラブは、名将のプレー分析をもとに「ビルドアップ」「プレッシング」「守備から攻撃へのトランジション」の改善を目指す。
まず、ペップは試合映像を通じてビルドアップの出来を確認。最終ラインから丁寧にパスを繋いで組み立てようとするキッチナーFCだったが、自陣深くで相手チームにボールを奪われてさっそくピンチを招いてしまう。映像を見ていたペップが送ったのは、励ましの言葉だった。
「ビルドアップというのは多くの決まった形によって成り立っている。そこにはいつもスペースがあるんだ。私が選手に伝えようとする最も重要なことは、信じる必要があるということ。最初はミスがつきものだからね。ロングボールに頼ってセカンドボールを狙う方が簡単だけど、ボールが宙に浮いていれば五分五分になってしまう。でも、ボールが君の足下にあればそれは君のものだ」
さらにペップは、こだわりを持つビルドアップの改善方法まで提案。鍵を握るのは、最後尾から作り出す数的優位だ。
「アドバイスを送るとしたら、GKとCB2枚でビルドアップを始めて、対峙する相手のストライカー1枚をフィールド上で孤立させながら3対1を作り出すということだね。つまり、ストライカー1枚の相手とプレーする時は3対1を作り出せばフィールドを支配できることを教えてあげるんだ。複雑じゃないからやってみてほしいね」
「ボールを奪いたいのはプレーをしたいから」
次にペップが改良に着手したのは、シティの代名詞でもあるプレッシング。「サンデーリーグであろうとどこであろうと、サッカー選手はボールとともにプレーすることを愛していると信じているよ。彼らがサッカーをプレーしているのは、ただ走ったり、ジムに行くためじゃない。もちろん試合後に飲むビールは格別だけどね」と前置きしたペップは、前線から果敢にプレスを仕掛ける意図を強調する。
「彼らがサッカーを愛しているのは、ボールに触ることができるからなんだよ。プレッシングにおける第一の原理原則は、相手にボールを持たれたら襲いかかるということ。ボールを奪いたいのはプレーをしたいからなんだ。全員をアグレッシブにさせることに力を注がなくてはならない。ボールを奪いたいのにはそういう理由があるんだ」
続いてペップは、守備から攻撃へのトランジション(切り替え)で取るべき最初のアクションについてアドバイス。
「まずはストライカーを見ること。そうすれば最高のパスを出すことができる。ボールを奪ってから最初に取るアクションは、可能であれば前進することだよ。それこそが最高の方法なんだ」
最後には直接練習場へ足を運んでキッチナーFCのトレーニングを見学したペップ。現役時代を振り返りながら、選手たちに檄を飛ばしてこう企画を締めくくった。
「君たちが羨ましいよ。私はもうプレーできないからね。私だってもっとプレーしたかったけど、もう叶わぬ夢となってしまった。負けたら腹を立てて、勝ったら大いに喜んでほしい。君たちはサッカーを愛しているんだからね。それこそ歩けなくなるまでプレーしてほしいよ」
Photo: Getty Images
Profile
足立 真俊
1996年生まれ。米ウィスコンシン大学でコミュニケーション学を専攻。卒業後は外資系OTAで働く傍ら、『フットボリスタ』を中心としたサッカーメディアで執筆・翻訳・編集経験を積む。2019年5月より同誌編集部の一員に。プロフィール写真は本人。Twitter:@fantaglandista