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野心が大きいほど挫折するのがリーガの外国人オーナーの作法

2019.04.01

独裁バレンシアの崩壊、遠慮気味のエスパニョール、ロナウドの楽観

マルセリーノ監督が率いるチームはどうやら上り調子だが、ピーター・リムが率いるクラブはいっこうに経営改善の兆しがない。リーガで外国人オーナーが成功するためには、バレンシアがやっていることと真逆のことをすれば良い。

 リーガには外国人がオーナーのクラブが3つある。バレンシア、エスパニョール、バジャドリーだ。巨大化するには海外資本の導入が不可欠なのはプレミアリーグを見れば明らかだが、なかなかスペインには手が出せない。プレミアとリーガではリーグとしてのブランド力が違うし(その差は放映権料に反映されている)、スペイン発の世界的企業って言われても思い浮かぶのは『ザラ』くらいの国とイギリスでは、何より国の経済力が違う。

 国際ブランドとして魅力があるのはレアル・マドリーとバルセロナだけなのだが、その2つはソシオ制で海外資本が喰い込めない。それ以外は、アトレティコ・マドリーも含めて渋いファン向けのドメスティックな商売に過ぎない。それでいいのだ。地道に堅実に2強の足を引っ張るくらいの立ち位置。CL参戦が偉業で、EL勝ち上がりが快挙、残留できれば目標達成というのがリーガ勢の身の丈に合っている。

 なのに、“狙いはCL優勝”、“そのために海外資本導入”なんて言うからおかしくなる。その外国人オーナーの狙いが商売としての儲け、つまり投資目的なら失敗する。道楽半分でサッカークラブを率いるのが夢だった、というくらいで丁度である。

 アトレティコ・マドリーの苦しい経営状態については別の記事で述べた。その他で今、崖っぷちに立っているのが、アジアの大富豪に経営権を譲ったバレンシアである。ここのやり方は、こうすればリーガでは失敗する、という最悪の例で最高の反面教師だと言える。

財政もスポーツ面も地元感情も悪化

 まず、バレンシアの危機的状況をまとめておこう。17-18シーズンの決算は営業利益マイナス3600万ユーロで、ピーター・リムがオーナーに就任した14-15以降、4季連続の赤字。累積負債は4億5000万ユーロ(約563億円)に達している。リムが株式購入、融資などで2億ユーロ(約250億円)を費やしてのこの惨状である。

妻チェリー・リムとともに試合を観戦するバレンシアのピーター・リム。なお、トップ画像でギャリー・ネビルとともに写真に納まっているチャン・レイホー氏は17年に会長を退任している

 今季の収支はプラマイゼロというのが目標だが、これは選手の売買による利益を4000万ユーロと見込んでのもの。そんなものどう考えても無理である。だって冬の移籍市場クローズまで4日間残した段階で、6000万ユーロ以上の赤字だったんだから。CL参戦に備えてクラブ史上最高額で完全獲得したゴンサロ・ゲデスをはじめジョフレイ・コンドグビア、ケビン・ガメイロ、ムクタル・ディアカビらを夏だけで購入した今季、選手の売買で利益を出そうというのはどんな杜撰(ずさん)なプランなのか? 公約だった新スタジアムへの移転は、2009年に資金不足で止まった工事が跡地の売却予定が立たずに再開されぬまま。創立100周年の今年オープンだったはずが、「2022年を目標としたい」へと大きく後退した。

 スポーツ面では4季でのべ8人の監督が就任し無冠、CL参戦は2回(いずれもGS敗退)。例えば11-12、13-14にEL準決勝まで進出していることを考えると、リムがやって来る前より悪くなっている。その間、生え抜きのパコ・アルカセル売却、監督未経験のギャリー・ネビルの大抜擢、補強約束を守らずプランデッリとの喧嘩別れなど意味不明で、反発を買うだけのオペレーションがいくつもあった。

海外と地元、経営とクラブ愛の溝埋められず

 リムの失敗の原因は、誤った経営モデルとそれを強行するための独裁にあった。

 取締役会にスペイン人を1人しか入れず、ファンや地元メディアの説得役は不在。対外的な顔だったヒーロー、マリオ・ケンペスを追い出しSDも置かなかった。代わりに懇意の代理人ジョルジュ・メンデスが暗黙のアドバイザーに就任。リムとメンデスが狙ったろう経営モデル、「選手を動かすことで利益を上げ、クラブとチームを強化する」というのは、現状では「選手の売買では大赤字、選手が行ったり来たりするだけで戦力は蓄積せず、移籍コミッションで代理人が儲ける」にしかなっていない。バレンシアを2強に伍するクラブへ、という願いは嘘ではないと思うが、それをファンやメディアに説得する術を持たなかった。やり方が強引過ぎて、「クラブ消滅の危機を救った恩人」のはずが、「LIM, GO HOME」と叫ばれるようになってしまった。

 このバレンシアの轍を踏まず、エスパニョールとバジャドリーは穏当に経営されている。エスパニョールのチェン・ヤンシェン会長は試合にもよく顔を出すし、副会長とSDにはスペイン人を配置。スポークスマンを命じスポーツ面の権限を委譲することで地元との“緩衝材”にしている。そうして“金は出すが口は出さない”良きオーナー像を投影にすることに成功した。

エスパニョールのチェン・ヤンチェン会長

 ロナウドの方は圧倒的なカリスマで明るい未来の顔を演じながら、経営面では前取締役会を尊重、“クラブに入れてもらった”というスタンスを賢く守っている。

バジャドリーのオーナーとしてバルセロナの貴賓席に入り、ジョセップ・マリア・バルトメウ会長と言葉を交わすロナウド

Photos: Getty Images

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Profile

木村 浩嗣

編集者を経て94年にスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟の監督ライセンスを取得し少年チームを指導。06年の創刊時から務めた『footballista』編集長を15年7月に辞し、フリーに。17年にユース指導を休止する一方、映画関連の執筆に進出。グアルディオラ、イエロ、リージョ、パコ・へメス、ブトラゲーニョ、メンディリバル、セティエン、アベラルド、マルセリーノ、モンチ、エウセビオら一家言ある人へインタビュー経験多数。

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