J2降格受けフィー増額。私が名古屋グランパスのスポンサーである理由
近年、スポーツ界における“スポンサード”に対する考え方が変化しつつある。企業はスポーツにどのような価値を見出しているのか。名古屋グランパスをはじめ、スーパーGTやeスポーツなどのチームスポンサーを務める「株式会社三笠製作所」社長・石田繁樹に話を聞いた。
名古屋グランパスのJ2降格時のことを、石田はこう振り返る。
「降格って不景気到来みたいなことでしょ。うちの会社はリーマンショックの時、売上が大幅に落ちて存続の危機を経験している。だから、困っている時こそ手を差し伸べるべきだと思って」
愛知県に本社を構える株式会社三笠製作所は2013年から名古屋グランパスのスポンサーを務め、今シーズンで7年目を迎える。J2降格を受けてすぐに「スポンサーフィー増額を決めた」という石田の姿勢は、成績不振に伴う宣伝効果減少で減額や撤退をちらつかせるスポンサー像とは真逆のものだ。
「Jリーグが始まる前からサッカーが好きだったので、地元のクラブであるグランパスの応援でスタジアムにはよく行っていました。けど、仕事の忙しさに余裕がなくなって……。そんな時に仲間からグランパスには後援会があるという話を聞いて、そういう応援の仕方もあるのかと興味を持ったんです。その仲間の紹介で次の日にはさっそくグランパスの営業さんが弊社に来て『後援会とは別にスポンサーもありますよ』と説明してくれて、二つ返事で『やります』って。スポンサーになることでよりダイレクトに応援できることになってうれしかったですね」
純粋にクラブを応援したい気持ちが強い石田であるが、そこは企業の社長。ビジネス面でも抜かりはない。スポンサーを続けるメリットはグランパスを通じた「つながり」だ。
「弊社は制御盤の製造というBtoBの事業を行っているので、単純なクラブを通じた露出面だけで費用対効果を測定すると厳しい。けど、グランパスの営業担当さんを通じてビジネスパートナーとなる会社を紹介してもらうことができる。製造業が多い名古屋という土地柄も大きく、過去には弊社が主催する600人規模のイベントに、グランパスの営業さんが声をかけてくれたスポンサー企業の方々が集結してくれたこともありました。イベントが盛況になれば、その分をまたグランパスに還元できます」
スポンサーになるということは、ある種のビジネスクラブに入会するに近い価値があるということなのだろう。「グランパスのスポンサーをしているというのは、スポーツ業界はもちろん、製造業界や地方で与信になる」と石田はそのメリットを実感している。
「企業のトップの方々と、スポンサーという同じ立ち位置で世間話や商談ができるのは大きい。自分自身もそれなりに価値ある人間でないと、そういう相手に対して箸にも棒にもかからないけど、スポンサーをしていることがその証明になる。そういう意味ではある種のチケットなんだよね、これは。認めてもらえれば後はスムーズ。人とのつながりが資産であることをみんな知っているから」
モータースターツやeスポーツにも“参戦”。見据える未来
「好きなチーム応援したい気持ちありきだから、スポンサーメリットは後付けだけど」と笑う石田だが、Jリーグ以外のスポーツも多くスポンサードしている。 カンボジアのサッカークラブ「アンコールタイガー」やモータースポーツ、スーパーGTの「Team LeMans」、鈴鹿8時間耐久レースなどに参戦する「TONE RT SYNCEDGE4413」などだ。
「スポンサーをする基準はいくつかあるのですが、その業界で商売をしたいかどうかはその1つ。ボトムアップでその業界を登っていくより、スポンサーとして入った方がある程度のステータスからスタートできるから。同時にスポンサーを通じていろんな方々と出会え、業界を勉強できる。本には載っていない現場ならではのノウハウは必ず存在します」
先行投資の意図でスポーツにスポンサードした事例としては「ZOZOマリンスタジアム」の命名権を取得し、プロ野球球団保有の意思を表明(その後、断念)したZOZOの前澤友作社長の例が記憶に新しいが、石田にもビジョンが存在する。
「直近では『キュアノス』という、『ウイニングイレブン』の選手が所属するeスポーツチームを2018年の秋に立ち上げました。まずはここで、スポンサーとして得た経験を生かしたいと思っています。このチームを立ち上げたことで現在はオーナーとスポンサーという2つの立場からスポーツと関わることができていますが、こうした経験の先には……新しいスポーツの協会を創設したいんです。具体的なことをお話できる段階にはないのですが、僕が経営している製造業とスポーツが融合した新しいスポーツの立ち上げを考えていて、それがけっこうなスケールになりそうで。だから、しっかり構築して運営するために今はいろんなスポーツから学んでいる段階です」
石田の言葉からは、スポーツビジネスにおける資本の変化を感じさせる。スポンサー料を払う対価として、露出やVIP席など画一的なメリットと交換する従来の発想ではなく、パートナーとしてスポーツ界から学び、貢献できる関係性に価値を見出している。スポンサーになることでスポーツの未来に自分を重ね合わせることができるのだ。
「スポンサーになるかどうかを判断する上で、最後に重要視するのは将来性や真剣度です。チームオーナーや選手から直接話を聞いて、面白そうだったら最後までとことん真剣に携わるし、勝ってもらうためのサポートは惜しまないですね」
石田はスポンサードするスポーツチームを「俺ら」と一人称で呼ぶことがある。実際の振舞いもまるでチームスタッフのそれある。試合前後にはSNSで告知し、スタジアムでは来場者にチラシを配り、ゲストのアテンドまでこなす。「あっ!社長!」と呼び名こそ権威あるものになっているが、彼を見つけたチーム関係者がカジュアルに握手を求めている様子からは、フラットなパートナーとしての関係性を築いていることがうかがい知れる。
「スポンサーになった以上、必要とあらば何でもしたい。許してもらえる範囲で他人任せにしない行動を取りたいんです。特にグランパスに対しては、J2降格という危機を経験して“おらがチーム”という気持ちはさらに強くなった。これらかもずっとグランパスを支えていきたいです。きっと、リーマンショック級の不景気が来てもスポンサーは続けると思いますよ」
Profile
玉利 剛一
1984年生まれ、大阪府出身。関西学院大学卒業後、スカパーJSAT株式会社入社。コンテンツプロモーションやJリーグオンデマンドアプリの開発・運用等を担当。その後、筑波大学大学院でスポーツ社会学領域の修士号を取得。2019年よりフットボリスタ編集部所属。ビジネス関連のテーマを中心に取材・執筆を行っている。サポーター目線をコンセプトとしたブログ「ロスタイムは7分です。」も運営。ツイッターID:@7additinaltime