遠藤航、ポリバレントからスペシャル・ワンへ。飛躍期す2019年
日本代表プレーヤーフォーカス#6
ロシアW杯では一度もピッチに立てず
ポリバレント。
イビチャ・オシム元日本代表監督時代に有名になった言葉だ。複数のポジションや役割をこなす、多様性のある選手を、オシム監督は好んだ。
遠藤航はポリバレントな選手だ。ボランチ、センターバック、サイドバック。守備的なポジションなら、どこでもこなせる。A代表デビューとなった2015年の東アジアサッカー選手権では右サイドバックで起用されている。
複数のポジションを高いレベルでこなせるのは、監督からすれば使い勝手がいい。実際に、遠藤はハリルジャパンの常連メンバーとなって、大会直前に監督交代があったロシアW杯でも23人に名を連ねた。
しかしながら、W杯では一度もピッチに立つことはなかった。ポーランドとのGS第3節ではスタメンを6人入れ替えたにもかかわらず、遠藤には出番は与えられなかった。W杯でベスト16になった熱狂の中で、23人に選ばれながらピッチに立てなかった悔しさは本人にしかわからないだろう。
ロシアW杯における遠藤は、3バックを採用した場合のセンターバックの2番手という位置付けだったと思う。大会の2カ月前に就任した西野朗監督は4バックにするのか3バックにするのか最後まで迷っていた。
だが、長谷部誠をリベロに置く3バックを採用した、国内での強化試合ガーナ戦は0-2で完敗。スイス・オーストリアでの事前合宿からは4バックに舵を切ってチームを固めていった。その中で遠藤の立ち位置は微妙になっていく。
最後にして、唯一の出場となったパラグアイとの親善試合。遠藤は右サイドバックとして先発出場したが45分間で下げられた。試合後、雨が降り出したスタジアムの外にもうけられたミックスゾーンで遠藤に話を聞いた。他の選手には記者が群がる中、試合出場の可能性が低い遠藤に話を聞く人はまばらだった。
それでも、リオ五輪でキャプテンを務めた遠藤は自分が置かれた状況を受け止め、チームのために何ができるかを考えていた。
「リオの時は中心で出ていて、サブ組の練習に対する姿勢とかは見ていました。自分も気にしていた部分ではあったので、自分がその立場になった時にチームのために何ができるかを考えるべきだと思っています。出られなくても練習から良さを出すことが、チームにとってプラスになると思っている。(出場時間が)半分なので、どう評価されるかはわかりませんが、その部分で100%やるところは変えずにやってきたい」
ポリバレントから、スペシャル・ワンへ
出場時間0分に終わったW杯からほどなく、海外への移籍が発表された。行き先はベルギーのシントトロイデン。浦和という日本のビッグクラブで不動の地位を築いていた遠藤にとって、25歳での海外挑戦は小さくないリスクがあった。それでも、遠藤は決断した。4年後のW杯で主軸としてW杯のピッチに立つために。
ベルギーで、遠藤には変化があった。1カ月という短い期間ではあるが、ボランチとしてずっと試合に出続けたのだ。浦和では主にセンターバックとしてプレーしていたが、「最終的にはボランチで勝負したい」と思っていた。178cmというサイズは、(センターバックとして)世界を相手に戦うのはネックとなると感じていたからだ。
森保ジャパンになってからアジアカップまでの強化試合で、遠藤は5試合中3試合にフル出場した。しかも、ボランチとして、だ。コスタリカ戦は青山敏弘と、ウルグアイ戦、ベネズエラ戦では柴崎岳とダブルボランチを組んでいる。
遠藤航=守備的。
そんなイメージを持っている人は多いだろう。だが、森保ジャパンでの遠藤は、良い意味で、そんなイメージを覆している。元々の持ち味だった球際の強さや出足の良いインターセプトに加えて、攻撃面での貢献度が目に見えて増えているのだ。
コスタリカ戦の2点目がわかりやすい。66分、センターサークル付近で相手からボールを奪うと、ドリブルで運んでから前方に中島翔哉に預ける。そこから前方のスペースに上がっていくと、 DFラインの背後で中島のパスを受ける。ゴール前でフリーになっていた南野拓実に繋ぎ、日本代表初ゴールをアシストした。
試合後の遠藤は充実した表情を浮かべていた。
「最近意識しているのは、ワンタッチで縦に入れるという自分の良さを持ちながらも、自分でもボールを持ってタメをつくって展開していくようなプレー。両方の選択肢を持つようにしています。アシストのシーンはドリブルで運んでいきながら展開していくことができた」
アジアカップでは初戦こそベンチスタートだったが、オマーン戦では先発出場して中盤に安定をもたらした。柴崎とのダブルボランチは、森保ジャパンのファーストチョイス候補だ。この2人はどちらかが攻撃的で、どちらかが守備的という、これまでの日本代表に見られた典型的な組み合わせではない。
柴崎が前に出て、遠藤が残ることもあるし、その逆も然り。お互いを意識しながら、その場で最適なプレーを選択する。そうした関係性を構築できているのは、遠藤の攻撃面の進化によるところが大きい。
ポリバレントから、スペシャル・ワンへ――。遠藤航は4年後のW杯に向けて荒波を生き抜いていけるか。
Photos: Getty Images
Translation: Daisuke Sawayama
Profile
北 健一郎
1982年7月6日生まれ。北海道旭川市出身。『ストライカーDX』編集部を経て2009年からフリーランスに。サッカー・フットサルを中心としてマルチに活動する。主な著書に『なぜボランチはムダなパスを出すのか』『サッカーはミスが9割』。これまでに執筆・構成を担当した本は40冊以上、累計部数は70万部を超える。サッカーW杯は2010年の南アフリカ大会から3大会連続取材中。2020年に新たなスポーツメディア『WHITE BOARD』を立ち上げる。