苦しんだフランクフルト時代に得た、強いゴールへの意識
リーグ第18節スタンダール戦で、早くも今季のゴールを二桁に乗せた鎌田大地。地元紙『ヘット・べラング・ファン・リンブルフ』は「昨季の森岡亮太に継いで、同じく日本人の鎌田大地が今季のベルギーリーグの発見になった」と報じている。
ベルギーリーグデビュー当初は左サイドMFで起用されていたが、現在はシャドーストライカー、ないしは2トップの一角としてプレーしている。相手DFを背にしながら、敵陣ペナルティエリア近辺の狭いエリアでボールを扱うことの多い鎌田だが、極めて冷静にボールを扱い、細かいタッチのドリブルや鋭い切り返しでマーカーの体勢を崩し、相手GKのポジション、姿勢を見極めて多彩なシュートでゴールを重ねている。
「1対1で勝てる自信があるので、特にゴール前だったら仕掛けようと思ってます。それが、いい方向に向かっている。もちろん、チームの勝ちがいちばん大事だし、アシストも欲しい。だけど、ゴールまで1対1で仕掛ける状況があれば、僕は勝てる自信があるので、仕掛けるようにしています」
鎌田のゴールへの高い意識は、時にエゴイスティックにすら感じるほど。スタンダール戦後、そのことを記者から指摘されたマルク・ブライス監督は、こう答えている。
「鎌田は他の選手がフリーだったにもかかわらず、自らシュートを撃ちに行った。だが、それは彼のプレースタイル。実力の表れでもある。彼は、そのプレースタイルでゴールを取り続けているんだ。そもそも、私には、鎌田がチームメイトにボールを渡さないとは感じられないけれどね」
鎌田のゴールへの強い意識は、昨季、サガン鳥栖から移籍したフランクフルト時代に育まれたものだった。
「昨季、フランクフルトで試合に出られず、苦しいシーズンを過ごしました。周りがどう思っているかわかりませんが、僕自身はすごく成長できたと思います。
試合に出られなかったということは、僕自身に何かが必要だったということ。それで、毎日の練習から得点を意識していました。練習試合であれば、フランクフルトの中でも僕は得点を取っていた方です。フランクフルトの1年間で、そういう部分を磨くことができました。鳥栖から直接、シントトロイデン(STVV)に来ても、これだけのゴールを取ることはできなかったと思います」(オイペン戦後のコメント)
「疲れがあるのは、当然だ。なぜなら……」
STVVは、第19節を終えた時点で5位と大健闘している。だが、各選手に疲労が見え、第19節のロケレン戦、ベルギーカップ準々決勝のヘント戦でともに精彩を欠き、連敗してしまった。ヘント戦で1アシストを記録したものの、鎌田の調子もやや下がっているように見受けられる。
「ここ2試合、チーム全体の調子が悪かったから仕方のない面もあるが、鎌田のプレーは目立っていなかった。疲れがあるかもしれないし、アジアカップの日本代表メンバーに選ばれなかったことで、自分自身と闘っているのかもしれない。私も彼が代表メンバーに選ばれなくて残念だ」と前置きしたうえで、ブライス監督は続ける。
「疲れがあるのは当然だろう。彼はフランクフルトで1年間、ほとんど試合に出られなかった。そしてSTVVに移籍したのも、シーズンが始まってから。鎌田はまず、コンディションを上げていく必要があった。また、夏の準備期間をSTVVで過ごさなかったから、チームと連係を合わせる時間もなかった。そのことを思えば、ここまで鎌田が出してきた結果は素晴らしい」
11月28日は、STVVファンがひと安心した日だった。この日『ヘット・べラング・ファン・リンブルフ』紙は一面トップに『鎌田、間違いなくシーズンいっぱいSTVVに残る』という記事を掲載したのだ。同紙に対して、フランクフルトのテクニカルディレクター(TD)、ブルーノ・フーブナーはこう答えている。
「鎌田は現在、STVVでポジティブな成長を遂げている。そのことを妨げたくはない。来年夏まで残る」
気になるのは、STVVに鎌田の買い取りオプションはあるのかということだ。フーブナーTDは肯定も否定もしなかった。だが、STVVのスポーツディレクター、トム・ファン・デン・アベーレは同紙に対し「われわれに鎌田の買い取りオプションはない」と認めた。
鎌田の去就は、今後さらにベルギー国内でホットな話題となるだろう。そのステータスが鎌田には、もうある。だが、彼がシーズン途中からSTVVに来て、コンディションも整わない中、即興でチームと合わせてプレーしてきたことを忘れてはならない。
私は“本当の鎌田大地”はウィンターブレイク明けに見ることができると思うのだ。
Photos: Getty Images
Edition: Daisuke Sawayama
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中田 徹
メキシコW杯のブラジル対フランスを超える試合を見たい、ボンボネーラの興奮を超える現場へ行きたい……。その気持ちが観戦、取材のモチベーション。どんな試合でも楽しそうにサッカーを見るオランダ人の姿に啓発され、中小クラブの取材にも力を注いでいる。