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ウセム・アウアル。“きれいな”プレーで魅せるリヨンの支配者

2018.12.17

フランスが送る若きスターはムバッペだけじゃない。名門リヨンが手塩にかけて育ててきた秘蔵っ子は、抜群のスキルと戦術眼で“ボールをきれいに”してゲームを司る。

Houssem AOUAR
ウセム・アウアル
(リヨン/U-21フランス代表)


 トロフェ・コパの最終候補10人に、フランスからムバッペと並んで選出されたのがリヨンのMFウセム・アウアルだ。アウアルはジダンやベンゼマ、フェキルらと同じくアルジェリア系のフランス人で、リヨン郊外でムバッペと同じ1998年に生まれた。地元のクラブで6歳からサッカーを始め、2009年、11歳の時にリヨンからトライアルの招待を受けた。結果は一発合格。数週間後には、リヨンのU-12チームの一員となっていた。

 その頃のリヨンは、リーグ7連覇を達成したばかりの絶頂期にあった。3年前の『footmercato.com』でのインタビューでアウアルは、「当時のリヨンはジュニーニョたちがいた絶頂期だったから、本当に夢のようだった。地元の小さいクラブからリヨンに移ったのは大きな変化だったけれど、ものすごく誇らしく感じた」と当時を振り返っている。しかし、そこから各年代でステップアップしていくのは決してやさしいことではない。今やチームに欠かせない大エースとなったフェキルも、アカデミー在籍2年後の13歳の時には昇格メンバーから漏れ、地元クラブに逆戻りするという厳しい経験をしている。

 そんな中、アウアルは順調にリヨンのアカデミーで成長を続けていった。U-17時代には年間27得点15アシストを記録、U-19時代にも19試合に出場して11得点。16歳の時にU-19チームに混ざって試合に出場したこともある。当時アカデミーのリクルート責任者であり、ベン・アルファ、ウムティティ、トリッソ、ベンゼマ、ラカゼットら数々の名選手を発掘したジェラール・ボノー氏は、アウアルの素質をこう評している。

 「彼はテクニックに秀でている上に、優れたビジョンで素早く状況を判断することができる。両足を使いこなし、ゲームに緩急をつけられる。ペースアップしたかと思えばしっかりボールをキープすることもでき、1対1にも強い」「1.5列目、もしくはゲームメイカー。中盤で繋ぎ役にもなれる。さらにはフィニッシャーにもなれるし、ラストパスの出し手にもなれる」。つまりは攻撃ならどこでもこなす、万能プレーヤーであるということだ。

 「技術面のクオリティは群を抜いている。しかも類まれなサッカーセンスがある。メンタルも強く闘争心にあふれている」

 そうアウアルの特徴を描写するのは、彼の成長を見てきたコーチングスタッフの一人、アルモン・ガリードだ。

 「ウセムは見ていて気持ちの良いプレーをする。彼の“きれいな”プレーを見るのがたまらなく好きだ。俗に言う『ボールをきれいにしてくれる』選手。試合の中ではボールの動きが乱れてくる時がある。そこで彼にボールを渡すと、きっちり良い形に立て直してくれるんだ」

 ユースチーム時代はキャプテンも務めていた。ピッチ上では自然にリーダーになれるタイプだという。学業にも手を抜くことなく、18歳で大学入学資格バカロレアも取得。その翌月、リヨンと初のプロ契約を結んだ。リバプールやアーセナルといった国外の強豪も積極的に獲得に動いた中で確実に彼を手に入れるべく、ジャン・ミシェル・オラス会長自らが主導して契約をとりまとめたというのも有名な逸話として残っている。

今季はCLに初挑戦。大舞台での貴重な経験を積むばかりでなく、敵地でマンチェスター・シティを撃破するなどしてGS突破を果たしたチームにとって不可欠な存在となっている

先輩ベンゼマも“お気に入り”を公言

 初年度はトップチームとリザーブチームを行き来し、年明けの後半戦、ELのAZ戦でプロデビュー。本拠地での第2レグでは初ゴールをマークした。リーグ戦では終盤の3試合でピッチを踏むだけにとどまったが、これは翌シーズンへの布石だった。

 17-18はレギュラーに定着し、全コンペティション合わせて44試合に出場して7得点6アシストを記録。[4-3-3]の2列目を中心に、ジェネジオ監督は時に、オランダ代表のデパイをベンチに座らせてまでアウアルを左ウイングで先発起用した。

 「ウセムは複数のポジションでプレーすることができる。彼の素質については、練習中にも十分に見ているから驚きはなかったが、選手に求められる、先発メンバーとしての責任をまっとうしようという意識が見られることに非常に満足している」。指揮官は会見の席でも新鋭をこう称賛している。

 今季の序盤は期待通りのパフォーマンスが見られなかったが、徐々に調子を上げてきた。リヨンの先輩ベンゼマも、「今のリヨンでお気に入りは、あの“プチ・アウアル”だ。テクニックの質が素晴らしく高いしビジョンにも優れている。このままいったら、凄い選手になるだろうね」と、彼のファンであることを公言している。リヨンからまた一人、将来のフランスサッカーを牽引する逸材が誕生した。

■Profile
生年月日:1998.6.30(20歳)
国籍:フランス
出身地:リヨン
身長/体重:175cm/70kg
ポジション:MF
背番号:8
クラブ経歴:トンキャン・ビルアーバン(04-09)▶リヨン(09-)
トップ初出場:2017年2月
17-18公式戦:44試合7得点
18-19公式戦:23試合6得点

■Keywords
ヒーローは“ジズー”
「プレースタイル、生まれ持ってのエレガントさ、人間性、すべてにおいて理想の存在」と同じアルジェリア系のジダンに心酔
地元つながり
リヨンの大先輩フェキルとは、偶然にも同じ街クラブのトンキャン・ビルアーバンでサッカーを始めたという共通点がある
A代表はどっちに?
両親はアルジェリア人で、アルジェリア協会もラブコールを送っていたが「フランス代表でW杯出場が夢」と今年1月に公言
栄光の背番号8
レジェンドのジュニーニョらの特別な番号を17-18から背負う。「誇りに思う。歴史の重さを感じる。でもプレッシャーはない」
ラップ好き
フランスで人気のDRコンゴ出身ラッパー、メイトル・ギムスの大ファン。気分をアゲるミュージックはいつもギムスだそう

Photos: Getty Images

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ウセム・アウアルリヨン

Profile

小川 由紀子

ブリティッシュロックに浸りたくて92年に渡英。96年より取材活動を始める。その年のEUROでイングランドが敗退したウェンブリーでの瞬間はいまだに胸が痛い思い出。その後パリに引っ越し、F1、自転車、バスケなどにも幅を広げつつ、フェロー諸島やブルネイ、マルタといった小国を中心に43カ国でサッカーを見て歩く。地味な話題に興味をそそられがちで、超遅咲きのジャズピアニストを志しているが、万年ビギナー。

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