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中島翔哉は「考えない」。ありのままを認めさせたドリブラー

2018.11.16

日本代表プレーヤーフォーカス#3


森保一監督の下、3連勝を飾った日本代表。チームとしては順調なスタートを切った中、選手たちは新体制での居場所をつかむべく必死に戦っている。ロシアでの経験を糧にさらなる飛躍を期す者から、新たに代表に名を連ねチャンスをうかがう者まで。プレーヤーたちのストーリーやパフォーマンスにスポットライトを当てる。


考えるよりも早く、体が反応する。

 footballistaから「中島翔哉の分析記事を書いてほしい」と頼まれた。正直言って、困った。書き手にとって、これほど書きづらい選手はいないからだ。

 ロシアワールドカップの23人からは最終的に落選したものの、森保一監督のチームにおいて中島は攻撃の軸になっている。

 森保体制の初陣となったコスタリカ戦で先発出場すると、左サイドから何度も仕掛けでチャンスを作り出す。自信に満ちあふれたプレーは、南米の強豪ウルグアイを相手にもまったく変わらず。長友佑都が「ドリブルおばけ」と形容したのもうなずける活躍ぶりだった。

 ピッチの中では誰よりも目立つ中島だが、ピッチの外で記者の質問に答えるミックスゾーンではそうでもない。

 ドリブルの秘訣は? ボールを持った時に考えていることは? どういうイメージを描いていた? どんなに聞き方を変えようとも、中島から返ってくる言葉は常に同じだ。

 「何も考えてないです」

 あっけらかんと言う。囲んだ記者たちは苦笑い。ただ、これは100%本音なのだと思う。

 中島翔哉は考えない選手だ。

 こう書くとネガティブな印象を受けるかもしれない。サッカー選手にとって、「考える力」は身体能力やテクニックと同じぐらい重要とされる。味方や相手がどこにいるのか、スペースはどこにあるのか、数的有利なのか不利なのか……。何をすべきかを考えて、最適なプレーを導き出すのが一流選手だからだ。

 例えば、日本代表で司令塔として活躍した遠藤保仁や中村憲剛などは、そうした「考える力」が突出していて、試合中の場面を振り返ってもらうと「あの時は、あそこに相手がいて、ここにスペースがあって」という具合に掘り下げてくれる。

 中島はそういうタイプではない。ただ、中島のプレーを見ていると良い意味で「考えてないな」と思う。

 ボールをもらう。ドリブルを仕掛ける。相手が奪いに来る。この時、中島は考えていない。というか、考えるよりも早く、体が反応している。だから、あそこのプレーを解説してほしいと言われても、解説しようがないのだ。


試合中に、よく笑う。

 中島を初めて見たのは彼が12歳の時だった。フットサルの全国大会「バーモントカップ」に東京ヴェルディジュニアの10番として出場していた中島の印象は、今とまるで変わらない。

 ボールを持ったら、とにかくドリブルを仕掛けまくる。本人も「好き勝手にやらせてもらった」と当時のことを振り返っているが、こんなに自由にプレーさせて良いのかと思うぐらいだった。優勝はならなかったものの、ヴェルディの10番は誰よりも目立っていた。

 「憧れの選手はロナウジーニョです」

 小柄で、サラサラヘアーで、ちょっと人見知り。そんな中島少年が憧れの選手として名前を挙げたのは、当時バルセロナのエースとして大活躍していたブラジル人選手だった。

 中島とロナウジーニョには共通点がある。ドリブルが大好きなことや、創造性にあふれるところ、そして試合中によく笑うところ。ロナウジーニョはいつも笑っていた。ゴールを決めた後だけじゃなくて、ゴールを外した後でも。

 中島もロナウジーニョほどじゃないが、試合中によく笑う。ウルグアイ戦でも51分にミドルシュートをGKにキャッチされた後に笑顔を浮かべているのがカメラに抜かれている。

 「どの相手とやっても、どの舞台、試合でも、練習でも同じように楽しくサッカーすることはすごく自分の中で大事にしているので。相手ももちろんありますけど、サッカーは楽しいものだというふうに捉えています」


「自分のままがいい」と周囲に認めさせた、稀有な選手

 カテゴリーが上がっていくにつれ、サッカーを楽しむのは難しくなってくる。プレッシャーも増えるし、プロになればチームの結果が求められる。ドリブルが好きでサッカー選手になっても、ディフェンスのタスクを求められる中で個性が消えてしまうこともある。

 だが、中島はそうならなかった。自分のままでいるのがいちばんいいと周りに認めさせてしまった。そんな立場を勝ち取れるのは、ほんの一握りの選手しかいない。

 FC東京時代のチームメートは中島を「リアル・キャプテン翼」だと話していた。全体練習ではボールに触り足りないので、終わった後に個人練習をたっぷりする。ただし、監督によっては選手が個人練習をするのは嫌がることもある。そういう時は、家に帰ってから近所の公園に出かけて1人でボールを蹴っていたという。五輪代表で10番を背負っていたJリーガーが、小学生とドリブルする姿はたびたび目撃されていた。

 湘南ベルマーレの梅崎司はツイッターで「中島翔哉のプレーが好き。まじで楽しそう。」とつぶやいた。梅崎ほどのキャリアを持っているプロ選手が、「あんな風になれたら」と憧れてしまう、それが中島なのだ。

 公園でボールを蹴っていたサッカー少年は、日本サッカーの10番を背負うようになっていた。ただ、中島がそれを重みに感じることはないだろうし、そうなってほしくもない。

 中島が“考えないで”プレーすること――。それこそが、森保ジャパンが世界と戦うために必要なことだから。

Photo: Ryo Kubota
Edition: Daisuke Sawayama

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中島翔哉日本代表

Profile

北 健一郎

1982年7月6日生まれ。北海道旭川市出身。『ストライカーDX』編集部を経て2009年からフリーランスに。サッカー・フットサルを中心としてマルチに活動する。主な著書に『なぜボランチはムダなパスを出すのか』『サッカーはミスが9割』。これまでに執筆・構成を担当した本は40冊以上、累計部数は70万部を超える。サッカーW杯は2010年の南アフリカ大会から3大会連続取材中。2020年に新たなスポーツメディア『WHITE BOARD』を立ち上げる。

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