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目標は『Jリーグを牽引するクラブへ』。元最年少J社長が語ったグランパスの将来

2018.11.08

【Jクラブ特集第2弾】集客したければ魅了せよ――偶然には頼らない名古屋グランパス Episode 2


「Jリーグ史上最年少社長」の肩書きで覚えている人もいるかもしれない。34歳にしてヴィッセル神戸のトップに立った経歴を持つ清水克洋氏(40)は、現在、名古屋グランパスで「執行役員 事業統括 兼 マーケティング部長 育成管理部長」という役職を担っている。

2013年、楽天・三木谷浩史会長に抜擢され、J2降格の窮地に陥っていた神戸の立て直しに奔走。組織変更のため2年間での退任となったが、17年には同じくJ2降格の憂き目に遭った名古屋に呼ばれ、小西工己社長の右腕的存在となっている。

開幕からの絶不調、夏場の大補強、7連勝からの3連敗。何かと話題を欠かない今シーズンの名古屋グランパスだが、その内部ではいったい何が起きているのか。目指す先は『シャチの祭典』という清水氏に話を聞いた。


クラブの総力を結集した「4万3579人」


―― 就任から約1年半、現状の手応えはどうですか?

 「率直に、今年の入場者数には驚いています。入社する前に思っていた『名古屋、愛知の底力』かもしれないですね。グランパスは色々な方から『ポテンシャルがあるクラブ』と言われていたそうですが、そのポテンシャルが昨年と今年、少しずつ爆発しかけている感じなのかなとも思います」


―― ご自身で「俺はこれをやれた」みたいなところはありますか?

 「自分がというのはあれですが、クラブの成果として、これだけの方にご来場いただいたのは大きいですね」


―― 具体的にはどのようなことを?

 「クラブ全体での取り組みを重ねた成果だと思います。積み重ねてきたデジタルマーケティングのベースがあり、その上でいかに面白い企画をやって、いかにたくさんの人にそれを知ってもらい、いかに興味を持って足を運んでもらうか、というシンプルな話です。

 たとえば8月11日、J1第21節鹿島戦での4万3579人。みんなが4万人を絶対に達成したいと思っていましたし、そのためにできることを、これまでの常識に捉われずに全部やったという感じです。そういうクラブ全体の取り組みをこの立場で関われたのはすごくありがたいです」

発表された瞬間、スタジアムはどよめいた © N.G.E.


―― 入場者数はピッチ、フロントが一体になった成果かと思います。具体的にはどういった要因が良かったのでしょうか。

 「風間監督と小西社長がズレずに一致しているので、そこは大きいと思います。風間監督に関しては昨年のご就任から、『プロのサッカーなのでお客さんに応援していただいてなんぼ』『スタジアムにたくさん来ていただいてなんぼ』、そういった目線も持って、強いだけでなく見ていて楽しいサッカーを組み立ててくださっていると思います。

 その部分をそれだけ意識してくださっている監督はなかなかいません。例えば、選手が試合前に稼働してファンの方と直接触れ合うというイベントもやりますが、それにも選手も進んで出てくれています。そういう部分でのチームの協力は本当にありがたい。試合日以外のホームタウンのイベントでも同じです」


―― 入場者数増加のために集客施策への投資もかなり積極的に行っているのではないでしょうか?

 「8月11日には来場者全員にユニフォームを無料で配りましたね。他にもやってらっしゃるクラブはありますが、その額が何百万円、何千万円となってくると、だったらトップチームの選手を獲得するのとどっちが良いという話になるかもしれない。そこの投資判断はしっかり緻密にやっています。

 ユニフォームを配ったら来場が増えるだろうという根っこの考え方はあるんですが、これくらい来場者数が増えてこれくらいチケットが売れれば、かかったコストをこれだけ回収できる。でも、それでも投資額には足りないからスポンサーに、例えばDAZNさんやミズノさんにもサポートいただこう、という形でやってきました。

 クラブの事業の中で、入場者数を増やして、親会社ありきではないご支援も募り、クラブとして投資判断した取り組みです。

 小西社長も『新しいことはどんどんやれ』ですし、私も1年半一緒にやらせていただいていますが、事業の現場から提案したことでダメだと言われたことは一つもなく、むしろ『もっとこうできるんじゃないか』という意見をいただきますね。そこはすごくありがたいです」

25周年記念ユニフォームを来場者全員に配布した © N.G.E.


―― 投資の際には強化部と予算の綱引きになるんじゃないですか?

 「それはグランパスではあまり感じていません。先ほどの投資対効果の話もそうですし、小西社長も風間監督も、ただ強くなるだけではなく、しっかりとホームタウンを盛り上げて、スタジアムに足を運んでいただいて、そこでちゃんといいサッカーを見せるんだと考えています。サッカーだけじゃないところも一致しているので、そこはありがたいことです。

 ただ、投資の効果を検証できる仕組みはきちんと作っています。たとえば、今年は地上波のテレビCMも新しくトライしたんですが、新しく費用をかけるところは、必ずそこでどんな効果があったかを確認しています。CMについてはアンケートを見ると、去年までのプロモーションは愛知県の人が100いるとしたら50くらいしか届いていませんでした。色々やっていたんですが、ようやく半分くらい。それにテレビCMを加えた今季は7~8割までいったんです。特にライト層で広がりがありました。

 もちろんライトな層なので全員がスタジアムに足を運んでくださるわけじゃないんですけど、50に届けてやってる限りは50以上の人は来ません。そこが80までいけたということが検証できていることで、なんとなく広告を使い続けるのではなく、1個1個やってみて検証する、良かったからやろう、悪かったら違う形でやろうというサイクルができる形になっています」


―― 一般的にJクラブはブラックな労働環境だと言われますが、そこまでやっているとさらに厳しい待遇になりそうですが……。

 「むしろホワイトかも知れません(笑)」


―― それは会社としての理念があるのですか?

 「そうですね。良い意味でトヨタ自動車さんのDNAだと思いますが、『時間も有限の資源』と常々小西社長からも言われています。これまで夜までかかってなんとかできたことを6時までに収めようとすれば、ものによっては省いたら良いものだと分かるかもしれないし、ものによっては自分たちでやるのではなくて外の力も活用しようと。

 社員でやると固定費でコストが発生しないけど外注したら追加でお金がかかるという印象もあるかもしれませんし、残業代と外注費がとどっちが安い、みたいな話に聞こえるかもしれませんが、そういう金銭的な意味だけではない、かかる時間が重要なリソースだということだと思っています。

 あとは、判断のスピードをできる限り速くすることですね。じっと考えこんでしまうより、やって検証してダメだったらやり方を変えたら良い、もちろんお客様の安心安全に関わる失敗はダメですが、面白いと思ったけど面白くなかった、みたいな失敗は別に良いんじゃないかと思っています」

リーグ前半戦最後の試合となった柏戦後、風間監督継続を明言した © N.G.E.


―― スポーツ業界はなかなか成果を読めない部分もありますよね。

 「ありますね。例えばチームが勝てる勝てないというのもそうですね。いろんな角度で勝てる可能性を高める方法をチームも強化部も検討します。ですが、それは隣のクラブもその隣のクラブもやっている作業で、その中で、シーズンで勝てるのは1チームなので、全てが思ったとおりにはいきません。

 マーケティングもそうかもしれません。試合ごとに入場者数の結果が出るので検証はできるんですが、新しい企画をプランニングする時にはそこまでデータを取れるわけではないですし、リーグ戦が進んでチーム状況が変わることもあり、企画段階で思った通りの結果が出るか、読めない部分もあります。でも、それを100%の精度で読もうとして莫大な時間やお金がかかるんだったら、『やって検証する』ほうが早い、という感じかもしれません」


スポーツ界にコンサルティングのエッセンスは必要

「強化」「営業」というサッカークラブに欠かせぬ両輪が一体となっている現在の名古屋グランパス。その中で手腕を発揮する清水氏だが、いわゆるサッカー畑の人間ではない。灘高・東京大を経て、新卒でマッキンゼー・アンド・カンパニーにコンサルタントとして就職。その当時の経験が生きているという。


―― サッカー界でコンサル経験が生きることはありましたか?

 「例えば、マッキンゼーでは、クライアント企業の業界について、世界中の先端の知見を集めて、事業を改善するというアプローチをします。一方で、プロスポーツはまだ規模も小さな業界なので、アメリカでこんなことやっているよとか、ヨーロッパのサッカーチームはこんな取り組みをやっているよ、という知見がクラブ単位では意外と集まってきません。色々な知見を積極的に集めたいですし、良いものをグランパスでもやってみたいと思います。

 また、時代によって業界の環境が変わってくる中で、環境の変化に対応していくことも大事だと思います。Jリーグが開幕した当初のチケットの売れ方と、25年たった今とは、マーケティングの考え方も違うと思います。しっかりファンベースを広げて、その中で10回来る方、2回来る方、それぞれに違う施策をやっていかなければいけません。過去の経験に捉われず『ゼロベース』で考える、分析をするといった要素はコンサルタントとして培ってきた考え方の一つなので、そういったエッセンスは必要だと思っています」

世界最大のコンサルティング企業のマッキンゼーからサッカー界に足を踏み入れた清水克洋氏


―― そもそも、なぜサッカー業界に行こうと思ったんですか?

 「きっかけは本当に人のご縁です。マッキンゼー時代の先輩がMBA留学中に、サマーインターンで楽天イーグルスに関わられていて。そのご縁で当時のイーグルスの島田社長をご紹介いただいて、さらに三木谷会長にご紹介いただいてという流れです。

 当時はちょうど楽天がプロ野球に参入された時で、野球界の外からも人を集められて、プロ野球で新しいことをやるぞ、というタイミングでした。サッカーも、三木谷さんがヴィッセル神戸の経営権を取得されていたので、『サッカーでもそういうことはされるんですか』というような話をお聞きしたら、『クラブの人間とも色々話してみなよ』と。あれよこれよで、ヴィッセル神戸で働くようになりました」


―― スポーツ業界、特にサッカー業界をどんなイメージで見ていましたか?

 「今考えると恥ずかしい話ですが、当時はプロスポーツの中にビジネスの要素があることをあまり認識していませんでした。ヨーロッパのサッカーを見ていても、普通にテレビで試合が行われているという認識だけで。でもプロなので、当然ビジネスの話が入ってますね。マッキンゼーの先輩のサマーインターンの話をお聞きした時に、仙台の球場でチケット価格を上げたり下げたりすることでトータルのチケット収入が上がるという仕組みを、観戦者の調査をしながら論理的に設計し、チケット収入の最適化をされたという話を聞いて。その話で、コンサルティングの方法論がプロスポーツの中でも生きる可能性があるんだと初めて気づきました」


バルセロナには世界でトップクラスのビジネスマンが採用される


――「サッカー業界でやってやる」というよりは「自分の経験が力になるかも」という感じだったんですね。

 「ただ、私ももともとサッカーは大好きなので。今でも覚えているのが、一度神戸のスタジアムで試合を見てみようと。スタジアムのゲートを入って、コンコースからスタンドへの通路をくぐったところでパッと視界にスタンドが見えるじゃないですか。そこでスタンド一杯にたくさんのファンがいらっしゃって、ゴール裏からはすごい声で応援が響いていて。そこで『Jリーグすごい盛り上がってるんだ』『こんな興奮する空間ってあるんだ』と感じました。ここで何か役に立てることがあるんだったらやってみたい、そういうエモーショナルなものもありました。

 プロスポーツが身近ではなかったので、当時の同僚や先輩にも色々相談をしました。その中で面白いなと思ったことがあって。アメリカのMBAの卒業生っていわゆる有名企業に就職するんです。当時だと、金融、コンサル、あるいはアップルやグーグルもあったかも知れません。その中で、『ヨーロッパ出身のMBA卒業生に人気の就職先ランキング』のトップ10にFCバルセロナが入っていたんです。

 はっきり覚えていないですが、当時のバルセロナが400~500億の規模だったんじゃないかと思います。もともとプロサッカークラブがビジネスだというイメージはなかったんですが、言われてみれば、そういう規模感だとMBA卒業生にとっても、世界でトップクラスの企業と並んでサッカークラブも魅力的な場だし、そういうクラブもトップクラスのビジネスマンを採用しようとするんだな、と。アメリカやヨーロッパのスポーツだと既にそういう状況があります。ならば、Jリーグも成長していく、広がっていく過程で、自分のようなスポーツ・サッカーとは違った経験を活かせる可能性もあるのかなと感じました」


―― 加入当初は社長就任が既定路線ではなかったんですよね?

 「そうですね。クラブのいちスタッフとして事業の担当をしながら、2年目には経理・財務も見て。3年目から取締役として管理と育成の統括を務めていました。残念ながら2012年にクラブがJ2に降格することになり、そのタイミングで前任の社長が退任をされることになり、後を受けて社長を務めさせていただくことになりました」


―― 出世としてはかなり早いですね。

 「三木谷さんもあまり年齢を気にされないというか、そういう意味ではありがたい抜擢をいただいたと思います」


―― 三木谷会長にどんな仕事が評価されたという認識がありますか?

 「三木谷さんが何を評価してくださったかは、私は想像つかないですね(笑)。入社当初は、当時のクラブの専務に『色んな部門がやれていない、溢れた仕事をやってくれ』と言われていて。スタジアムのVIPシートを改修して売り出したり、神戸でFCバルセロナのサッカースクールをやったり。チケットやスポンサー、運営といったそれぞれの部門の枠に入らない仕事をプロジェクト的にまとめてやってくれと。その後は管理・育成の統括でしたので、クラブ全体の予算を見つつ、編成の配分を見たり、育成と強化をどう連携するかとか。色々な仕事をさせていただきましたが、何を評価していただけたかというと、それはわかりません」


社長退任、再びコンサルの道へ

2013年、清水氏が社長に就任した神戸は無事に1年でのJ1復帰を決めた。だがさらに1年後の15年、クラブが正式に楽天のグループ会社になったことで役割は完了。コンサル会社「フィールドマネジメント」に移り、経営コンサルタントの立場からスポーツに関わる業務に取り組んだ。


―― フィールドマネジメントではどういった仕事をしていましたか?

 「サッカークラブとは立ち位置が違って、再びコンサルタントという役割になりました。当時、Jリーグの成長戦略の検討をご一緒にさせていただいたり。クラブと違うアングルでスポーツビジネスに関わる機会をいただけた2年間でした」


―― その際「スポーツと経営を近づける」という言葉を口にされていたようですが、それは具体的にどういったことですか?

 「スポーツですので勝った負けたがある中で、いかに再現性を持って強いチームを作れるクラブにしていくかが大事で、難しいところだと思います。どうやったらチームが絶対に勝てるかを知っている人は、世界中どこにもいないと思います。ただ、クラブが成長しながら、毎シーズン良いチーム・強いチームを再現できる可能性を高めていくこと、その確率を上げていくことがクラブ経営の仕事じゃないかと思います。

 Jリーグも50クラブそれぞれ株主・親会社がいらっしゃって、運営会社があって、現場のチームがある構造になっています。皆さん、いろいろ試行錯誤されていると思います。入場者数もそうですが、不確実なものが多くある中で、クラブが成長し世界のクラブと戦えるクラブになること、そういうテーマをチームの現場だけでもなく、フロント・経営陣だけでもなく、クラブ一体となってやっていく、そこを当時はコンサルタントとしてご一緒したい、そういう意味で言っていました」


DAZNはJリーグの歴史で大きな節目


―― その後、2017年に名古屋グランパスに入る形となりましたが、外から見ててどういうイメージでしたか?

 「ビッグクラブで、トヨタ自動車のご支援もあって、愛知県・名古屋市という大きな経済圏をベースとしたクラブという印象でした」


―― 名古屋に行ってどういうことをやろうと考えていましたか?

 「フィールドマネジメントでJリーグとご一緒していた中で、当時の成長戦略として、一つ大きな領域はデジタル放送ですね、という議論をしていました。放送・通信の環境が変わってくると大きな放映権収入の可能性がある、という話をしていて。DAZNとの放送権契約はJリーグの25年の歴史の中でもかなり大きな節目だと私は思っています。Jリーグは52クラブでどんどん裾野が広がり、日本のそれぞれの地域で根付いてきています。一方、ヨーロッパや中国、アメリカも、リーグのピラミッドの裾野だけでなくトップの高さもどんどん上がっているので。Jリーグも、そこがもっと上がっていかないといけないと思います。

 その中で、この10年間でそういうトップを押し上げる役割をできる可能性があるクラブの一つがグランパスだと思います。そこでそういうクラブのチャレンジを一緒にやりたい、自分もクラブの中で何か貢献したい、というのがグランパスに入った理由です」


次の目標は「『シャチの祭典』でスタジアムの盛り上がりを地域の盛り上がりに」


―― コンサルタントの頃はいろんな立場があったでしょうが、クラブのために働くというのはやっぱり気持ちいいものですか?

 「そうですね。やっぱり純粋に自分たちのチームが勝ったら嬉しいですし、チームが勝った時にスタジアムが一体になって盛り上がる雰囲気になるのを見ると、クラブにいる自分にとってはすごく嬉しいタイミングです」


―― そんな場面が多く見られる今年のグランパスですが、今後は具体的にどういうことをやりたいですか?

 「社内では仮称『シャチの祭典』で企画しているのですが、今年の8月11日の企画をもっと拡大してやりたくて。一つのモデルとして、福岡ソフトバンクホークスさんがやっている『鷹の祭典』を、名古屋で実現したいと話しています。考え方としては、スタジアムが満員にという話と、ホームタウンに密着して街が盛り上がるという話を、一緒につくるというイメージです。

 今年の『鷹の祭典』をクラブスタッフと視察に行ったんですが、ヤフオクドームは本当に盛り上がっていました。6試合ヤフオクドームでやれば全部の試合が満員で、20万人以上の方がいらっしゃる。来場者の半分は女性で、球団や地元の方にお話をお聞きしていると、福岡の女性が『今日何する?』という選択肢の中に普通にホークスが入ってくるそうです。それほど生活に根付いていて、街が盛り上がってるのはすごい。

 グランパスの8月11日のユニフォーム企画を、さらに街の盛り上がりとつなげていきたい、試合数や入場者数の規模感的にもプロ野球はJリーグの3倍くらいと言われていますけど、その間をどんどん詰めていきたい、と思います。一方で、サッカーはプロ野球とはまた違った切り口でホームタウン活動に力を入れている部分もあるので、企画の中で、違った角度でも地域の盛り上がりをつくれないかなと。ホークスさんの企画をモデルにしながら、彼らがやっていないことも足しながら、街を盛り上げて、スタジアムを盛り上げて、グランパスをきっかけに楽しんでいただくということをやりたいと思っています」


―― 街の中も盛り上がっているのはすごいですね。

 「博多駅近くにある三越の入口にライオンの像があって、そのライオンもホークスのユニフォームを着ているんです。『鷹の祭典』の企画に地元の企業が400~500社協賛されていて。街中にもユニフォームをモチーフにした広告や球団のカラーが出ていて、百貨店の案内所の女性もホークスのユニフォームを着ていて。『鷹の祭典』の時期だという雰囲気でしたね」

『シャチの祭典(仮)』やりたい!と、笑顔で語る清水氏


―― グランパスはここ2~3年で集客面で成果が出ていて、野球の話で言えば広島カープと同じような道を歩み始めていると感じています。特にフロントとチームが連動しているという点が目立ちます。そのあたりの手応えはありますか?

 「そうなりたいですし、そう感じていただけていたらありがたいです。

 毎試合、スタジアムのビジョンでその日の来場者数を出すんですけど、8月11日の4万3579人の試合では、来場数のアナウンスが流れた瞬間に、スタジアム全体がどよめいたんですよ。多分サポーターの皆さんも『本当に4万人いくかな』『4万人のスタジアムで応援したい』と思ってくださっていたんじゃないかと思います。蓋を開けると、4万人をさらに上回るご来場で。数字が出た後、ゴール裏から、バックスタンドもメインスタンドも、スタジアムの応援の一体感がぐっと高まった感じがしました。試合も、一度追いつかれて同点になっていたんですが、そこから勝ち越しのゴールが決まって、4対2の勝利になりました。スタジアムにいらっしゃった皆さんの力が束ね合わさり、チームが勝ったような感触を持ちました。

 スタジアムの雰囲気、応援のパワーはチームのパフォーマンスにも影響すると思います。我々フロントとしては、サポーターの皆さんと一緒にそういう雰囲気をもっとたくさん作っていかないといけない。対戦相手にとっても、豊スタでやったら、瑞穂でやったら、すごいプレッシャーを感じるみたいな、そういう雰囲気にしていただける土壌を整えていかないといけないですね。

 風間監督も小西社長も、街の盛り上がり、スタジアムの盛り上がり、チームの盛り上がりという要素で捉えています。なおかつ、一番始めはチームが強くて面白いサッカーをすること、そこもズレていないので。今シーズンは昨年ブラジルリーグ得点王のジョー選手が加入してくれて、ジョーをはじめとする高いレベルの選手がこれまでに見たことがないプレーを見せてくれる。そして、チームとして見て楽しいサッカーをしてくれる。そういったチーム作りをベースに、スタジアムや街中ももっともっと盛り上がっていく。そんなクラブ作りが、中長期の揺るがないコンセプトだと思います」


Edition: Tatsuya Takeuchi
Photos: Mai Kurokawa

Profile

池田 タツ

1980年、ニューヨーク生まれ。株式会社スクワッド、株式会社フロムワンを経て2016年に独立する。スポーツの文字コンテンツの編集、ライティング、生放送番組のプロデュース、制作、司会もする。湘南ベルマーレの水谷尚人社長との共著に『たのしめてるか。2016フロントの戦い』がある。