EL GRITO SAGRADO――聖なる叫び
8月15日にカンプノウで開催されたジョアン・ガンペール杯。1966年から毎年8月にバルセロナが国内外のクラブを招待して行われているもので、今年はボカ・ジュニオールが出場した。アルゼンチン勢としては2008年以来で、その時もボカが参戦。リーベルプレートと国内の人気を二分するビッグクラブにとって10年ぶりのバルサ戦は大々的に宣伝された。
どれだけ大々的かというと、試合を中継するテレビ局はもちろん、他局のサッカー番組でも盛んに報じられ、前日の練習風景をFacebookで完全ライブ中継した局もあったほど。ブエノスアイレスの街なかにはポスターがあちこちに掲示され、私の自宅から3ブロック(約350m)先のスーパーまでの道程にも3カ所に貼られていた。中継がペイパービューだったことも一因だろうが、それでも非公式の一戦がこれほど宣伝されるケースは、私がここに住み始めてから30年の間にはなかったように思う。スペインメディアもボカの前日練習が行われたバルセロナの施設「シウダ・デポルティーバ」に集うアルゼンチン報道陣の数には驚嘆していたようだ。チームに帯同したボカ専属フォトグラファーの夫が地元メディアから聞いた話では、2カ月半前にアルゼンチン代表がロシアW杯の事前キャンプで同地を訪れた時の倍はいたということだった。
「カップの王様」はいまや…
サポーターによるクラブへの忠誠心がサッカー人気を支えているアルゼンチンにおいて、ボカの話題性が代表チームを上回る事態そのものはさほど意外ではないが、今回の注目度は異様だった。その理由はやはり、この国のクラブとサポーターたちの「国際タイトルへの執着心」にある。
アルゼンチンでは国際タイトルのことを俗称で「コパ」(カップ)と言い、多くのタイトルを獲ったチーム、またはタイトルの懸かった試合でほぼ必ず勝つ強さを持つチームは「コペーロ」と呼ばれる。インデペンディエンテが今年のスルガ銀行杯でセレッソ大阪に勝って国際タイトル獲得数を18とし、南米大陸における最多記録を保持していたボカに追いついて「レイ・デ・コパス」(カップの王様)の肩書きを取り戻し、リーベルが14~16年に5つの国際大会で優勝を果たしている一方、ボカは08年のレコパ・スダメリカーナ以来、国際タイトルから遠ざかっている。今回のバルサ戦は非公式のためコパの一つには数えられないが、それでも「国際的なカップ戦」であることに変わりはない。しかもリーベルが一度も招待されたことのない大会となれば、ボカのモチベーションが高まるのも当然。そして、ボケンセ(ボカファン)の意気込みに国内メディアも便乗したというわけなのだ。
残念ながら試合は3-0の完敗に終わったが、ボカとしてはここでめげている暇はない。今年最大の目標であり「公式な」コパであるリベルタドーレスの優勝に向けて前進するのみだ。(編注:ボカは見事リベルタドーレス決勝に進出。対戦相手はなんと、最大のライバルであるリーベル。史上初となるスーペルクラシコ・ファイナルが実現した)
Photos: Javier Garcia Martino/Photogamma, Getty Images
Profile
Chizuru de Garcia
1989年からブエノスアイレスに在住。1968年10月31日生まれ。清泉女子大学英語短期課程卒。幼少期から洋画・洋楽を愛し、78年ワールドカップでサッカーに目覚める。大学在学中から南米サッカー関連の情報を寄稿し始めて現在に至る。家族はウルグアイ人の夫と2人の娘。